眼底検査の謎を解き明かします【3】- 疑問にお答えします –

目の健康ブログ

「なぜ眼底検査をするの?おいくら?」

眼底検査シリーズ最終章では、実際に眼科を受診して眼底検査を受けてみたときに患者さんが感じる疑問に光を当てたいと思います。必ずしも患者さんの求めるものと、眼科医が必要と思うことには一致せず、疑問や不信感の種を生み出しかねない心理圧が日常的に起きています。Google口コミを読むとよく目にしますね。「急いでいるのになぜ必要のない検査をするの?」、「コンタクトレンズを作りに来ただけなのに、なぜ眼底検査をするの?」、「まぶしくて目を開けられない、涙がボロボロ出るのになぜそんなに長い時間かかるの?」、「無駄な検査をしているんじゃないの?」、「検査する前に値段を言って欲しい」……。

眼科医は患者さんに眼底検査の必要性を丁寧に伝える必要があります。医師が十分に説明すれば納得されることが多いと思いますが、混んでいると、時間に追われて説明が足りない、なんてことも。患者さんからは見えにくい、眼科医の頭の中にあること —— それは、「失明を防ぐ」という使命です。失明原因の多くは、眼底検査で見つけられる緑内障と眼底疾患なのです。一方、患者さんはご自分の目的をもって来院されます。ここに、患者さんと眼科医の間に壁というかギャップがあります。真に患者さんのためになる眼科医療になるためには、この壁を壊し、溝を埋める努力が必要だと感じます。

求めていないのになぜ眼底検査をされるのか?

1. コンタクトレンズを作りに来ただけなのになぜ眼底検査?

コンタクトレンズをつくるために初めての眼科を受診すると、目の前に眼科医がレンズを持った手をかざして、まぶしい光を当てられます。倒像鏡を用いた眼底検査です。自分の目は健康でコンタクトレンズを作りに来ただけなのに、なぜ眼底検査までするのか疑問に思われる方がいるかもしれません。答えは、『初診時には眼底検査は必要』です。なぜでしょう?

コンタクトレンズを作りに来る人は近視の方が多いです。なかには強度の近視の方も。近視が強くなるほど、緑内障になりやすいことが知られています※。実際、コンタクトレンズ受診がきっかけで緑内障が早期発見されることが少なくありません。近視の方の緑内障は、30代や40代の比較的若い年齢で視野障害が見つかることがあり、20代にすでに始まっている可能性があります。このため、若いからといって大丈夫とは言い切れず、眼底を見てみないとわからないのです。緑内障は失明原因一位で、早期発見がなにより重要です。近視の方が集まるコンタクトレンズ外来は、検診と並んで、緑内障を早期発見する最前線となっています。
近視の方に知ってほしい、近視の目が持つ緑内障の課題

コンタクトレンズの初診時の検査料は、2,000円(診療報酬200点)です。保険が効くため3割負担なら600円です。この検査料は、「包括」といいまして、すべての検査が含まれますので、無散瞳の眼底検査を受けても受けなくても支払いは変わりません。つまり、眼底検査を受けた方がコスト的にもお得ということになります。そして、もし緑内障や眼底の病気が疑われ、後日一般診療で精密検査を行い病気が早期発見されたら、その人の人生を失明から守るチャンスを得たといえるのです。

2. 目がかゆくて受診しただけなのになぜ眼底検査?

この場合は、コンタクトレンズ診療の時のようにはいきません。なぜなら、眼底検査を行えば眼底検査料がかかるからです。眼底検査料は片目で560円(56点)、両目なら1,120円(112点)ですから、3割負担なら、168円(片目)、336円(両目)です。高額とは言えませんが、患者さんからしたら「目がかゆいだけなのに、なぜ眼底検査まで受けないといけないの?」と思うのは当然でしょう。答えは、『必要に応じて眼底検査は必要』です。

眼科医は、失明を防ぐ使命があり、失明原因の多くを占める緑内障眼底疾患を見逃さず、早期に発見することを教育されトレーニングを受けています。繰り返しになりますが、特に緑内障は、早期発見できれば失明を防げる可能性が格段に高まります。緑内障は相当悪くならないと自覚症状はありません。このため、結膜炎など他の理由で受診したときの眼底検査で発見されることがほとんどなのです。眼底検査で緑内障が疑われたら精密検査を行い緑内障の確定診断を進めます。緑内障になりやすい近視の方は、日本では3人に1人、世界的に近視は急激に増えて都内の調査では中学生の約95%が近視であったとの結果が出ています※。眼科医が、眼底検査をこまめに行うことで、緑内障の早期発見を増やすことができます。これは、公衆衛生、あるいは健診と同様の予防医療の意義があると考えられます。
Current Prevalence of Myopia and Association of Myopia With Environmental Factors Among Schoolchildren in Japan

眼底検査が必要と考えられる方

3. 眼底の病気がまったく疑われず、近視もない若年者に対して眼底検査を行うべきか?

若い方で、全身の病気はなく、近視がほとんどなく視力も良好である方が、結膜炎やドライアイで初めて受診したときに、眼底検査は必要でしょうか?答えは、「必要が無いと言い切るのは難しい」です。ある眼科研修医が受け持ちの視力の良い若い女性の眼底を見たら、視神経乳頭が腫れて出血を認め、脳を検査したところ脳腫瘍が見つかったという例があります。その女性は救われました。本来は眼底を見る必要がない場合でも、眼底を見てみると病気が見つかることがあります。眼底は脳につながっていますし、全身の血管ともつながっています。「目は全身の窓」という言葉があります。初めて受診された場合は、無散瞳で視神経乳頭を診るくらいは必要があるのかもしれません。

いわゆる「名医」の内科医は、患者の顔色やしぐさ、表情、声の調子、呼吸のリズム、白目の色などの微妙な変化を見ることで、患者さんご本人が気付いていない病気の兆候を見抜くことができる場合があります。習熟した眼科医にとって、目の中はすぐ見えてしまう存在。見えるものは診て目の大まかな健康状態を把握することは人々の目の健康を守る姿勢として重要と思います。異常があれば眼底検査の診療報酬を請求し、異常がなければ請求しなくて良いかなと思います。

なぜ時間がかかるのか?~眼科診察シミュレーション

眼底検査にかかる時間は、状況によって異なります。すぐに終わることもあれば、時間がかかる場合もあります。
今回はいくつかのケースを想定しながら、眼科での診察や検査の流れを確認し、どこで時間がかかるのかを見ていきましょう。

無散瞳眼底検査でスクリーニング:時間がかからない

さて、実際の診察現場に入ってみましょう。患者さんは、医師の前の椅子に座ると、医師との間にある細隙灯顕微鏡※という検査機器に顔を乗せ、まぶしい光を当てられます。角膜や水晶体など眼球の前の部分、白目の結膜、まぶたの表裏などを見ていきます。病状にもよりますが、1分未満~数分の検査です。そのあと、あなたの目の前にレンズ(直径5cmくらいの大きさ)を持った医師の手が近づいて、さらにまぶしい光を当てられます。これが、倒像鏡を用いた無散瞳眼底検査です。これもあまり時間がかかりません。無散瞳で見えるのはせいぜい視神経乳頭(緑内障がわかる)と黄斑(さまざまな黄斑疾患がわかる)などです。なぜなら、瞳に光を当てると瞳が小さくなってしまうからです(縮瞳と言います)。つまり、無散瞳眼底検査はラフで部分的な眼底検査です。簡単という意味ではありません。縮瞳した瞳から眼底を見るのは技術が必要なのです。ラフとはいえ、緑内障を疑ったり、眼底出血や硝子体出血を疑ったり、網膜剥離があることを疑ったりとスクリーニング的な意義が高いのです。実際、無散瞳眼底検査で緑内障を疑い、緑内障が発見されることが多いのです。費用は前述した通り。

※細隙灯顕微鏡は、細く絞った光(スリット光)を目に当て、拡大して目の表面や内部を詳しく観察する検査機器です。医師は両目で見るため立体的に観察できます。散瞳して特殊なレンズを使うと眼底も立体的に見えます(汎網膜硝子体検査といいます)。

問診とスクリーニングの結果に応じて変わる、精密な眼底検査の内容

問診で飛蚊症(虫やごみのようなものが見える)、中心暗点(見つめたところが見えない)、変視症(ものが歪んで見える)など眼底の病気が疑われる訴えがある場合は、その訴えに応じて精密な眼底検査の内容が決まります。同時に、眼底の病気を疑う訴えが無くても、先述の無散瞳眼底検査スクリーニングで、緑内障や黄斑疾患が疑われたら、その疑いに応じて精密な眼底検査の内容が決まります。

症状や疑われる疾患によって異なる眼底検査の流れ

  • 網膜全体の病気が疑われる場合

    ➡ 散瞳必須、倒像鏡で網膜をすみずみまで検査
    例:網膜裂孔、網膜剥離、糖尿病網膜症、網膜静脈閉塞症、網膜色素変性症など

  • 緑内障や黄斑の病気が疑われる場合

    眼底画像検査で精密検査、散瞳は必要時

  • 網膜硝子体疾患が疑われる場合

    ➡ 散瞳必須、汎網膜硝子体検査(細隙灯と特殊レンズを用いた検査)

1. 網膜全体の病気が疑われる場合:散瞳して倒像鏡で網膜をすみずみまで検査

網膜全体に起きる病気は、網膜裂孔網膜剥離、網膜色素変性症、糖尿病網膜症、高血圧網膜症、ブドウ膜炎など多種多様ですが、日常よくあるケースは、飛蚊症の自覚があり網膜裂孔網膜剥離が疑わるケースと糖尿病があり糖尿病網膜症を疑うケースです。

こうした病気では、散瞳剤点眼で瞳を大きく開いて眼底を倒像鏡ですみずみまで調べる散瞳眼底検査を行います。車で来院していないか確認され、5~6時間ぼやけるけど元に戻りますと説明を受け、散瞳剤を点眼されます。効いてくるのに20分~1時間かかります。

散瞳には個人差が大きく散瞳に時間がかかる方もいます。糖尿病をお持ちの方や落屑症候群という目の特徴を持つ方は瞳が開きにくく何度も点眼が必要になることもあります。開きが悪いと網膜の周辺部分が見えにくいからです。十分に瞳が開いたら、診察室へ呼ばれて再び倒像鏡を用いた眼底検査を受けます。今度は、「上を見てください、はい右上を見てください—」と上、右上、右、右下、下、左下、左、左上と8方向を目だけを動かすように指示されます。まぶしくて、目を閉じようとすると、指でまぶたを挙げられます。苦手な人は辛い検査です。何をしているかというと、網膜の周辺部まで観察して、網膜剥離の原因になる網膜裂孔や網膜円孔などの異常所見や網膜症で網膜出血がないかどうかなどを調べているのです。そして、例えば、網膜裂孔が見つかるとか、網膜剥離が見つかれば、治療が必要になります。

しかし、小さな網膜裂孔らしきものが見えるけどはっきりしない場合は、確かめるために倒像鏡より大きく見えるレンズを用いた検査を追加で行います。なぜなら、それが本当の網膜裂孔ならレーザー光凝固を行わないと網膜剥離になるからです。網膜裂孔でなければ、レーザー光凝固は不要です。この判断は重要ですね。患者さんは、目の表面に接触する検査用レンズを目にはめられて、再びまぶしい光を当てられます。この検査で網膜裂孔とわかったら、レーザー光凝固治療を受け、網膜剥離を予防します。網膜裂孔でなかったら一安心。このように状態により眼底検査にかかる時間は2分~10分くらいです。全体にかかる時間は、「散瞳に要する時間+検査時間」になります。眼底検査が長引くと、それ以降の患者さんの待ち時間も延びる可能性があり、気にはなりますが、手を抜くわけにはいきません。

しかし、ここまで検査しても網膜裂孔の可能性があるが断言できないということも医療ではあり得ます。網膜裂孔でないのにレーザー光凝固を行ったら、正常な目を傷つけるだけで、患者さんは高い費用を無駄に支払うことになりますので、これは避けねばなりません。こういう場合は、日を改めて再検査して変化が無いかをフォローするのです。

散瞳に慎重になる必要があるときも

網膜剥離など緊急性が高い眼底疾患が疑われる場合は、できるだけ早く散瞳して眼底検査を行う必要があります※。しかし、散瞳に問題がある人がいます。目の中の水分「房水」の出口(隅角と言います)が狭い方(狭隅角、あるいは閉塞隅角症といいます)は、散瞳により急性緑内障発作が起きるリスクがあります※※。万が一、急性緑内障発作が起きた場合、発作を可及的速やかに解除して視神経を守らねばなりません。この万が一に対処できる環境や時間帯かを考えて、今散瞳するべきか、翌日にするべきかを決める必要があります。夕刻、受付時間ギリギリに来院された場合、万が一急性緑内障発作が起きた場合、通常のクリニックなら対応できず、大学病院や救急病院に紹介することになりますが、眼科医が常駐している可能性は低く、救急医が初期対応し、眼科医は呼び出し対応になる可能性が高いです。このため対応が遅れます。さらに怖いのは、眼科クリニックにいる間に急性緑内障発作の症状が出るとは限らず、クリニックを出て帰宅後に症状が出る場合もあります。その時には、クリニックは閉まっており、夜になって耐えきれない目と頭の痛みが襲ってくるわけですから、恐ろしい思いをすることになります。大学病院や救急病院に眼科医が在院している平日の早い時間帯で散瞳するのが良いと考えます。
近視が強い方の網膜剥離対策
※※閉塞隅角緑内障:目の良い女性は気を付けて!

2. 緑内障や黄斑の病気が疑われる場合: 眼底画像検査で黄斑と神経線維層を精密検査、散瞳は必要時

緑内障や黄斑疾患が疑われた場合は、眼底画像検査が適しています。散瞳は必要に応じて行います。クリニックで用いる眼底画像検査機器は、眼底カメラOCTですが、最近の機器は散瞳しなくでもクオリティーが高い画像が得られます。ただし、かなりの白内障がある目や瞳孔が小さい目は、目の中に十分光が届かないために、良い画像が得られません。このため散瞳が必要になります。

眼底写真は、ぱっとまぶしいストロボがたかれますが一瞬で終わります。両目の場合は、ストロボのフラッシュ光を浴びた場合、反対側の目も瞳が小さく縮みます(縮瞳と言います)。このため、反対側の目の撮影をするためには、縮瞳効果が弱まるのを30秒ほど待ちます。

OCTは、いくつかの撮影パターンがあり、目的に応じて組み合わせます。クオリティーが高い画像を得るために、フォーカスなどのセッティングを丁寧に行います。その時間を考慮しても目的により2~10分くらいの幅がある検査です。眼底画像検査は散瞳せずともクオリティーが高い画像が得られたら長い時間はかかりません。散瞳が必要になったら、その分だけ時間がかかります。OCTの検査料は、眼底三次元画像解析の名称で、1,900円(190点)です。3割負担なら、費用は、570円です。
近視も緑内障も黄斑疾患も見える眼底検査OCT、ご存じですか?

3. 網膜硝子体疾患が疑われる ➡ 散瞳必須、汎網膜硝子体検査(細隙灯と特殊レンズを用いた検査)で立体的に観察

この検査の対象になる病気は、増殖性網膜症、網膜硝子体界面症候群黄斑前膜、黄斑円孔、硝子体黄斑牽引症候群など)又は硝子体混濁を伴うぶどう膜炎など手術が必要に可能性がある病気に限定されます。耳にしたことのない病名が多いかもしれません。増殖性網膜症とは、糖尿病網膜症が重症化した増殖糖尿病網膜症や網膜剥離が重症化した増殖硝子体網膜症などの総称です。これらの病気は網膜硝子体疾患と総称され、共通するのは、硝子体※が網膜を引っ張って(けん引といいます)網膜を傷める病気であるということです。硝子体は網膜と接触していますが、加齢や病的な変化で網膜に危害を及ぼします。このため、硝子体と網膜に起きている立体的な病変を精密に調べる必要があり、汎網膜硝子体検査の出番になります。治療は、硝子体手術という外科治療を行いますが、汎網膜硝子体検査は手術の基盤となるデータを提供する重要な検査です。

汎網膜硝子体検査では必ず散瞳します。散瞳後、細隙灯に顔を乗せます。あなたの目のすぐ前に小さな特殊レンズ(直径3cmくらいの大きさ)を近づけられ、実にまぶしい光を当てられます。特殊レンズを使って細隙灯で見ると医師は目の中を拡大して立体的に見ることができ複雑な病巣を理解しやすくなります。特殊レンズには、目にはめて使うレンズも数種類あり、網膜全体が観察できるレンズや角度の違うレンズが4つついていて網膜全体を拡大して見ることができるレンズなど目的に応じて使い分けます。汎網膜硝子体検査料は片目で1,500円(150点)、両目なら3,000円(112点)ですから、3割負担なら、450円(片目)、900円(両目)です。

※硝子体は、眼球の中を満たす透明なゼリー状の組織で、眼球の形を保ち、光を網膜へと通す役割があります。加齢や病気により濁りや収縮が生じ、網膜をけん引して病気を引き起こすことが知られています。

見える力を磨くこと
─ それが眼科医の修行であり、名医の証となる

筆者の学んだ大学は網膜剥離手術で名をはせていたため、研修医時代は眼底スケッチの厳しいトレーニングでしごかれました。受け持ち患者さんの広い眼底を隅々までスケッチしていきます。眼底に張り巡らされた大小の網膜動脈と静脈を色鉛筆で描き分けます。網膜剥離の原因となる網膜裂孔や網膜円孔を血管の位置を目印に正確な位置を描きます。未熟な研修医でもあり、片方の目に30分~1時間くらいかかっていたと思います。当時の患者さんもたいへんであられたと思います。こうして、眼底の異常を見逃さない眼底検査の力を養わせていただきました。ありがとうございました。そして、眼底検査トレーニングは当時の網膜剥離手術の基礎力となり、手術の時は網膜裂孔や網膜円孔の位置が完全に頭の中に入っていました。眼底を見る力は、手術結果を左右するため、厳しいトレーニングが課されていたのだと思います。

眼科は、病気が目に見える医療という特徴があります。眼科医は、自分の目で見て診断する力を養います。眼底検査も例にもれません。とにかく見る力こそが早期発見力、診断力であり、治療の力なのです。

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