近視が強くなると眼球の後ろが飛び出てくる?

目の健康ブログ

失明リスクとなる後部ぶどう腫とは

ショッキングなタイトルではありますが、眼球の後ろが飛び出てくる現象は、近視が強くなると本当に起きる現象です。目の外から見ると「飛び出てくる」、目の中から見ると「凹んでいく」と表現できる目の変化を「後部ぶどう腫」といいます。後部ぶどう腫は、いわば眼球の後ろの部分だけが風船のように膨らんで、薄くなった目の状態です。

後部ぶどう腫の中では、さまざまな網膜の病気が起きて、視力が障害されます。この状態を「病的近視」といいます。病的近視の中でも、「脈絡網膜萎縮」という病気が起きると失明まで進むことがあり、実際、失明原因の第5位を占めています。本記事では、病的近視の原因となる「後部ぶどう腫」について知っていただき、子供の近視進行を抑えることの重要性について解説します。

近視が進行すると2人に1人が病的近視に

強度の近視になった人の約半数が病的近視の所見を持つことが報告されています。(IMI Pathologic Myopia

近視が強くて裸眼視力が悪いだけなら、近視矯正を行うことで裸眼の不便ささえ解決すれば、通常の生活は問題なく送れます。しかし、病的近視になると矯正した視力が低下するおそれがあり、日常生活に影響し、さらに進行すると視覚障害や失明のリスクが出てきます。

近視が強いほど病的近視になるリスクが高まることがわかっています。子供時代に少しでも近視を強くしないことが重要なのです。

近視が強くなると、いつ病的近視になる?

幼少期に近視が強くなっても、いきなり病的近視になるわけではありません。

子供時代に近視になるということは、成長期(6、7歳~15歳)に眼球が前後に長く伸びて、網膜がピントの位置を追い越していくという現象です。そして、伸びすぎて26.5mmを超えると「強度近視」と呼ばれるようになります。屈折で言うと-6.0ジオプターを超えます。

成人すると、いったん眼球が伸びる現象は止まり、近視の進行もほぼ止まります。ところが、強度近視の方の90%は、40歳を超えたあたりから眼球の後ろの部分だけが徐々に伸び始め、「後部ぶどう腫」になっていくと考えられています。

どうして近視が強くなると病的近視になる?

近視が強いほど眼球が前後に伸びるわけですが、そうすると、眼球の壁が薄くなります。風船をふくらますとゴムが薄くなるようなイメージです。実際、近視が強い目の眼底を検査すると、本来は見えにくい、網膜の奥にある「脈絡膜」という血管が透けて見えます。目の壁が薄いということは、眼球内の圧に弱くなります。これが、後部ぶどう腫ができる原因かもしれません。

しかし、次の2つの謎が浮かび上がります。

  1. なぜ若いときは平気なのに、40歳を超える中高年期に後部ぶどう腫が進むのか?
  2. なぜ、眼球全体ではなく、眼球の後ろの部分だけくぼむのか?

これら謎は、今後の解明が待たれます。

そして、後部ぶどう腫が形成されると、元々薄くなっていた目の壁はさらに薄く引き伸ばされて、目の構造を保つ限界を超えます。これはさまざまな眼底の病気になりやすい状態で、この状態を「病的近視」と呼びます。

なぜ「後部ぶどう腫」と呼ばれるのでしょうか?

余談ではありますが、これは、かつて眼科がまだ発展途上の時代に行われた眼球摘出で、後部ぶどう腫を目の外から見ると黒ぶどうのよう見えたためです。
後部ぶどう腫の部分は、目の壁である白色の強膜も薄くなります。本来、強膜は厚いため、目の外側から中身は見えないのですが、後部ぶどう腫では強膜が薄くなり、目の中身に存在する茶色い脈絡膜が透けて見えるようになり、黒ぶどうのように見えたことが由来となります。

後部ぶどう腫はさまざまな目の病気を引き起こす

後部ぶどう腫が進むと目の壁の内側にある網膜と網膜を栄養している血管網である脈絡膜が極端に薄くなり、黄斑の病気が起きます。

黄斑は網膜の中心にある視力を司る一番大事なところです。このため黄斑の病気になると見たいところが見えにくくなったり、歪んで見えたりします。

具体的には、黄斑部出血、近視性牽引黄斑症、黄斑円孔、黄斑前膜、脈絡網膜萎縮などさまざまな病気が起きるのです。(詳しく知る
このうち、黄斑部出血、近視性牽引黄斑症、黄斑円孔、黄斑前膜は、医学の進歩のおかげで手術や薬物注入により治療可能になっており、失明にまで至ることはほとんどありません。

失明という観点では、治療法がない脈絡網膜萎縮が大きな問題なのです。

【失明原因】脈絡網膜萎縮について

病的近視のひとつである「脈絡網膜萎縮」(みゃくらくもうまくいしゅく)は、失明原因の第5位を占めています。

脈絡網膜萎縮は、聞き慣れないと難しい医学用語かと思いますが、「脈絡」は網膜を栄養している血管網で、この脈絡膜と網膜が、後部ぶどう腫のなかで薄く引き伸ばされて、傷んでしまう病気を「脈絡網膜萎縮」といいます。

網膜はものをみるための中枢神経ですから、網膜が萎縮した部位は見えなくなります。
脈絡網膜萎縮は、最初は部分的に起き、ゆっくりしたスピードで範囲が広がったり、強くなっていきます。

脈絡網膜萎縮のリスクがある目について

脈絡網膜萎縮を起こすリスクは、近視が強いほど高まることは間違いありません。

具体的には、近視がー9ジオプターを超える目、目の長さ(眼軸長)で言うと29mmを超える目は、50%の可能性で脈絡網膜萎縮を発症することが示されています。

近視が-10ジオプターを超える目、目の長さ(眼軸長)で言うと30mmを超える目は、脈絡網膜萎縮を発症する可能性が特に高いため、注意が必要になります。

脈絡網膜萎縮には治療法がないため、強度近視の予防が重要

脈絡網膜萎縮は、現在の医学では治療法がありません。そのため、子供の時に近視の進行を予防して、少しでも軽度な近視に抑え込むことが唯一の方法と言えます。

先述したように、病的近視は40歳以降に始まります。何十年も先のことにいま努力を積むことは、苦手な意識を持つかと思います。その点は、高血圧や糖尿病に似ているかもしれません。
しかし高血圧や糖尿病は、気が付いたときに生活習慣を変えて、お薬を飲むことで良くすることができますが、病的近視は、気づいたときにはすでに進行してしまっていることが多いです。

予防のチャンスは子供の時期のみで、子供を守れるのは親だけです。近視の進行を遅らせる方法をぜひ知っていただき、早めの対策をしていきましょう。

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