近視から派生する眼の疾患を知る
近視の進行予防とは
近視は強度になるとメガネやコンタクトレンズのわずらわしさや費用が問題になるだけではなく、失明につながる眼の病気が起こりやすくなります。まだまだ知られていない社会的問題です。近視が強くなると眼の奥行きが伸びすぎて眼球壁が引き延ばされるため、水晶体から眼底まで負担がかかり、さまざまな眼の病気が起こりやすくなります。
強度近視になると、白内障は5倍、緑内障は14倍、網膜剥離は22倍、近視性黄斑症41倍なりやすいと報告されています。さらに、強度近視のなかには、40歳を越えたくらいから、眼の後方が凹んでいき、視機能に重要な黄斑と視神経の障害が生じることがあります。
ここでは、近視で起こりやすい眼の病気を知っていただくことで、成人の方であれば眼科検診により早期発見の可能性を高められたらと思います。学童の子供をお持ちの方は、子の近視が強くなりすぎると目の病気や不便さにより人生に影響が出るリスクがあることを知っていただき、近視進行予防に取り組む動機としていただきたいと願います。
緑内障
緑内障は、目から脳へシグナルを送る電線の働きをしている「神経線維」が速く減り、視野が欠けてくる病気です。近視が強い目では、数倍緑内障になりやすいことがわかっています。
目の中のすべての神経線維は視神経乳頭に集まり、目の外へ視神経として脳まで伸びています。近視が強くなると、この神経線維の出口である視神経乳頭が変形し、神経線維を眼圧から守る機能が弱くなると考えられています。
近視が強い方の緑内障は、比較的若年から視野が欠けてくることがあり早期発見が必要です。しかし、近視による視神経乳頭の変形があるため緑内障による初期変化を見つけることが難しいという問題があります。
強度近視の方は、可能なら30代で緑内障の精密検査を受けていただくことをお勧めします。
近視性視神経症
強度近視の眼の90%は、40歳を過ぎてから眼球の後ろの部分に「後部ぶどう腫」と呼ばれるくぼみが形成されていきます(図)*。つまり、大人の目で眼球の後ろが引き延ばされていきます。
このため、神経線維も引き延ばされてダメージを受けて減少し視野が欠けていくことがあります。この状態を「近視性視神経症」といいます。
40歳以前の後部ぶどう腫径線前の年齢で、眼軸伸長に伴う視神経乳頭の変形が関与するのが「緑内障」。40歳以降に、後部ぶどう腫形成に伴う視神経乳頭、およびその周辺組織の変化が関与するのが「近視性視神経症」と考えても良いでしょう。
このように緑内障と近視性視神経症は、神経線維障害のメカニズムが異なるため区別されますが、両方関わることもあると考えられています。
*Hsiang HW, Ohno-Matsui K, et al. Am J Ophthalmol. 2008;146(1):102-110.
白内障
白内障は水晶体が濁り視力が低下する病気です。多くの白内障は高齢になって生じる加齢性白内障ですが、強度の近視の方は、白内障の進行が30代や40代など比較的若い年齢で起こることがあります。
特徴的なのは、白内障の進行とともに近視も進むことです。この場合、メガネやコンタクトレンズの度数を強くしたのに、次の年には合わなくなるようなことが起こります。もし、このようなことを経験したら、白内障かもしれないと疑って眼科で検査を受けましょう。
強度近視の白内障は、水晶体の核が濁るタイプです。核が濁ると光を屈折させる力が強まります。これが近視が進む理由です。
治療は白内障手術になります。手術のメリットは、視力が回復するだけではなく強度近視という不便な屈折異常も治せることです。遠く、あるいは目先30cmのスマホ距離に合わせるとメガネなしで、その距離が見えるようになります。デメリットは、一気に老眼になることですが、多焦点眼内レンズを選べば軽減できます。
網膜剥離
網膜剥離は、網膜に孔が開いて目の中の水分である硝子体液が孔から網膜の裏側に流入し、網膜が剥離する病気です。網膜剥離は広がっていき、網膜の中心部の黄斑が剥離すると視力が障害されます。治療で治さないと重度な視力障害になり失明します。
若年期に小さな丸い孔(網膜円孔)が開いてゆっくり進むパターンと、中高年期に裂けたような孔(網膜裂孔)が開いて急速に進むパターンがあります。近視が強くなると網膜が強く引き延ばされて薄くなるため、網膜円孔や網膜裂孔が形成されやすくなります。
若年期の網膜剥離は進行が遅いため、慌てる必要がありませんが、逆に中心部まで広がらないと気がつきにくい傾向があります。近視が強い方は、一度円孔が開いていないか眼底検査を受けていただくとよいでしょう。
中高年期の網膜剥離は、近視の強い方では30~40代のより若い年齢で発症することが多く、急な飛蚊症を自覚したらすぐ眼底検査を受けましょう。
黄斑疾患
強度近視の眼の90%は、40歳を過ぎてから眼球の後ろの部分に「後部ぶどう腫」と呼ばれるくぼみが形成されていきます(図)*。このため、40歳を過ぎても眼軸長が伸び続け、近視がさらに強くなっていきます。
眼球壁は内から「網膜」「脈絡膜」「強膜」の3層から成ります。後部ぶどう腫の中では、この3層が引き延ばされて薄くなっていくため、黄斑の恒常性が保てず、さまざまな黄斑の病気を引き起こすリスクが高まります。
後部ぶどう腫の中で起きる黄斑の病気を総称して「近視性黄斑症」と言います。近視が強い方は、40歳前後で眼底や黄斑の状態を把握しておくことが大切です。
*Hsiang HW, Ohno-Matsui K, et al. Am J Ophthalmol. 2008;146(1):102-110.