近視の進行にブレーキをかけるコンタクトレンズが国内承認
ワンデーコンタクトを付けるだけで
50%を超える近視抑制効果
昨年末に近視の進行にブレーキをかける目薬が承認されましたが、今度は、近視の進行にブレーキをかけるワンデーコンタクトが承認されたとのニュースが飛び込んできました。しかも、効果は目薬よりも高いとのこと。
この10年、世界では、「なぜ近視になるのか?」という問いに対する研究が活発になり、驚くべき成果が生まれてきました。そして、近視の進行にブレーキをかけるための子供のライフスタイルのありかたが明らかにされてきました。また、近視にブレーキをかける予防医療の実現のために、目薬、メガネ、コンタクトレンズ、オルソケラトロジーなど多様なアプローチが試みられ、その数は10を超えています。
日本国内では、これまで目薬とオルソケラトロジーが受けやすい予防治療として定着していましたが、そこに第3の選択肢としてクーパービジョン社のマイサイトワンデーコンタクト(MiSight® 1 day)が登場したのです。
マイサイトの登場で、こどもの近視予防医療はどう変わっていくのでしょうか?最新情報と今後の展望について、本ブログで詳しく共有していきます。
ワンデーコンタクトをつけるだけで近視の進行にブレーキがかかる

厚生労働省の専門部会で7月に承認されたクーパービジョン社のマイサイト®ワンデー(MiSight® 1 day)は、8~12歳のこどもが用いた場合、従来のコンタクトレンズのように近視を矯正できるうえに、近視の進行を50%以上抑えることが示されたワンデーコンタクトです。つまり、今までコンタクトレンズは早すぎると考えられていた小学生が、ワンデーコンタクトで近視を矯正できるうえに、近視の進行にブレーキをかけることもできるというものです。いいことづくめですね。
マイサイト®ワンデーの秘密~なぜいいことづくめなの?

マイサイト®ワンデーは、コンタクトレンズの面を近視矯正エリアと近視予防エリアに分けています。近視矯正エリアは、従来のコンタクトレンズと同じ役割でピントを網膜面に合わせます。近視予防エリアは、ピントを近視側、すなわち網膜の少し手前に合わせています(「近視性デフォーカス」といいます)。この近視予防エリアが近視性デフォーカスだと、なぜ近視は予防できるのでしょうか?実は、これこそが、近視進行の鍵となる話題の「デフォーカス理論」なのです。
トピックス:「デフォーカス理論」
「近視を進める遠視性デフォーカスと近視にブレーキをかける近視性デフォーカス」

目の「デフォーカス」とは、ピントが網膜からずれていることです。近視とはピントが網膜の手前で結ぶこと、遠視とはピントが網膜の後ろに結ぶことでしたね※。網膜に遠視性のデフォーカス、すなわち、網膜の後ろにピントが合う状態が続くと、網膜がそのピントを追いかけるようにして目が伸びて近視が進行しやすくなると考えられています。逆に、近視性のデフォーカス、つまり網膜の手前にピントが合う状態が続くと網膜はピントから離れまいとして眼軸の伸びにブレーキがかかり近視進行が抑制されることがわかってきました。この近視性のデフォーカスをレンズ面に加えたことが、マイサイト®ワンデーの秘密なのです。目はピントを追いかけるように成長することを応用したコンタクトレンズともいえます。
なぜメガネや通常のコンタクトで遠視性デフォーカスになるのか?

では、メガネや通常のコンタクトレンズが目に合っていて良く見えていれば、ピントは網膜上にあるはずで、デフォーカスは無いはずです。それなのに、なぜメガネやコンタクトレンズでは、近視が進んでしまうのでしょうか?その答えは、メガネやコンタクトレンズは網膜の中心ではピントが合っているが、網膜の周辺部はピントが網膜の後ろに来てしまい遠視性デフォーカスになることにあります。
※近視ってなに?
マイサイト®ワンデーが使用できるこどもは?
現段階では、効果が見込めるために次のような適応条件がついています。
- 治療開始時に年齢が8~12歳
- 屈折度数が-0.75~-4.00ジオプトリー(等価球面値)
- 乱視度数が0.75ジオプトリー以下
- 病的眼ではない小児
世界で証明された近視抑制効果

マイサイト®ワンデーは世界では先行して効果と安全性が実証され使用されていました。
クーパービジョン社(アメリカ合衆国・カリフォルニア)のコンタクトレンズMiSight® 1 dayは、2019年11月18日に米国食品医薬品局(FDA)の承認を受け、2020年に米国発売となりました。現在、マイサイト®ワンデーは、米国、カナダ、英国、フランス、スペイン、ポルトガル、オランダ、ベルギー、ドイツ、オーストリア、スイス、北欧地域、チリ、イスラエル、シンガポール、マレーシア、香港、オーストラリア、ニュージーランドで承認されています。
どれくらいブレーキがかかるの?
3年間ピアレビューの結果としてMiSight® 1 dayの使用が近視の進行を50%以上抑制することが報告されました。詳しくは、調節麻痺下での平均等価球面屈折値[SE]は59%、平均眼軸長伸展量は52%の抑制効果が報告されています。さらに、4年目および5年目にも有望な結果が報告され、長期的な効果が認められました。
マイサイト®ワンデーはリバウンドが少ない
近視進行予防治療で気を付けないといけないことのひとつにリバウンドがあります。リバウンドとは、近視進行抑制治療を中止した後に、近視が急速に進行する現象です。成長期の子どもにおいて、抑制していた分の「反動」が出ると考えられています。特に、リジュセアミなどの低濃度アトロピン点眼はリバウンドが強いと考えられています。このため10代後半まで使用が望ましいという考えがあります。オルソケラトロジーも、特に14歳以下の年齢でリバウンドが起こりやすいと考えられており15歳まで継続使用が望ましいとされています。それに対して、マイサイト®ワンデーは、リバウンドが少なく、あっても軽度と考えられています。
小学生(12歳以下)でコンタクトレンズ使用って安全性は大丈夫なの?

8歳から12歳、つまり小学生からコンタクトレンズを使用することに不安を感じるご両親もおられることでしょう。特に、8歳となると心配ですね。
以前は、コンタクトレンズは中学生からという漠然とした年齢制限がありました。コンタクトレンズは高度管理医療機器であり、正しい知識と管理が必要であるからです。懸念されていたことは以下の通り。
- 装用ルール順守や衛生管理の不十分さによる角膜感染症や巨大乳頭結膜炎のリスク
- 自己申告能力の不足による異常時対応の遅れ
このなかで、特に懸念が強いのは、コンタクトレンズのケア(管理衛生)や装用ルールを守れないことによる角膜感染症や巨大乳頭結膜炎などの目の重大なトラブルでした。
しかし、最近では、コンタクトレンズの低年齢化が進んでいます。その背景には、サッカーやバスケットボールなどのスポーツでメガネが邪魔になることや、小学生でも強度の近視の子が増えメガネでは不便であることなど必要性が高まっていることがあります。これに加えて、管理不要のワンデーコンタクトの品質が向上するなど製品の安全面向上などの素地が整ってきていることもあるでしょう。
今回の、アイサイトはワンデーコンタクトであることから厳密なケアが必要な2Wコンタクトに比べ小学生でも安全に使えます。そして、実際、クーパービジョン社が行った3年間の大規模臨床試験(発表は2019年、平均開始年齢10歳)では、重大な副作用や合併症の発生はほぼ皆無と報告されました。さらに日本国内でも同様の治験が行われ、小学生でも安全かつ有効に使用できることが医学的に再確認され薬事承認が下りたという経緯があります。
ただし、小学生の使用に当たっては、次の条件が満たされる必要があります。
- 装着・脱着を自分で行い、装用ルールを守れること
- 保護者によるサポートや管理が可能なこと
- 定期的な眼科受診ができること
日本で使用できる近視進行予防治療の選択肢が増えた

これまで日本では、「低濃度アトロピン」と「オルソケラトロジー」が近視進行予防治療として選べる選択肢でした。両者を併用することで、単独よりも高い抑制効果が得られることも示されてきました。
低濃度アトロピン」は、これまでシンガポールの『マイオピン(MyopineTM)』の並行輸入品が用いられてきましたが、今年になり国産、すなわち参天製薬の『リジュセア®ミニ点眼液0.025%』が使えるようになりました※。そこへ第3の選択肢として、マイサイト®ワンデーが登場したことになります。
何をどう選ぶ?
選択肢が増えるのは良いことですが、逆に何をどう選択すればよいのか迷われる方が多いでしょう。選択のための4つの着眼点を挙げてみます。
① 予防効果の機序の点で考えると
マイサイト®ワンデーとオルソケラトロジーが効く機序は同じです。それは先述しました近視進行刺激を与える遠視性デフォーカスを抑えることにより近視進行にブレーキをかけます。一方、リジュセア®ミニ点眼液は、この2つとは異なり薬理作用で効くと考えられています。このことから、リジュセア®ミニ点眼液は、作用の異なるマイサイト®ワンデーまたはオルソケラトロジーと組み合わせることで、単独使用よりも効果が高まることが期待できます。もちろん、それぞれの単独使用も選択肢になります。
② 効果の強さで考えると
リジュセア®ミニ点眼液0.025%は、日本での治験の結果では2年間で屈折ベースにおいて約38%の抑制効果を認めました。一方、マイサイト®ワンデーとオルソケラトロジーは、ともに50%を超える抑制効果が報告されています。では、マイサイト®ワンデーとオルソケラトロジーのどちらの効果が高いかですが、直接比較した研究がないためはっきりはしません。しかし、ほぼ同等と考えられています。実は、低濃度アトロピンも、濃度を0.05%に高めると50%程度の抑制効果が認められるようですが、散瞳によるまぶしさや近くがぼやけて見える症状がでる学童が増えると報告されています。このためリジュセア®ミニ点眼液は、0.025%を選択したのでしょう。
Which myopia treatment works best?
③ リバウンドで考えると
先述したようにリジュセアミニとオルソケラトロジーはリバウンドを警戒する必要があります。様々な理由により途中でやめる可能があると思いますが、せっかく抑えていた近視進行が、途中でやめると進んでしまうリスクが高いからです。リジュセアミニとオルソケラトロジーを始めるなら、長く続けることを前提に始める必要があるといえます。マイサイト®ワンデーは、リバウンドのリスクが小さいため、やめやすいといえます。
④ 使いやすさで考えると
リジュセア®ミニ点眼液は、寝る前に1回点眼するだけですから、よほど目薬が嫌でなければ、容易で始めやすい治療法と言えます。
一方、マイサイト®ワンデーとオルソケラトロジーは、いずれもコンタクトレンズですが、その装用感や導入のしやすさ、安全性や日常生活への適応のしやすさはマイサイト®ワンデーに軍配が上がります。
マイサイト®ワンデーは、日中に装用するソフトコンタクトレンズの使い捨てタイプで、素材が柔らかいため、初めて使う子どもでも違和感が少なく快適に装用できます。脱着も比較的簡単で、使用後はそのまま捨てるだけのため、管理がシンプルで衛生的です。装着や取り扱いも練習すれば習得しやすく、小学校低学年の児童でも家庭でのサポートがあれば導入しやすいという特徴があります。
一方、オルソケラトロジーは、夜間就寝中に装用するハードコンタクトレンズです。装用初期には異物感があり、慣れるまでに時間がかかる場合が多いです。また、使い捨てではないためハードレンズの扱いや洗浄には注意が必要であり、小児にはややハードルが高く、保護者の積極的な関与が不可欠です。
ご家庭に合った近視進行抑制法の選び方
〜点眼・コンタクト・オルソの比較とアドバイス〜
ご家庭やお子さんにより選択肢はさまざまと思います。状況に応じて主治医と相談してベストマッチをお選びいただければと思います。いくつかのケースを想定したおすすめ提案をしてみます。
- 近視進行に最大限にブレーキをかけたいというご家庭は、リジュセア®ミニ点眼液とマイサイト®ワンデーあるいはオルソケラトロジーの併用がお勧めです。マイサイトとオルソケラトロジーのどちらを選ぶかは、ご家庭とお子さんの好みによると思います。昼間はメガネもコンタクトレンズも何も付けたくない場合はオルソケラトロジー、寝るときにコンタクトは付けたくないが昼間コンタクトはOKという場合はマイサイト、という感じです。
- 近視の進行が極めて速いお子さんの場合(1年間で近視が−1.00D以上進行した場合、または眼軸長が1年で0.3mm以上の眼軸延長を認める場合)は、単独治療では不十分なことがあり、併用治療が望ましいこともあります。
- もし、途中でやめる可能性がある場合は、リバウンドの少ないマイサイト®ワンデーが良いでしょう。
- 試してみたけど目に何かを付けるということになかなか慣れることができないお子さんの場合は、リジュセア®ミニ点眼液一択でも良いでしょう。
- 一方、どれも自費診療ですので、費用やコストパフォーマンスも重要なポイントです。残念ながら、マイサイト®ワンデーが使用できるようになるのは秋ごろと言われており、現状では価格設定帯はわかりません。マイサイトの価格帯がわかったら、3者の長期使用を想定したコストを比較して選ぶのが良いでしょう。
最後に、近視の進行を加速するライフスタイル、すなわち屋内にこもりがちな生活やスマホなどのデジタルデバイスを長時間見る生活、にも注意が必要です。せっかくお金をかけて近視進行にブレーキをかけても、ライフスタイルのありようが近視進行のアクセルを踏んでしまっては、元も子もありません。屋外時間の確保とスマホ使用の適正化(30cm以上離れて見る)及び時間制限などライフスタイル面でも近視進行にブレーキがかかるように生活の再構築をお願いしたいと思います。
就学前から近視を強めないライフスタイルを身につけようPart.1
就学前から近視を強めないライフスタイルを身につけようPart.2
世界の近視対策~こどものスマホ規制を調べてみた
この記事を執筆した医師

株式会社Personal General Practitioner代表取締役社長/医学博士・眼科専門医
板谷 正紀
京都大学医学部卒業。以後20年間、京都大学および米国ドヘニー眼研究所で網膜と緑内障の基礎研究と臨床、手術に取り組む。 京都大学では眼底の細胞レベルの生体情報を取得する革新的診断機器「光干渉断層計(OCT)」などの開発と普及に貢献する。 複数の産学連携、医工連携プロジェクトを企画推進し、2003年文科省振興調整費「産官学共同研究の効果的推進」に選ばれる。 医師でのキャリア35年。増殖糖尿病網膜症や増殖硝子体網膜症、緑内障などの難症例の手術治療を得意とする。
英語論文148報(査読あり)
著書『OCTアトラス』、『OCT Atlas』、『Everyday OCT』、『Myopia and Glaucoma』、『Spectral Domain Optical Coherence Tomography in Macular Diseases』
株式会社Personal General Practitioner(PGP)https://pgpmedical.com
