近視が強い方の網膜剥離対策
近視の目は若くして網膜剥離になりやすい

近視が強いと網膜剥離になりやすいことはご存じでしょうか?13倍なりやすいという調査結果も。単になりやすいだけではなく比較的若い年齢で網膜剥離になりやすくなります。学生や働き盛りの年齢で網膜剥離になると、学業・スポーツや仕事を休まなければなりません。網膜剥離は多くは手術により治る病気です。しかし、発見と治療が早いほど治療に手間がかからないこと、よりよい視力を守れることはあまり知られていないようです。この記事では、なぜ近視の強い方は網膜剥離になりやすいのか?なぜ早期発見するほど結果が良いのか?どうすれば早期発見できるのか?にお答えしていきたいと思います。知っていただくことで、網膜剥離がもたらす人生への影響を小さくすることができるからです。
なぜ近視が強いと若い年齢で網膜剥離になりやすいのか?
近視のほとんどは「軸性近視」です。軸性近視とは、成長期に目が前後に成長しすぎるために、目に入る光の焦点が網膜より前に来てしまう現象です。このため凹レンズのメガネやコンタクトレンズで焦点を後ろへずらして網膜に合わせると良く見えるようになります。

さて、近視の説明はこれくらいにして、なぜ近視が進むほど網膜剥離になりやすいかに話を移しましょう。その理由は、次の2つ。
1. 目が前後に伸びすぎることで網膜が薄くなる

予定されていたよりも過度に眼球が伸びるためでしょう。網膜は薄くなり、その分弱くなります。さらには、強度近視の目には、「格子状変性」と呼ばれる薄くてもろい部分が赤道部付近の網膜にできることが多いのです。格子状変性は、その中で網膜が薄くなり小さな丸い孔が開いたり(「網膜円孔」といいます)、詳しくは後で説明しますが硝子体に引っ張られて裂けやすい(裂けると「網膜裂孔」といいます)危険な部位です。
網膜円孔は10代、20代で見つかることが多く、おそらく10代で形成されることが多いと考えられます。10代~30代に多い網膜剥離は、この網膜円孔によるものです。


2. 目の中身である硝子体の変性・収縮が速く進む
硝子体の変化を理解することが鍵になります。そこで、誰にでも起きる硝子体の加齢変化と近視が強い場合にどうなるかを説明します。
- だれにでも起きること
硝子体は「しょうしたい」と読みます。硝子体は、眼球の中身です。例えるなら「ブドウの果肉」です。硝子体は、コラーゲン線維とヒアルロン酸からなり水分が99%を占める透明な弾力のある組織です。コラーゲン線維は網目状の構造を作り、網目の中空に大量の水分を保持したヒアルロン酸が充満することで、硝子体は透明なゼリー状態を保持しています。幼いときは、硝子体は網膜と接着しています。特に接着が強い部位は、網膜の赤道部(格子状変性ができる部位)>視神経乳頭>網膜血管>黄斑の中心窩 という順です。
誰でも起きるのですが、硝子体は加齢とともに「液化現象※」が起きて収縮していきます。
その結果、硝子体はボリュームを減らします。つまり、干しぶどうのような状態です。眼の皮はブドウのように柔らかくなく硬い強膜に覆われて剛性があるため、干しぶどうになる代わりに、縮んだ硝子体は網膜から離れていきます。網膜血管➡中心窩➡視神経乳頭の順に離れます。視神経乳頭から離れたら、「後部硝子体剥離」が起きたといいます。後部硝子体剥離はだれにでも起きる加齢現象です。


この時、ほとんどの人は、網膜を傷つけずに離れます。剥がれた硝子体の後ろの部分に「グリア環」などの濁りがあるため、これが目に見えて飛蚊症になります。一方、一部の人は、赤道部の網膜が引っ張られて裂けて孔になり(網膜裂孔)網膜剥離になります。中心窩が引っ張られて孔が開く場合もあります(黄斑円孔)。
- 近視が強いとどうなる?
近視が強くなると硝子体の液化現象が早まります。このため硝子体が網膜から離れる後部硝子体剥離が比較的若い年齢で起きます。近視が強くない目は、50歳以降に後部硝子体剥離を起こす人が増えますが、近視が強いと30代、40代で後部硝子体剥離を起こす人が多いのです。つまり、近視が強い目は網膜裂孔による網膜剥離も、30代、40代と比較的若い年齢で多いのです。
液化現象とは
- コラーゲン線維の変性
加齢によりコラーゲン線維が分解・凝集し、網目構造が崩れ、硝子体が均一なゼリー状から液体状へ変化します。
- ヒアルロン酸の劣化
ヒアルロン酸の水を保持する能力が低下し、液体部分(液状化硝子体)が増加し、硝子体内に「水っぽい部分(液体部分)」と「濃縮した線維の塊」ができます。
【強度近視の網膜剥離のまとめ】
網膜円孔による網膜剥離は進行が遅く、網膜裂孔によるものは速い
2つの網膜剥離の特徴をまとめます。
網膜円孔による網膜剥離
10代~30代で発症することが多いです。網膜円孔は、飛蚊症などの症状を伴わず静かに時間をかけて形成されます。網膜円孔による網膜剥離は進行がゆるやかであるため緊急性は低いとされています。このため、症状に乏しく網膜剥離がかなり進んで視野に見えにくい場所があることに気が付いて発見されます。自覚症状が無く、たまたま、コンタクトレンズなど他の理由で眼科を受診して散瞳による眼底検査を行い発見されることもしばしばです。治療は手術で、強膜内陥術を行います。
網膜裂孔による網膜剥離

近視が強い方は、30代、40代で発症することが多いです。網膜裂孔は大きく、硝子体に強く引っ張られているため、網膜剥離は急速に進みます。このため、緊急手術が必要になります。飛蚊症や光視症などの症状を伴うことが多く(詳細は後述)、そういう症状が出たら即座に眼科を受診する必要があります。治療は手術で、強膜内陥術か硝子体手術を用います。網膜剥離の状況、白内障の有無、年齢を考慮して術式の選択を行います。
網膜剥離は早期発見するほど良く治り、良く見える
その理由を、順を追って説明します。
網膜剥離の進行と自覚症状
網膜に孔が開くと、網膜剥離は孔の周りから剥がれ始め、広がっていきます。網膜の中心部には視力を担当する黄斑(おうはん)がありますが、網膜剥離は広がり黄斑に近づき、黄斑を剥離させ、最後は網膜全部が剥離します。剥離した部位は機能が低下して見えなくなりますから、最初のうちは気が付きにくいですが、網膜剥離が黄斑に近づくと見えにくい場所があることに気が付きます。黄斑が剥離すると、ものがあまり見えなくなります。
網膜が剥離している間は視細胞が減少していく
網膜の光を感じる視細胞は、その土台から酸素や栄養を供給されていますので、土台から剥離すると視細胞の死活問題になります。剥離している日数が長くなると視細胞は死滅し、視機能を取り戻せなくなります。特に、視力を担当する黄斑が剥離する期間が長ければ長いほど、死んでいく黄斑の視細胞が増え、たとえ治っても視力回復がより不良になります。このため黄斑が剥離する前に治療を開始できるのが望ましいのです。発見時、すでに黄斑が剥離している場合は、できるだけ早く手術で治す必要があります。
早期発見・早期治療の効用
発見と治療が速いほど、治療の手間が小さく、よりよい視力を守れます。発見のタイミングごとに見ていきます
- 網膜円孔や網膜裂孔が生じているが、網膜剥離は無いか、孔の周囲にわずかにあるのみ
この段階では、レーザーで孔の周囲を焼き固めて網膜剥離を防げる可能性が高いです。網膜光凝固術といいます。この治療で治れば、目にメスを入れず外来で治療できますので、網膜剥離手術に比べて、手間も苦労も費用も小さくて済みます。視力も低下しません。硝子体の孔を引っ張る力が急激で強い場合は、網膜光凝固術では網膜剥離を防げないこともあり、術後経過観察が必須です。
- 網膜剥離が起きているが、黄斑は剥離していない
網膜剥離手術による治療が必要です。この段階で治せれば、黄斑の機能が低下せず視力は守れます。
- 黄斑まで剥離している
黄斑はダメージを負います。治癒後の視力回復は黄斑のダメージの程度によります。次のような傾向があります。
- 黄斑が剥離している期間が長いほどダメージは大きい
- 黄斑部の剥離の丈が高いほどダメージは大きい
- 高齢であるほどダメージは大きい
- ほぼ網膜全体が剥離している
ここまで進むと黄斑が剥離している期間が長く、黄斑部の剥離の丈も高いことが多いため、視力の回復は不良になる傾向があります。また、網膜剥離の範囲が広いほど、目の中の細胞が散布され増殖し、網膜の表や裏に線維膜が形成されて、これが網膜剥離を促進するため、手術の難易度が上がります。増殖硝子体網膜症と言います。1回の手術で治らないリスクが高まります。
網膜剥離を早期発見する方法
近視が強い方は一度は眼底検査を受け格子状変性と網膜円孔の有無を知る
網膜円孔による網膜剥離は、範囲が狭い間は、自分では気が付けないことが多いため、発見するには眼科で散瞳して眼底検査を受ける必要があります。近視が強い方は、高校卒業や20歳のタイミングで一度は眼底検査を受けていただき格子状変性の有無、網膜円孔の有無を調べておいて欲しいと思います。格子状変性や網膜円孔の存在は眼底検査を受けない限り知ることはできません。
眼底検査で後部硝子体剥離の有無を知る
散瞳して眼底検査を受ければ後部硝子体剥離の有無が分かります。後部硝子体剥離が起きるときに、網膜裂孔が生じるのでしたね。後部硝子体剥離が起きていて、網膜剥離が無ければ、網膜剥離にはなりにくいと言えます。逆に、まだ後部硝子体剥離が起きていなければ、今後、後部硝子体剥離が起きるということであり、飛蚊症などに注意してその時期になったときに気が付くことが重要です。
飛蚊症の変化と光視症に注意する
後部硝子体剥離が起きるとグリア環が生じて飛蚊症が出るのでしたね。飛蚊症が出たら、できるだけ早く眼底検査を受ける必要があります。問題は、後部硝子体剥離が起きていなくても、硝子体線維の混濁による生理的飛蚊症が見えている人がかなりいることです。自分では区別できません。すでに飛蚊症が見えていても、急に増えたら要注意と考えていただきたいです。また、飛蚊症とともに、存在しない光がパッパッと走ったら危険サインです。光視症と言います。光視症は、網膜が引っ張られている証拠。光視症を伴うと飛蚊症だけよりも孔が開くリスクが高いと言えます。


見えにくいところ(視野欠損)に気がついたらすぐ眼科
網膜剥離が黄斑に近づくと見えないところがあることに気が付くことがあります。黄斑が剥離する前に治療が必要です。安静にしてすぐ眼科にかかりましょう

治療の考え方(参考)
網膜剥離は手術で治します。網膜剥離手術は2つの方法があります。目の外側からアプローチする強膜内陥法と目の中からアプローチする硝子体手術です。年齢と網膜剥離の状態を考慮して選択します。
1. 強膜内陥法

若い方で網膜円孔による網膜剥離の場合は、この術式を選択することが多いです。シリコンスポンジなどを眼球に縫い付けることにより、目の壁である強膜を網膜の孔の位置で窪ませて孔をふさぎます。網膜の下に溜まっている水分は、強膜に孔をあけて外から抜きます。熱凝固あるいは冷凍凝固で孔の周囲を瘢痕化させ癒着させます。
2. (小切開)硝子体手術

1以外の場合は、この手術を選ぶことが多いです。先述した硝子体の液化現象が進んだ眼は、この術式に合っています。また、網膜裂孔による網膜剥離は、この術式が選ばれることが多いです。現在は、トロカールを用いて27ゲージという太さの細い手術器具を用いて行う小切開硝子体手術が主流になっています。硝子体を切除して、網膜裂孔を引っ張る硝子体の力を解除します。網膜の下に溜まっている水分は、網膜の孔越しに抜きます。孔の周囲をレーザーで熱凝固して瘢痕化させ癒着させます。
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