目の生活習慣病「加齢黄斑変性」をご存じですか?【1】

目の健康ブログ

なぜ黄斑は病気になるか?(病因論)

目にも生活習慣病があることをご存じでしょうか?「加齢黄斑変性」という病気です。一般に、生活習慣病というと、生活習慣――すなわち偏食、運動不足、過度な飲酒、喫煙、睡眠不足など――が影響して、血圧・血糖・細胞などに異常が現れ、その異常が長期にわたって続き身体へのダメージが蓄積することで、心筋梗塞や脳卒中、癌、糖尿病といった命や身体機能をおびやかす病気のリスクが高まる状態を指します。

実は、目においても偏食や喫煙などの生活習慣は、視力に大事な黄斑にダメージを蓄積させて「加齢黄斑変性」になるリスクを高めます。「黄斑」は網膜の中心にあり、ものの輪郭や色彩がはっきり見える高い機能を持つ部分です。この黄斑、酸素消費量の多い脳や心筋と同等、あるいはそれ以上に酸素を消費します。つまり、黄斑は酸化ダメージを受けやすい環境にあるのです。偏食や喫煙など良くない生活習慣は酸化ストレスから黄斑を守るしくみを低下させて加齢黄斑変性の発症リスクを高めます。

目の生活習慣病「加齢黄斑変性」

目の生活習慣病「加齢黄斑変性」は、欧米での失明原因1位で、日本では増加しており4位です。
画像は加齢黄斑変性の見え方を示しています。

デジタル社会においてますます重要になる視力を守るため、どういう生活習慣が加齢黄斑変性になるリスクを高めるのかを知っていただき、今から日々の暮らしに活かしていただきたいと願います。

ものを見るとき黄斑に光が集中している

あたりまえのことですが、目はものを見るためにあります。このものを見ることが加齢黄斑変性の原因と言ったら驚かれますか?
実は、これは半分当たっています。人はものをはっきり見るとき、目の角膜と水晶体の力で目に入る光を黄斑に集めています。

ちょうど子供の頃遊んだ虫メガネで光を集めて紙を焼くのと同じです。近視があっても、メガネやコンタクトレンズではっきり見えるのは、光をぴったり黄斑に集めているからです。

つまり、ものがはっきり見えるということは、黄斑に光が集中しているということなのです。

こう説明すると「黄斑が焼けてしまう」と心配されるかもしれませんが、心配はいりません。たしかに太陽の光を直接見続けると黄斑は傷んでしまうのは間違いありません。しかし、普段ものを見るときはもっと弱い光しか目に入ってこないため、すぐに黄斑が傷むことはありません。しかし、たとえ強くない光でも、人がものを見ている限り、その光が黄斑に集まり続けています。

ものをみるということは、大量の酸素消費が必要であるため活性酸素(酸化ストレスの原因)を生み出します。つまり、黄斑は、活性酸素による「酸化ストレス」にさらされ続けます。ものを見るだけで加齢黄斑変性になるわけではありませんが、これに加齢や生活習慣により酸化ストレスから黄斑を守るしくみの低下が加わると酸化ダメージが黄斑に蓄積し加齢黄斑変性のリスクが高まるのです。

酸化ストレスとは?

酸素は生命になくてはならないものですが、酸素の一部は反応性の高い「元気な」酸素である「活性酸素」に変換され、細菌やウイルスを攻撃するなどの免疫機能や細胞の修復に用いられています。目においても、適量の活性酸素は網膜の視細胞の機能や免疫機構の活性化などに用いられています。

活性酸素は、適量であれば有益である反面、過剰になると細胞のDNAやタンパク質、脂質などを酸化し、老化や病気を引き起こす原因にもなる2面性があります。

酸化ストレスは、激しい運動、ストレス、不健康な食事(高カロリー、高脂肪、高糖分)、喫煙、紫外線、大気汚染などにより高まることが知られています。我々の身体は、この過剰な活性酸素の負の働きから身体を守る機能を持ち、バランスが保たれています。

黄斑における酸化ストレスの発生(詳しく知りたい方向け)

黄斑には、光を感じる細胞(視細胞)が非常に高い密度で集まっており、私たちが物の形や色をはっきり見分けるために重要な働きをしています。視細胞は、入ってきた光を電気信号に変えて脳に伝えています。

この活動は、絶えずエネルギーを使い、大量の酸素を消費します。そのため、視細胞の中にある“ミトコンドリア”という小さな発電所が常に働いており、その副産物として活性酸素が多く発生します。

光を電気信号に変えて大量の酸素を消費するのは、視細胞の先端部分(これを「視細胞外節」と呼びます)です。ここは、光を受け取るための膜構造が積み重なっており、DHAという“酸化に弱い油”を多く含んでいます。このため、酸化して古くなった膜構造は毎日少しずつはがれ落ちていき、新しい膜が再生することを繰り返しています。

視細胞外節に隣接する「網膜色素上皮細胞」という細胞が、この酸化した古い膜を食べて掃除し(これを「貪食(どんしょく)」といいます)、新しい膜を再生します。この掃除の過程でも網膜色素上皮細胞の中に活性酸素が生じ酸化ダメージが蓄積していきます。酸化ダメージから守る力が衰えると、黄斑を守るはずの網膜色素上皮細胞の機能が低下したり、死んでしまいます。

黄斑を酸化から守る4つのチーム

黄斑に集中する光が生み出す酸化ストレスから黄斑を守るため、何重もの防御システムが完備されています。黄斑を酸化させる力が強いブルーライト(青色の光)を吸収して減らす機能や、発生した活性酸素を除去する機能、酸化された脂質やたんぱく質を除去する機能や慢性炎症を抑える機能などです。少し専門的な話になりますが、加齢黄斑変性になりにくい生活習慣を理解するのに役に立ちますので、図解してお伝えします。

1. ブルーライトカット機能

最近よく耳にする「ブルーライト」。目に見える光の中に含まれる青色の光成分のこと。太陽の光にも、液晶画面の光にも含まれています。ブルーライトは、目に見える光の中では、波長が短くエネルギーが強く酸化力が強い光です。このため、光が集中する黄斑部にだけ青色光を吸収して減らしてしまう黄斑色素があります(図)。黄斑色素は、ルテイン、ゼアキサンチンなどのカルテノイドからなります。有害な青色光を吸収したり、活性酸素を除去する働きで黄斑を守っています。人は自分でルテイン、ゼアキサンチンを作れないので、食事やサプリで取る必要があります。

2. 抗酸化物質

体内には、SODやカタラーゼなどの抗酸化酵素が存在し、活性酸素を除去しています。また、食物からは、ルテイン、ゼアキサンチン、ビタミンC、ビタミンE、亜鉛、ω-3脂肪酸(DHA、EPA)など、さまざまな抗酸化栄養素を取ることができ、活性酸素を除去したり、細胞の酸化を防いだり、抗酸化酵素を補助したりして、黄斑の酸化を防いでいます。加齢黄斑変性の予防には、こうした抗酸化栄養素を多く含む緑黄色野菜、果物、青魚、ナッツを十分に食生活に取り入れることが重要とされるのは、このためです。

3. 酸化物質のお掃除と再利用(リソソームとオートファジー)

網膜には守り神がいます。先述した「網膜色素上皮細胞(RPE)」です。網膜を裏張りして守っています。網膜色素上皮細胞の役割はものを見るときに視細胞で使い古され酸化した光感受性の膜を除去することでしたね。ものを見るとき目に入った光は網膜の視細胞にある幾重にも折りたたまれた視物質の詰まった膜で電気信号に変換されます。この時、多くの酸素が消費されるため膜は酸化して劣化していきます。この古くなり劣化した膜を網膜色素上皮細胞が食べて取り除くという重要な役割を担っています。その結果、網膜色素上皮細胞の中には、酸化した脂質やタンパクがあふれることになりますが、この酸化物質をリソソームとオートファジーと呼ばれる2つのしくみが除去処理して、視細胞の光感受性膜として再利用をします。喫煙や肥満はこのリソソームとオートファジーの働きを弱め、網膜色素上皮細胞のなかに酸化物質の蓄積を高め加齢黄斑変性のリスクを高めると考えられています。

4. 補体因子H(CFH)

「補体」という言葉は、何なのかイメージが湧きにくい言葉ですね。補体チームは、簡単に言うと私たちの体の中に備わっている“免疫の武器”の一つと考えてください。病原体(細菌やウイルスなど)が体に入ってきたときに、それをすばやく見つけて、攻撃したり、掃除しやすくしたりしてくれる免疫の「助っ人チーム」のような存在です。黄斑に発生し処理しきれなくなった酸化し変性した脂質やたんぱく質などの“細胞のゴミ”は、補体チームに“異物”とみなされやすくなり補体チームがスイッチオンになります。補体チームが過剰に反応すると、周囲の組織にも炎症が広がりやすくなり、これが慢性炎症の一因となり、黄斑の重要な組織の構造と機能が徐々に障害され、加齢黄斑変性の土台が作られます。補体因子Hは、この一歩間違えると危険な免疫系である補体チームのブレーキ役です。実は、この補体因子Hの働きが悪くなる遺伝子多型※を持つ人は、加齢黄斑変性になりやすいことが知られています。また、喫煙や肥満は、補体因子Hを弱め補体系を活性化して慢性炎症を起こしやすくなると考えられています。

※遺伝子多型とは、DNA配列に個人差があり、病気や体質に影響を与えることです。

なぜ加齢黄斑変性になるか?

いよいよ本論です。なぜ加齢黄斑変性になるか?その答えは、ここまで説明させていただいた黄斑を酸化ストレスから守るしくみが弱まることにあります。

守る仕組みが弱くなると、黄斑には酸化ストレスにより酸化・変性した老廃物の残骸が処理できず蓄積していきます。すると、免疫の最前線で働く補体チームが異物と勘違いして起動されます。

補体チームにブレーキをかける力が弱くなると、補体チームが暴走を始め、慢性的な炎症が起き黄斑の組織が徐々に変性して、網膜色素上皮細胞や視細胞がどんどん死んだり(萎縮性加齢黄斑変性といいます)、視細胞を栄養している脈絡膜血管から新生血管が芽生え黄斑下に侵入して水浸しにしたり出血を起こします(滲出性加齢黄斑変性といいます)。

加齢黄斑変性の危険因子

加齢黄斑変性になりやすいリスク因子は、黄斑を酸化ストレスから守るしくみを弱める因子と言い換えることができます。その最大のリスク因子は病名についていることからもわかりますように加齢です。しかし、加齢ばかりはどうしようもありませんね。

次に強いリスク因子は、遺伝的な個性(遺伝子多型といいます)です。約10か所に加齢黄斑変性に関連する遺伝子多型が報告されていますが、なかでも補体系タンパク(補体因子Hや補体C3)に見られる遺伝的な個性は3か所見つかっており、このために補体系が暴走しやすい体質の方は加齢黄斑変性になりやすいと考えられています。遺伝的な個性も、自分で変えられないリスクです。

そして、3番目に強いリスク因子は、喫煙であることが分かっています。喫煙は、肺がんや喉頭がんのリスクだけではないのですね。喫煙は、黄斑を守るすべてのしくみを弱らせます。禁煙は努力ができます。

その他のリスク因子に、偏食による抗酸化栄養素不足、肥満、過度の光暴露(紫外線やブルーライト)が挙げられています。このなかで特に、抗酸化栄養素は、サプリメントで補うことで加齢黄斑変性の進行を抑える効果があることが証明されています※※。
※※Lutein + Zeaxanthin and Omega-3 Fatty Acids for Age-Related Macular Degeneration
The Age-Related Eye Disease Study 2 (AREDS2) Randomized Clinical Trial

黄斑を酸化ストレスから守る生活習慣

黄斑の健康を守るとは、酸化ストレスから黄斑を守る力を落とさない生活習慣を身に付けることです。加齢とともに、酸化ストレスから黄斑を守るチームプレイは低下していきます。加齢という避けられない土台の上に、遺伝的弱点(特にCFHとARMS2の遺伝子多型)と喫煙が重なると、黄斑を守る力が著しく衰え加齢黄斑変性の発症リスクが劇的に高まります。このため、遺伝的弱点を持つ方は禁煙が望ましいといえます。

最近は、遺伝子解析サービスの中に、加齢黄斑変性の遺伝子多型解析が含まれているサービスが増え、比較的簡単に調べられます。

そして何よりも強調したいのは、多種類の抗酸化栄養素を含む食材を日々の食事に取り入れていただきたいのです。具体的には、さまざまな緑黄色野菜、果物、青魚、ナッツ類を食事に取り入れる工夫をしていただくと良いでしょう。その根拠は、抗酸化栄養素(ビタミンC、ビタミンE、ルテイン、ゼアキサンチン、オメガ3脂肪酸(DHA/EPA)、亜鉛、銅)をパックしたサプリメント(薬局で購入可)が、加齢黄斑変性の進行を遅らせる効果が、エビデンスレベルの高い臨床研究により証明されていることです。だからと言って、このサプリメントを服用すれば食生活は気にしなくよいかというと、それは本末転倒で間違いです。このサプリメントは加齢黄斑変性が発症後に病気の進行を遅らせる効果が証明されているだけで、健康な目の人に加齢黄斑変性の予防効果があるかどうかはわかっていません。一方、複数の疫学調査で緑黄色野菜、果物、青魚、ナッツ類が加齢黄斑変性の予防効果があることが示されています。

今あなたが加齢黄斑変性でなければ、まず食事から抗酸化栄養素を摂取して、目だけではなく全身の抗酸化生活習慣を身に付けていただきたいと思います。そして、既に加齢黄斑変性で治療中の方は、眼科医の治療と並行して、食事+サプリメントで、最大限に黄斑を守ってください。我々は、加齢と遺伝には抗えませんが「抗酸化生活習慣」により、黄斑に酸化老廃物を溜めて補体チームの暴走を招くことを防ぐことはできるのです。

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