IT眼症「目のピント筋が疲労する」
~②毛様体筋酷使編~

目の健康ブログ

デジタルデバイス使用と自律神経の関係を知る

前回は、パソコンやスマホなどのデジタルデバイスを長時間使っていると、目が辛くなる原因としてドライアイにフォーカスを当てました。「デジタルデバイス➡まばたきの異常➡ドライアイ」という関係がわかりましたね。今回は、目の中の「毛様体筋」の異常にフォーカスを当ててみましょう。毛様体筋ってイメージが湧きにくい医学用語ですね。機能的に命名するなら、「ピント筋」あるいは「オートフォーカス筋」でしょうか?すなわち、目のピントを合わせる筋肉です。デジタルデバイスの長時間使用は、この毛様体筋の酷使を招きます。実は、それだけではなく、デジタルデバイス使用時の矛盾した自律神経の指令が、毛様体筋の不調を強めてしまうと考えられています。

デジタルデバイスをずっと使っていると、「“目の奥”がズーンと重い」、「目に鈍痛がする」、「ぼやける」、「見続けるのが辛い」などと感じたことはありませんか?あなたの目の中の毛様体筋がSOSを発しているのかもしれません。あなたの目のなかで日々奮闘しているけなげな毛様体筋のこと、そして毛様体筋のいたわり方をお伝えしたいと思います。

ピント合わせの主役「毛様体筋」とは?

私たちの目には、水晶体を取り巻くように、リング状の筋肉があります。「毛様体筋」です。毛様体筋は、水晶体(カメラで言えばレンズ)の厚みを変えることで、遠くから近くまで見たいところにピントを合わせる役割を担っています。この働きを「調節(accommodation)」と呼びます。

調節の仕組み

  • 近くを見るとき

    毛様体筋が収縮し(緊張し)、リングが小さくなり、水晶体に加わる力が減り、本来の厚みを回復して厚くなり、近くにピントが合う。

  • 遠くを見るとき

    毛様体筋が緩んで、リングが大きくなり、水晶体をまわりに引っ張る力が増加して水晶体は薄くなり、遠くにピントが合う

つまり、私たちがスマホやパソコンの画面を見るときは、私たちの目の毛様体筋は緊張し続けるのです。

毛様体筋が緊張し続けるとどうなる?

デジタルデバイスを使うなどして、毛様体筋の収縮あるいは緊張が長く続くと毛様体筋に異常が生じます。

  • さすがの毛様体筋も「筋疲労」

    毛様体筋が長時間収縮し続けると、筋肉は休むことなく働き続けるため、「筋疲労」が生じるのは当然といえます。これはいわば「ずっと重いものを持ち続けているような状態」で、目の奥の重だるさや、鈍い痛み、視界のぼやけなどの眼精疲労として現れます。あとで説明しますが、腕の筋肉は骨格筋ですが、毛様体筋は平滑筋です。重いものを持つと、すぐ疲れてしまい、力が入らなくなるのは、強い力が出るが疲れやすい骨格筋の特徴です。一方、平滑筋は、強い力は出さない代わりにエネルギー消費も少ない特徴があるため、長時間緊張することが可能です。つまり、持久力が高い筋肉なんですね。そのおかげで、私たちは、長時間デジタルデバイスを使うことが可能なのです。しかし、このメリットが逆にデジタルデバイスの長時間使用をあたりまえにしてしまい、さすがの毛様体筋も疲労してしまい、目の辛さを生み出しているとも言えます。

  • 調節異常の発生:「調節緊張」や「調節けいれん」

    毛様体筋の長時間の緊張状態は、ピント調節の異常を引き起こします。これは、単に疲労するのではなく、筋肉が本来持っている収縮と弛緩という機能に変調が出ることを意味します。代表的なのが次の2つです:

    • 調節緊張

      長時間の近見作業により、毛様体筋が収縮しっぱなしになり、遠くを見ようとしても毛様体筋が緩みにくくなり遠くがぼやけて見えるという症状が現れます。軽度の場合には「調節緊張」と呼ばれ、休息や調節麻痺薬(目薬)などで改善が見込まれます。

    • 調節けいれん

      調節緊張が進行し、毛様体筋に断続的かつ不随意に収縮シグナルを出続けている病的状態です。屈折は著しく近視側に偏り、ピントが合わず遠くがほとんど見えないといった症状になります。また、調節性の内斜視(いわゆる寄り目)を引き起こし、頭痛、めまい、吐き気などの全身症状を伴うこともあり、眼精疲労の中でも重症度が高いとされています。特に若年者では調節力が強いため、この状態になりやすいという特徴があります。

デジタルデバイスを見るときに起きる自律神経の矛盾とは?

問題はそんなに単純ではないようです。デジタルデバイスを長時間使うということは、単に毛様体筋の緊張が続くだけの問題ではなく、人の身体のつくりに逆らっている自律神経の矛盾をはらんでいると考えられています。

どういうことでしょう?

「毛様体筋」は平滑筋で主に副交感神経支配

毛様体筋は、先述したように消化管の筋肉と同じ平滑筋です。筋肉は大きく分けて、「骨格筋」、「心筋」、「平滑筋」の3種類があります。骨格筋は随意筋(自分の意思で動かせる筋肉)で運動を担います。一方、心筋は心臓を動かし、平滑筋は内臓や血管、毛様体筋などを動かしますが、ともに不随意筋(自分の意志では動かせない筋肉)です。では、心筋や平滑筋が、何により動かされているかというと、交感神経と副交感神経からなる自律神経です。これにより、無意識のうちに身体の状態に応じて筋肉が持続的かつ自動的にコントロールされます。そして、毛様体筋は、副交感神経により収縮する筋肉なのです。

自律神経の基礎知識

  • 副交感神経:リラックス時に働き、内臓の活動などを促進。
  • 交感神経:緊張・ストレス時に働き、血管収縮や心拍数上昇などを引き起こす。

「毛様体筋は副交感支配」の不思議

近くを見るという行為は、私たちの意思で行っている活動です。つまり、近くを見ようと思うと収縮するにもかかわらず、毛様体筋は骨格筋ではなく平滑筋なのです。通常の平滑筋は、消化管の蠕動運動のように我々の意志とは関係なく動いています。不思議ですね。しかも、毛様体筋を収縮させるのは、副交感神経です。近くを見ると副交感神経がオンになり毛様体筋が収縮し、遠くを見ると副交感神経がオフとなり毛様体筋が弛緩します。

なぜ、人の意志に反応する毛様体筋が、副交感神経支配の平滑筋なのでしょうか?答えは、デジタルデバイスの存在しない人類の長い進化の歴史にあるのかもしれません。例えば、長い狩猟時代、明るいうちは遠くを見て外敵に緊張しながら獲物を探す交感神経優位な行動が中心で、暗くなると家族とご飯を食べ、リラックスして(副交感神経優位で)そばにいる家族の顔を見て過ごしたでしょう。

つまり、副交感神経優位な夜の過ごし方と、副交感神経に依存する近くのものを見る活動が比較的マッチしていたのではないでしょうか? では、現代ではどうでしょうか?現代の生活はもっと複雑で、自律神経は混乱しやすいといえます。その一つが、次に説明する自律神経のパラドックスです。

デジタル機器での目の疲れ 原因は自律神経の混乱

「目は副交感支配、身体は交感神経優位」のパラドックス

さて、狩猟時代になかったパソコンやスマホを使用しているとき、自律神経は交感神経優位でしょうか?副交感神経優位でしょうか?答えは、「軽度な交感神経優位」です。リラックスしているときよりは、心拍数や血圧がわずかに上昇し、消化機能が抑制される(→胃もたれの一因)、末梢の血流が軽く抑えられる(→肩こり・手足の冷えの一因)など交感神経が働いているのですね。つまり、デジタルデバイスを使う時は、毛様体筋は副交感神経が働き、身体は軽い緊張状態(交感神経優位)になっていることになります。つまり、脳の中枢(視床下部など)は、同時に相反する命令(交感と副交感)を出し続けなければなりません。この矛盾した状態が、短時間ならまだしも長時間続くとどうなるでしょうか? まず、脳が疲労することが、考えられます。次に、交感神経優位時には毛様体筋への血流は基本的に減少するとされています。これは、毛様体筋が平滑筋であり、かつ生命維持に直結しない末梢の器官であるため、交感神経活動時には血流が抑制される側に分類されるためです。つまり、デジタルデバイスを見続けるということは、毛様体筋が収縮活動を持続しているにも関わらず、血流は減ってしまい、疲労回復しにくい状態に置かれると考えられるのです。毛様体筋にとっては、辛い状態ですね。

毛様体筋をいたわるには?

長時間デジタルデバイスを使い続けると、毛様体筋が辛い状態になることがわかりましたね。人のからだのつくりは、まだ、狩猟モードで、デジタル社会モードに進化していないともいえます。では、この可哀そうな毛様体筋をいたわるにはどうしたら良いでしょうか?「デジタルデバイスを使う時間を減らす」というのが、わかりやすい答えですが、実際には困難だとお感じになる方が多いでしょう。デジタルデバイスを使い続けながらも、毛様体筋をいたわるにはどうすれば良いかを考えてみましょう。

毛様体筋をいたわるための工夫

  • 毛様体筋の緊張状態をリセットする
    • 遠くを見る(=毛様体筋を緩める):前編で紹介した「20-20-20ルール」がここでも有効です。20分に一度、20フィート(約6m)先を20秒間見るだけで、毛様体筋がリラックスできます。
    • 温罨法(目を温める):ホットアイマスクなどでまぶたを温めることで、まぶたや眼窩周囲の皮膚温が上昇し、それに伴い眼球周囲の血管が拡張し、毛様体筋を含む眼内組織への血流が改善し、代謝産物や疲労物質の除去が促進されます。また、アイマスクで視界が遮られることで、副交感神経優位になることも、毛様体筋への血流改善をもたらします。もちろん、アイマスクをすると、近くを見ることが無くなりますので、毛様体筋は弛緩します。
    • 調節麻痺剤(ミドリンM等)使用:毛様体筋の緊張を薬の作用で緩めることができます。眼科を受診して目薬を処方してもらいましょう。
  • 毛様体筋の緊張状態を高めない
    • 毛様体筋に負担をかけないメガネ:メガネは、調節しない時(毛様体が弛緩した時)に遠くが良く見えるように作られます。このため、近くのデジタルデバイスを見るときは毛様体筋が緊張してピントを近くに引き寄せています。では、調節しない時にデジタルデバイスの距離にピントが合うメガネを用いれば、どうなるでしょう?毛様体筋は弛緩したままデジタルデバイスを見ることができます。このように、メガネの力でピントをデジタルデバイスに合わせてやれば、毛様体筋を緊張させる必要が無くなり、毛様体筋の異常は生じにくくなります。眼科を受診して適切なメガネ処方をしてもらうと良いでしょう。
    • できるだけ大きな画面を使う:大きい画面ほど目から離して使うため毛様体筋の負担は減ります。スマホよりタブレット、タブレットよりノートパソコン、ノートパソコンよりデスクトップモニターが毛様体筋には優しいといえます。

毛様体筋とまぶたに労りを

我々は、長時間パソコンやスマホを使うことができます。それは、ピント筋あるいはフォーカス筋である「毛様体筋」が、持久力のある平滑筋であるからです。しかし、さすがの毛様体筋も、現代生活で普通になった長時間のパソコンやスマホ使用に耐えるには限界があるようです。しかも、集中してパソコンやスマホを使用すると身体は戦闘モードの交感神経優位になり、毛様体筋への血流が減少し、援護射撃どころか、足を引っ張ってしまいます。毛様体筋の持久力に頼りっぱなしにならず、いたわる工夫をして、元気な毛様体筋を守っていただきたいと思います。前編のドライアイ編でお伝えしたまばたきの異常も交感神経優位が原因でした。このデジタルデバイス使用による交感神経優位な状態が、まばたきや毛様体筋にもたらす影響とうまくつきあっていく知恵を身に付ける必要がありそうですね。

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