~温暖化時代の心得~ 携帯扇風機(ハンディファン)と目の健康
コンタクトレンズ・スマホ使用中は特に注意!― 乾燥・瞬目低下が重なります
朝夕にようやく涼しさを感じるようになりましたが、今年の夏も長い猛暑が続きました。街を歩くと、ハンディファンを手にしている人を多く見かけます。小型で持ち運びやすく、歩きながらやスマホを見ながらでも使えるハンディファンは、もはや夏の必需品になりつつあります。
ただし、体温を超える暑さの中での使い方には注意が必要です。使い方を誤ると、体温の上昇や脱水を招き、熱中症リスクが高まると報じられています。さらに最近では、ハンディファンがドライアイを悪化させる可能性が指摘されています。ここでは眼科医の立場から、ハンディファンが目に与える影響と安全に使うためのポイントを解説します。
ハンディファンが角膜に与える影響とは

風が角膜に当たると、角膜を守っている涙が急速に蒸発します。研究では、風が強くなるほど涙の膜が早く壊れ、目が乾きやすくなることが分かっています。
*参考文献:TFOS Lifestyle Report: Impact of environmental conditions on the ocular surface
実験では、ハンディファンを顔にたった1分間当てただけで、涙の保持時間が半分以下になり、目が乾いたと感じる人が多かったという報告もあります。長時間使用すると、「ゴロゴロする」「かすむ」「充血する」といったドライアイ症状が出やすくなる可能性があります。
*参考文献:ハンディファンと角膜の関係性
ハンディファンの風速はどれくらい?
日本製のハンディファンは、最大風速4〜6 m/sほどが一般的です。海外製ではさらにパワフルなモデルもあり、10 m/s級の風を発生させるものもあります。10 m/sといえば、木の枝が大きく揺れ、傘がさしにくくなるほどの強さ。自転車で走っているときに顔に当たる風と同じくらいです。
さらに、顔との距離で風の強さは大きく変わります。顔に近づけると最大風速になり、20〜30cm離すと風速は半分以下になります。目の負担を減らすには、なるべく離して使うことがポイントです。
目に危険な風速の目安は?

目の安全を考えたとき、7 m/s以上の風は要注意です。7 m/sの風に10分間さらされるとドライアイが悪化するという報告があります。
ある国の農業現場の調査でも、作業時の安全基準として7 m/sが上限と提案されています。
ただし、7 m/s未満でも長時間当て続けるとドライアイは進行します。つまり、「風速」と「当てる時間」どちらも意識することが重要です。
ドライアイを悪化させる「三重苦」
現代の生活では、ドライアイになりやすい条件が重なっています。
特に次の3つが同時に起こると、目は強い乾燥ストレスを受けます。
ドライアイ悪化の「三重苦」

- スマホの長時間使用
まばたきが減り、涙が蒸発しやすくなる
- コンタクトレンズ装用
レンズ表面が涙を不安定にし、目が乾きやすくなる
- ハンディファンの風
涙の蒸発が加速する
【ドライアイについて詳しく知る】
IT眼症「まばたきの異常で目が乾く」~①ドライアイ編~
時代を映し出すコンタクトレンズ診療パート1
*参考文献:TFOS Lifestyle Report: Impact of environmental conditions on the ocular surface
体温以上の風は未知のリスク
猛暑日こそハンディファンを使いたくなりますが、体温以上の熱風には注意が必要です。皮膚は血流や汗で体温調節できますが、日本の夏は湿度が高く汗が蒸発しにくいため、体温が下がりにくく熱中症リスクが高まります。
目の場合はさらに冷却機能が乏しいため、涙が蒸発すると角膜表面の温度は外気温に近づき、40℃近くまで上がる可能性があります。
角膜の深部は40℃を超えると組織がダメージを受ける恐れがあるとされており、角膜表面でも一時的にかすみや異物感が出る可能性があります。はっきりした研究結果はまだありませんが、体温以上の風を目に直接長時間当てることは避けるのが無難です。
皮膚に当てた場合
皮膚は、毛細血管と汗による冷却効果があるため、どんどん皮膚温が上昇して低温やけどになることはありません。しかし、体温を超える猛暑日にハンディファンを長時間使うと、条件によっては熱中症リスクを高める方向に働くと考えられています。日本の夏は湿度が高いため、汗が蒸発しにくく、体温を下げる冷却効果が低下します。この状態で体温を超える熱風を長時間浴びると、皮膚温はある程度上昇し、深部体温も下がりにくくなります。すると、視床下部は体温を下げようとしてさらに発汗を促しますが、汗は蒸発しにくいため、冷却は追いつかず、水分と電解質の喪失だけが進行します。結果として、発汗の限界に早く達し、皮膚血流や発汗機能が低下して深部体温が急上昇し、熱中症のリスクが高まると考えられています。湿度の高い日本の夏では、ハンディファン単独での冷却効果は限定的であり、濡れタオルやミスト、こまめな水分補給との併用が重要とされています。
目の場合
目の場合は、体温を超える熱風を長時間当てた研究報告は見当たりません。可能な範囲で推察をしてみたいと思います。
まず、ドライアイをさらに悪化させることが考えられます。ドライヤーを想像するとわかりやすいかもしれません。常温の風よりも高温の風の方が髪の毛は速く乾きます。ドライヤーほど高温ではないにしても、真夏日のハンディファンの風は目の表面を守る涙液をどんどん蒸発させます。すると、本来涙で覆われて保護されている角膜表面が直接熱風にさらされることになります。しかし、角膜には血管がなく、皮膚のように血流による冷却ができません。また、角膜は汗をかくこともできず、汗の蒸発による冷却もできません。このため、角膜表面の温度は外気温に近づき、場合によっては40℃に上昇してしまう可能性があると考えられます。
角膜温が40度になると角膜はどのような影響を受けるでしょうか?明確な答えを見出すことはできませんでしたが、レーシックが参考になります。レーシックで使用するエキシマレーザーでは、角膜の中身(角膜実質)の温度が40度を超えると角膜をつくっているコラーゲンが熱変性をおこす可能性があるため、40度を安全リミットとする考え方があります※。角膜実質は、再生しないため安全域を厳しく設定していると思われます。
一方、角膜表面にある上皮細胞は、乾燥しただけでも、表層の細胞が脱落しやすい反面、再生力が高いため、ダメージを受けても治りやすい部位です。とはいえ、一時的に、異物感、流涙、かすみなどの症状が出ます。つまり、角膜表層の温度が40度になるとドライアイの症状が高まる可能性があります。日常のなかで角膜が40度になりうる状況と言うのは、これまでほとんどなかった未知の領域です。はっきりしたことがわかるまでは、避けた方が無難と言えます。
目にやさしいハンディファンの使い方

では、ハンディファンを安全に使うための工夫を、目の健康の観点からまとめてみます。
- 目に直接当てない(首元や頬に当てる)
- 顔に近づけすぎない(20〜30cm以上離す)
- 使用部位をこまめに変える(首→顔→腕など)
- 長時間の連続使用は避ける
- 屋外ではサングラスを活用して風から目を保護
まとめ
ハンディファンは夏の必需品ですが、風速・距離・時間に注意しないと、目の乾燥やドライアイを悪化させる可能性があります。特に、スマホ使用中やコンタクトレンズ装用中はリスクが高まります。
正しい使い方を知り、目にやさしい風の浴び方を心がけましょう。これも「温暖化時代のセルフケア」のひとつです。
この記事を執筆した医師

株式会社Personal General Practitioner代表取締役社長/医学博士・眼科専門医
板谷 正紀
京都大学医学部卒業。以後20年間、京都大学および米国ドヘニー眼研究所で網膜と緑内障の基礎研究と臨床、手術に取り組む。 京都大学では眼底の細胞レベルの生体情報を取得する革新的診断機器「光干渉断層計(OCT)」などの開発と普及に貢献する。 複数の産学連携、医工連携プロジェクトを企画推進し、2003年文科省振興調整費「産官学共同研究の効果的推進」に選ばれる。 医師でのキャリア35年。増殖糖尿病網膜症や増殖硝子体網膜症、緑内障などの難症例の手術治療を得意とする。
英語論文148報(査読あり)
著書『OCTアトラス』、『OCT Atlas』、『Everyday OCT』、『Myopia and Glaucoma』、『Spectral Domain Optical Coherence Tomography in Macular Diseases』
株式会社Personal General Practitioner(PGP)https://pgpmedical.com
