近視と言われた小学生が始めるべき予防治療

目の健康ブログ

近視の強さは小学校時代にほぼ決まります

小学校の学校検診での視力検査でBやCの判定がついた用紙を持ち帰って近視の心配が始まります。「前回は大丈夫だったのに」と思いながら眼科を受診して、「近視で裸眼視力が低下しています。」と告げられます。
「あー、来たか」、「メガネか」、「まだメガネは大丈夫よね?」親としては、いろいろな思いが湧いてきます。付き添いのお母さんやお父さんが、いちばん気にされるのは、メガネをかける必要があるかどうかに関してであることが多いです。
もちろん、メガネは適切な時期に開始すべきですが、メガネ以上に注意を向けていただきたいことがあります。
それは、近視の強さと進む速さをスローダウンさせる必要があることです。

なぜ、小学生で近視進行のスローダウンが必要なのか?

小学校で6歳から12歳を過ごします。東京都内の調査では、小学校入学時に半数以上の子が近視でした。つまり、6歳ですでに近視は始まっています。一般に近視は、15歳くらいまでかなりの速さで進行します。
つまり、ひとり一人の近視の強さは、ほぼ小学校の間に決まるといっても間違いありません。そして、強い近視になると、将来人生の随所で、さまざまな目の病気になり苦労する可能性が高まります。
さらには、とても強い近視になると、治療法のない目の病気になり、実際失明されている方もいるという現実があります。多くの眼科医は、そうした患者さんを診察し、治療にあたる経験から、子供の近視を強めてはいけないという強い気持ちを持っています。

さらに詳しく ➡
強い近視の人生行路【1】学齢期のできごと
強い近視の人生行路【2】働き盛りのできごと
強い近視の人生行路【3】シニア世代のできごと
近視が強くなると失明するって本当?

小学校で近視と言われたら、近視進行の予防治療が望ましい理由

前の記事で、就学前から近視を加速させないライフスタイルを身に付けることが大切であるとお伝えしました。
では、小学校で近視と言われた場合はどうかというと、ライフスタイルの見直しだけでは十分でないと実感することが多いです。
つまり、近視進行予防治療を取り入れることが望ましいと考えています。

その理由は次の2つが挙げられます。

  • 理由1.すでに近視が加速して進んでいる

  • すでに走っているものを止めるのは高いエネルギーが必要です。走っている自動車を想像すると感じられると思います。小学校で近視であるということは、すでに走り始めているということです。具体的には、目の前後の長さ(=眼軸長)がどんどん伸びています。来年には目はもっと伸びて近視はもっと強まります。これにブレーキをかけるには、近視進行予防効果をできるだけ高める必要があり、ライフスタイルの改善とともに、近視進行予防治療を始めることが望ましいと考えられるのです。

    就学前から近視を強めないライフスタイルを身につけようPart.1

  • 理由2.ライフスタイルを急に変えることに困難を感じる

  • 医師に屋外で過ごす時間を増やしたり、30cm以上距離を開けて画面を見るようにとアドバイスを受けても、「言うは易く行うは難し」です。診察に同席する親御さんとの会話からも感じ取れます。

    就学前から近視を強めないライフスタイルを身につけようPart.2

小学校で近視と言われたら近視の強さに注目する

近視と言われたとき、視力がどれくらいかを気にする親御さんは多いですが、近視の強さを気にする方は少ないです。視力以上に近視の強さに聞き耳を立てていただきたいと思います。

近視の強さを説明します。遠くにピントが合っている目を正視と言います。近視は、ピントが遠くから近くにずれている状態です。どれくらいズレているかを、屈折の強さであるジオプター(D)で表現します。屈折とは、レンズなどで光が曲がる強さのことです。単純化した具体例を挙げると、-3ジオプターの近視の場合は、ピントが目の前30cmにまでズレていますが、3ジオプターの凹レンズをメガネに入れると、近くにずれていたピントが遠くに矯正されて視力が良くなります。メガネやコンタクトレンズの度数と考えていただいても間違いはありません。近視の強さとは、視力ではなく、このズレている屈折の強さのことなのです。

参考までに、近視の強さの段階を以下にあげます。

近視の強さの段階

  • 軽度近視  ➡  -0.5D以上-3.0D未満の近視
  • 中等度近視 ➡ -3.0D以上-6.0D未満の近視
  • 強度近視  ➡  -6.0D以上(-6.5D以上とする場合もあり)の近視

小学校に入学したとき軽度近視の子が多いと思いますが、軽度でも-0.5Dと-2.5Dでは全然違います。-2.5Dの場合は、あと-3.5D進めば強度の近視になります。アバウトですが、小学生の間は平均的に-0.5Dずつ進みますので、小学生の間に強度近視に近づきます。近視が進む速さは個人差が大きく、近視進行が速い子の場合は、小学生の間に強度近視になる可能性があります。小学1年で中等度近視だと、もっとそのリスクは高まります。小学校に入ったときの近視の強さによって将来のリスクが大きく変わります。

近視の症状の程度を知る

近視進行の予防治療が強く勧められるお子さんとは?

近視進行予防治療は健康保険が効きません。もちろん、子供の健康はお金には代えられませんが、強い近視になるリスクのない子にまで近視進行予防治療を勧めるつもりはありません。強い近視になるリスクが高いとわかる子には、近視進行予防治療を検討いただきたいと願います。そのリスクの高い子が、どういう子か挙げてみます。

小学校低学年で近視が強い子

先ほどの説明にあった近視の強さです。小学1年で近視が強いほど、将来強度の近視になる可能性が高いといえます。具体的な目安ははっきりしていませんが、小学1年で-2.0Dより強い近視を目安とするとイメージしやすいと思います。小学校低学年(6歳~8歳)で-3.0を超える中等度近視になった場合は、特に要注意です。ある調査では、小学校低学年に相当する6歳児、7歳児、8歳児が、その後の5年間で平均-3D以上も近視が進みました※1。すなわち、小学校低学年で-3.0Dを超える中等度近視になった場合は、5年後に-6Dを超える強度近視になる可能性がかなりあることを示しています。

※1.Longitudinal analysis of 5‑year refractive changes in a large Japanese population

近視の進行が速い子

アバウトに小学生の間は平均的に-0.5Dずつ進むと説明しましたが、個人差が大きく近視の進行が速い子どもは、年間で-0.75D〜-1.00Dの速度で進行する子もいます。中には、-1.00Dより速い子もいます。

親が近視の子

さまざまな調査で親が近視の場合は、子も近視になりやすいことがわかっています。両親ともに近視だと近視になる圧力はとても強く、特に注意が必要です。上記した、小学校低学年で近視が強い子の多くは、親も近視だと思います。親が近視という事実は、子供が生まれた時からわかっているはずの事実ですから、本当は就学前から近視が進みにくいライフスタイルの習慣化に注力するのが理想です。

具体的な目標

近視の強さをジオプター(D)で表すことを知っていただいた今、超えないで欲しい近視の強さの目安をジオプターと目の前後の長さ(眼軸長)で提示します。
あくまで目安です。少しでも近視が強くない方が良いのは言うまでもありません。

  • 目安1. 防ぎたい近視の強さ「屈折-6.0D または 眼軸長26.5mmを超える近視」

  • 屈折-6.0D または 眼軸長26.5mmを超える近視を強度近視と言いますが、強度近視の目は、緑内障、網膜剥離、若年の白内障などの目の病気になりやすくなるためです。
    90%の人に40歳以降に目の奥だけが突出してくる「後部ぶどう腫」と呼ばれる変化が生じ、視力に影響する黄斑の病気になりやすくなります。

    近視から派生する眼の疾患を知る

  • 目安2. 絶対に防ぎたい近視の強さ「屈折-10.0D または 眼軸長30.0mm」を超える近視

  • 最強度の近視と言う場合もあります。「脈絡網膜萎縮」という失明原因5位の目の難病になるリスクが相当高くなります。前述の「後部ぶどう腫」が強くなり、目の奥の形状が大きく変形し耐えられなくなった網膜の土台が破綻する病気です。

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アウトドアと近視進行の予防治療でシナジーをめざそう

小学生で近視、特に強めの近視、と言われたら、ぜひやっていただきたいのは、ライフスタイルのアウトドア化と近視進行予防治療の2つを実行し、相乗効果(シナジー)をねらうことです。

近視を進めないライフスタイル

近視を進めないライフスタイルとは、ひとことで表現すると「アウトドア活動」です。日なたでも日陰でも良いので、屋外で過ごす時間を十分とることが、最強の近視抑制法です。
目安は、一日に2時間。細切れでも構いません。登下校の時間もアウトドア・タイムに入れて構いません。週末は、公園で過ごすとか、日陰で読書やタブレットを見るとか、野球やサッカーなどの屋外スポーツをするとか、ご家庭に合った、実行可能なことを検討してみていただきたいと思います。
いきなり2時間と考えず、10分でも、20分でもけっこうですので第1歩を踏み出しましょう。
近視を進めないライフスタイルの詳細は、下記サイトを参考にしてください。

就学前から近視を強めないライフスタイルを身につけようPart.2

近視の対策と進行予防を知る

近視進行予防治療について

近視進行をスローダウンできることが証明された方法は10種類近くありますが、すべてが日本で受けやすいわけではありません。現在の日本で、近くの眼科で受けやすい近視進行予防治療は点眼治療オルソケラトロジーの2つです。
この2つを併用すると効果が高まることも証明されています。

①点眼治療:低濃度アトロピン点眼

低濃度、すなわち、0.01%または0.025%のアトロピン点眼薬を毎日寝る前に点眼するという比較的誰でもできる治療です。アレルギーを起こす子が稀にいますが、それ以外明らかな副作用はありません。
アトロピン点眼薬は、昔から眼科で用いられてきた身近なお薬です。正確には、1%アトロピン点眼薬です。副交感神経支配の筋肉に働き、瞳孔を大きくする(散瞳)したり、ピントを調節する筋肉を休ませ目を安静にする目的で今でも用いられていますが、近視の進行を抑える強い効果でも知られていました。しかし、瞳が大きくなるため、まぶしくなり、ピントが合いにくくなるため、病気のない目に毎日使用することはできませんでした。
そこで、シンガポール国立眼科センターが、濃度を100分の1くらいに薄くしてもある程度の近視進行予防効果があり、副作用が使用可能なレベルに激減することを証明して、製薬化されたのが「マイオピン」です。

低濃度アトロピン目薬の詳細へ

②オルソケラトロジー

オルソケラトロジーは、屈折矯正治療のひとつです。毎日寝ている間に目に特殊なコンタクトレンズをはめて角膜のカーブを平たん化することにより、起きている間はメガネやコンタクトレンズを使用しなくても良好な視力が出ます。もともと大人用でしたが、子供が使用すると近視の進行を抑える効果があることが分かってきました。なぜ近視の進行を抑えることができるかは、下記記事に譲りますが、低濃度アトロピンよりも効果が高く、また低濃度アトロピンと併用すると、単独治療よりも効果が高いことがわかってきました。
裸眼で生活でき、近視の進行も抑えられるという一石二鳥のオルソケラトロジーですが、寝ている間、特殊なコンタクトレンズをはめることに慣れることができるかがハードルです。近視の進行が速い小学校の数年間使用できると大きな武器になります。

オルソケラトロジーの詳細へ

では、我が家はどうする?

通して読まれて、全部やってみようと思われる方もいれば、全部は無理と思われる方もおられるでしょう。ご家庭により事情も異なります。まず、今のお子様の近視が、どの程度で、ライフスタイルがどういう状態で、このままいくと、成人したときにどの程度の近視になるかをアバウトに把握することから始めていただきたいと思います。眼科医が手助けできます。

そして、家族で共有して話し合いを行い、ご家庭に合った作戦を立てていただきたいと思います。基本は、できることから始めて、広げていく、です。

人は行動を起こす時、モチベーションが必要です。近視が強くなると、人生にどういう影響が出るのかを知っていただくことが大切と考えています。その上で、わが子の近視の強さに意識を向けていただくと、行動を起こす原動力が生まれると信じます。

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