子どものスマホ内斜視が急増中!|原因・予防・治し方を専門医が解説
スマホが原因で子どもの目が寄る?
「スマホ内斜視」の実態
「こどもの目が内側に寄っているように見えます」など、こどもの斜視を心配して来院されるご両親は多いです。3歳児健診で指摘されたり、普段の生活でそう見えたのがきっかけです。斜視は小さなお子さんを持つご両親にとって心配事のひとつと感じます。そして、斜視検査を行い斜視でないとわかると安心して笑顔でお帰りになります。
ところがです、生まれた時は斜視ではなくても、後で内斜視になることがあることはご存じでしょうか?特に、最近増加して話題になっているのが「スマホ内斜視」。文字通りスマホが原因で出現する内斜視です。5歳から18歳のこどもに起こりやすいことがわかっています。しかも、いったんスマホ内斜視になると、スマホの使用を適正化しても治りにくいことがわかってきました。
なぜ、スマホで内斜視になるの?どんな子がスマホで内斜視になりやすいの?どうすれば治せるの?日本弱視斜視学会と日本小児眼科学会が中心になって行われた多施設研究の結果を中心にスマホ内斜視について情報を共有していきたいと思います。「知らぬが損」知ってこどものスマホとの付き合い方を見直してみる一助になればと思います。
スマホ内斜視とは?

世界的に、スマートフォンなどデジタルデバイスの長時間利用に伴い、小児や青年で 急性後天共同性内斜視(acute acquired comitant esotropia, AACE)の症例増加が注目されています。急性後天共同性内斜視とは、急に発症する後天性の内斜視で、スマホの長時間使用が原因で中高生を中心に増加していることから、日本では俗称「スマホ内斜視」として知られています。今までなんともなかったのに急に内斜視を発症し、ものが二重に見えるという訴えがみられます。
海外では2016年の韓国からの報告を皮切りに、COVID-19下でのオンライン学習増加に伴う症例報告が相次ぎました。日本でも日本弱視斜視学会と日本小児眼科学会の全国調査により発症ピークが16歳前後にみられたと報告されています。
小児も小中学生も大人もリスクあり
発症ピークが16歳前後とされ、中高生を中心に突然の内斜視出現と複視の訴えがみられることが多いです。しかし、実は小児にも大人でも少なくないことがわかりました。調査では、中高生(13歳~18歳)が69人、小児(5歳~12歳)が62人、成人(19歳~35歳)が63人でした。中高生や大人は異常を言葉で表現できるため発見されやすいですが、小児は異常を言葉で表現するのが得意ではなく気づかれにくい傾向があるようです。
年齢によって違うこどもの異変
では、親はこどもの異変にいちはやく気付けるでしょうか?年齢ごとにみてみましょう。
幼児期(〜5歳)
訴えが無かったり、目をこすったり、片目を閉じたり、スマホを嫌がるなど行動の異常で現れることが多いです。保護者はこうした行動の異常や視線のずれや目の寄りなどで気づくことが多いです。
小学生低学年(6〜8歳)
「目が見えない」、「目が痛い」、「目が変」など必ずしも正確ではない、あるいはあいまいな言葉で訴えます。泣いたり、まばたきが増えたり、読書やスマホを嫌がる、休みたがるなど行動の異変も生じます。
小学生高学年(9〜12歳)
「二重に見える」、「ぼやける」、「スマホのあとで変になる」などある程度具体的な言葉での訴えが出てきます。
中学生〜高校生(13〜18歳)
「遠くを見ると二重になる」、「黒板がぼやけて見えることが増えた」など明確に症状の内容・タイミング・原因・日常生活への支障まで具体的に説明できるようになります。自発的に受診するようになりやすいともいえます。
リスクを高める「約20cm以下」と「1日4時間以上」

まず、お子さんのスマホの使用状況をご確認ください。叱らずに客観的状況を。スマホとの視距離「約20cm以下」、およびスマホ使用時間「1日4時間以上」が、スマホ内斜視を引き起こすリスクの高いベンチマークとされています。
通常の読書距離(約30〜40cm)に比べ、スマホでは平均視距離が20cm前後に近くなることが複数の研究で報告されています。理由は画面や文字の小ささにあります。同じ本でも単行本より文庫本の方が目を近づけてしまいますよね。スマホは、文庫本よりも小さいのです。さらに問題なのは子ども用スマホ(キッズスマホ)です。フィルタリング機能や見守り機能など安心感が期待できるものの、大人のスマホより小さいことがほとんどです。こどもは手が小さいから仕方がないのですが。画面と文字が小さいほど近づいて見てしまいます。
日本や韓国の報告では、スマホ使用4時間以上が共通して出てくるしきい値です。スマホ内斜視を発症した人は、4時間以上の長時間使用が数か月間継続していたことも報告されています。特にCOVID-19以降、オンライン授業やSNS利用の急増により、この「4時間の壁」を超える児童・生徒が増えたことが、内斜視増加の背景にあると分析されています。
*参考文献:Series of cases of acute acquired comitant esotropia in children associated with excessive online classes on smartphone during COVID-19 pandemic; digital eye strain among kids (DESK) study-3
*参考文献:デジタルデバイスの小児および若年者に与える影響
スマホ内斜視になぜなるの?
スマホ内斜視になる原因を探ってみましょう。スマホ内斜視が完全には治りにくい理由もわかると思います。
近くのものを見るってどういうこと?

ご存じのように人は近くのものを見るとき両目を内側に寄せます。これを「輻輳(ふくそう)」といいます。眼球の内側に付いている「内直筋」という筋肉が緊張して眼球を内側に向けます。同時に、近くのものを見るときは、目の中の「毛様体筋」というリング状の筋肉が緊張して水晶体が厚くなりピントを近くに引き寄せます。「近見調節」といいます。さらには、近くのものを見るときは、「瞳孔括約筋」という筋肉が緊張して瞳が小さくなります。「縮瞳」といいます。縮瞳により焦点深度が深まります。
つまり、日ごろ私たちが無意識にしている近くを見るということは、「輻輳」、「近見調節」、「縮瞳」が連携して行われているということです。合わせて「近見反射」といいます。3つとも、それぞれ担当の筋肉が緊張して起きます(表参照)。
近見反射で連携する機能と筋肉
| 機能 | 関与する筋肉 | 筋肉の種類 | 神経支配 | 作用の説明 |
|---|---|---|---|---|
| 輻輳 | 内直筋 | 横紋筋(随意筋) | 動眼神経 | 両眼を内側に寄せる動きに関与。 |
| 調節 | 毛様体筋 | 平滑筋(不随意筋) | 動眼神経の副交感性線維 | 水晶体を厚くして近くにピントを合わせる |
| 縮瞳 | 瞳孔括約筋 | 平滑筋(不随意筋) | 同上 | 瞳孔を縮めて焦点深度を深く、光量を制限 |
近づきすぎると何が起こる?:20cmと30cmの大きな違い
スマホは画面や文字が小さくて、つい20cmくらいに近づけがちですが、この時何が起きるのでしょう?まず、容易に想像できることは、1で説明した近見反射が強まることです。つまり、目を寄せる輻輳、近くにピントを寄せる近見調節、瞳を小さくする縮瞳が過度に起きます。輻輳と近見調節は、20cmでは30cmと比較して、約1.5倍に高まるという報告があります。つまり、近見反射で連携する3つの筋肉が、スマホに近づいて見るほど過緊張になるということです。
*参考文献:デジタルデバイスの小児および若年者に与える影響
過緊張が続くとどうなる?近見反射スパズム:筋肉が痙攣(れんしゅく)性収縮
スマホを20cmで見続けると、過度な輻輳と近見調節が続き、内直筋と毛様体筋の過緊張が続くことになります。これを4時間以上続けると、スマホを見るのをやめても内直筋と毛様体筋への過大な信号入力が持続し、本人の意思とは関係なく筋肉は痙攣するように収縮します。これを近見反射スパズムといいます。スパズムがピンとこない方は、「こむらがえり」といえばイメージしやすいでしょうか?
毛様体筋のスパズムは、調節けいれんと呼ばれ、遠くを見ようとしても毛様体筋が緩まなくなり、遠くがぼやけて見えるようになります。「調節緊張」や「仮性近視」とも呼ばれます。
内直筋のスパズムは、スマホから目を離しても寄り目(輻輳)が解除されず、内斜視を引き起こします。これがスマホ内斜視です。
*詳しくはこちら:IT眼症「目のピント筋が疲労する」~②毛様体筋酷使編~
「内直筋は横紋筋」の不運
近見反射で働く3つの筋肉の中で、内直筋だけが横紋筋(おうもんきん)です。横紋筋は、骨格筋と心筋の総称です。ご存じのように、骨格筋は使うことで筋肥大や筋力向上が起きます。この横紋筋である内直筋に、近見作業による過緊張が何か月も続くとどうなるでしょうか?筋トレのように筋肥大が起きるのでは?と想像してしまいますね。想像通り、筋線維の構造的変化(例えば筋肥大や筋短縮)が起こりうると考えられています。実際、急性内斜視患者を解析した報告では、正常児に比べ内直筋付着部が角膜に近い解剖学的特徴が指摘されました。また、手術に至った症例の一部では内直筋の肥大(肥厚)が認められたとの報告もあります。
このように、内直筋自体が、構造的変化をきたして、内直筋の収縮力が過度に強まり外直筋とのバランスが崩れたり、外転方向への可動域を制限するなどして内斜視を助長していると考えられています。内直筋自体が構造的に変化するために、スマホ使用を適正化しても元通りの内直筋に戻らない可能性があります。これが、スマホ内斜視が治りにくい原因かもしれません。内直筋の構造変化が起きる前に、スマホ内斜視を発見して対処するべきなのかと考えさせられます。
どんな子がなりやすいの?
スマホ内斜視のなりやすさを、「視距離×使用時間×使用期間×個人因子」と考えてみましょう。スマホの距離が近くなり、そのスマホ時間が長くなり、そしてその時間を長期間継続すれば、誰でもスマホ内斜視になることが実験的に示されています。一方、スマホ内斜視になりやすい個人の特徴も指摘されています。少し専門的になりますが、挙げてみます。
スマホ内斜視になりやすいと考えられている特徴
- 眼位・両眼視機能の特性
- 潜在的に内斜位傾向のある人
- 開散力が弱い子※1
- 融像力が弱い人※2
- 斜視や弱視の既往のある人
- 近視(未矯正裸眼の場合)あるいは軽度遠視の人
- 不同視の人
- 調節-輻輳比の不均衡のある人※3
※1 開散とは、輻輳の逆の動きです。両目は、遠くを見るときに外側に動きます。これが開散です。
※2 融像とは、左右の網膜に映った異なる像を脳で一つにまとめ、単一の像として認識する機能です。
※3 先述した近くのものを見る際に、行う「調節」と「輻輳」のバランスが崩れた状態を指します。
どうすれば防げる?
どんな病気でも原因をなくすことが最大の予防です。その観点で、推奨されている以下のことをご覧いただければと思います。一般論と深堀に分けてお伝えします。
【一般論】スマホ内斜視を防ぐためにできること
画面から目を離す
30cm離して見ることが最大の予防策の1つです。しかし、スマホの小さな画面、特にキッズスマホの画面、では言うがやすしです。タブレットアームやスタンド使用など工夫は可能です。
使用時間の制限
1日4時間以上のスマホ使用でスマホ内斜視になりやすいことは複数の調査で一致しています。スマホ、あるはデジタルデバイスの使用時間を年齢に応じて制限する必要があります。何時間以内に制限すべきかは議論があると思いますが、2時間以内に抑えられるとスマホの弊害全般は減るでしょう。参考までに、各国のスマホ時間制限について調べた記事を挙げます。
*詳しくはこちら:世界の近視対策~こどものスマホ規制を調べてみた
明るい環境で使用
暗い環境では瞳が大きくなり、輻輳負荷が高まります。
適切な姿勢で、寝ながらスマホはNG
寝ながらスマホは、スマホと顔との距離が極端に近くなりがちです。また、片目が枕などで遮られ片眼視になりやすく、両眼視バランスが崩れて内斜視を招く要因となります。
「20-20-20ルール」
米国眼科学会は、20分使用ごとに20秒、20フィート=約6m先を見つめるが推奨しています。これはスマホ使用により過度に働いている輻輳と近見調節をリセットすることが期待できます。
屈折矯正の徹底
近視があるとスマホに近づきすぎる傾向が生まれます。遠視があると、調節-輻輳過多となりやすい傾向があります。適切な眼鏡・コンタクトの処方が、発症予防に寄与できると考えられています。
屋外活動と自然視環境の確保
近視進行予防の観点から 「1日2時間以上の屋外活動」が推奨されていますが、スマホ内斜視の予防にも有効と考えられます。おのずから過度な近見の時間は減ります。
【深堀】スマホ内斜視を防ぐためにできること
簡単に使用でき、面白ければ見てしまうのは、こどもも大人も同じことです。小さいスマホでは近づきすぎるのもこどもも大人も同じです。
- 画面の大きなデジタルデバイスを使う
スマホより、タブレット、タブレットよりTV画面の方が画面が大きいため、自然と離れて見ます。
- 文字サイズを大きくする
スマホに近づいてしまう原因は画面の小ささだけではなく、文字の小ささであると言われています。文字を大きく表示する設定にしましょう。
持ち運び簡単なスマホは時間制限を行い、タブレットやTV画面に代替できるものは代替し、それでもスマホを使わざるを得ない時は、少なくとも文字は大きくする。こどもに任せるのではなく、親が子供のデジタルデバイス使用環境をコントロールすべきでしょう。
どうすれば治せる?
日本弱視斜視学会と日本小児眼科学会が中心になって行われた多施設研究では、デジタルデバイスの視聴時間を減らし、視聴距離を30㎝以上保ち、休憩を入れるという指導を行ったところ、44%の人で斜視の程度が改善し、治癒に至った人は6%という結果でした。言い換えると、56%の人は改善がなく、94%の人は完全には治らなかったということです。
これは、ゆゆしき事態です。デジタルデバイス使用の適正化だけでは治りにくい人が多いことが分かります。初診時に立体視がある人、斜視の程度が小さい人、デジタルデバイスの視聴時間をそれまでの半分以下に減らせた人が改善しやすいことも報告されています。気になる治療法を程度に分けて挙げてみます。
*参考文献:若年者の後天共同性内斜視の特徴を明らかに 中高生に多いことや、改善しやすい人の特徴がわかりました
1.初期・軽症例(まだ融像が保たれている場合)
(ア)上述したスマホの適正使用と時間制限
(イ)眼筋トレーニング:目を上下左右にゆっくりと動かしたり、円を描くように回したりすることにより目の周りの筋肉を鍛える。
(ウ)プリズム眼鏡の試用:両眼視を維持する目的で、一時的に用いることがあります。症状が改善するまで、プリズムの度数を調整しながら使用します。
2.中等度(複視が強く、眼位のズレが固定した例)
(ア)スマホの適正使用と時間制限は同様
(イ)一時的なプリズム眼鏡:学業や日常生活への支障を軽減が目的。
(ウ)調節麻痺薬(シクロペントラート、アトロピンなど)の試験投与:内斜視の緊張性か構造的かを判別し、可逆性を評価
3.重症・慢性化例(眼位ズレが固定、複視も解消しない)
(ア)眼位矯正手術(斜視手術):内直筋の後転術など、眼位を物理的に修正。術後に両眼視が再構築されるケースも多い
(イ)術後リハビリ(融像訓練や両眼視訓練):特に若年者では神経可塑性を活かして機能改善を目指す
まとめ – スマホ内斜視を防ぐために親ができること
不適切なスマホ使用を長期間続けると誰でもスマホ内斜視になるリスクがあることを理解したうえで、こどものスマホ適正使用と時間制限を考えていくことが基本と思います。海外では、さまざまな理由で、年齢に応じて一日のスマホ時間を制限している国があります。それに加えて、ひとりひとりの子供が、スマホ内斜視になりやすい目の特徴を持っていないか?近視や遠視があるのにメガネやコンタクトレンズで矯正しないままになっていないか?を問うことが大切です。
そして何より重要と思うことは、親が口で「2時間以内にしなさい」とか「スマホに近づきすぎよ」などを言うだけでは効果は薄く、こどもが近づかずにゲームやYouTubeを楽しめる環境を整備することが重要ということです。スマホよりはタブレット、タブレットよりはテレビが画面も文字も大きく自然と近づかなくなります。デジタルデバイスの時間が多くなるほど屋外で過ごす時間が短くなり、近視進行を加速することを、これまでのブログで繰り返しお伝えしてきました。法的規制がない日本では、できるだけ屋外で過ごす楽しさを教えることが、スマホ時間短縮につながると思います。同時に、こどもをよく観察して、できるだけ早くスマホ内斜視を発見し内斜視が固定する前にスマホ使用の適正化を図ることが重要であることがわかりました。
*詳しくはこちら:世界の近視対策~こどものスマホ規制を調べてみた
この記事を執筆した医師

株式会社Personal General Practitioner代表取締役社長/医学博士・眼科専門医
板谷 正紀
京都大学医学部卒業。以後20年間、京都大学および米国ドヘニー眼研究所で網膜と緑内障の基礎研究と臨床、手術に取り組む。 京都大学では眼底の細胞レベルの生体情報を取得する革新的診断機器「光干渉断層計(OCT)」などの開発と普及に貢献する。 複数の産学連携、医工連携プロジェクトを企画推進し、2003年文科省振興調整費「産官学共同研究の効果的推進」に選ばれる。 医師でのキャリア35年。増殖糖尿病網膜症や増殖硝子体網膜症、緑内障などの難症例の手術治療を得意とする。
英語論文148報(査読あり)
著書『OCTアトラス』、『OCT Atlas』、『Everyday OCT』、『Myopia and Glaucoma』、『Spectral Domain Optical Coherence Tomography in Macular Diseases』
株式会社Personal General Practitioner(PGP)https://pgpmedical.com
