眼精疲労の原因と治し方|遠くを見ると目が楽になる理由を眼科医が解説
パソコンやスマートフォンの長時間使用によって起こる目の疲れは、「デジタル眼精疲労(Digital Eye Strain)」と呼ばれます。近年、デジタル化の急速な進展により生活は便利になりましたが、その一方で眼精疲労に悩む方は増えています。
眼精疲労には、ピント調節の負担や両眼を内側に寄せる働き、まばたきの減少などが関係しています。
こうした負担を和らげる方法として、眼科では「遠くを見る」という非常にシンプルな対策が勧められています。
目の不調として多くみられるのは、次のような症状です。
- 目が重い
- 目が痛い
- 見え方がぼやける
- 充血する
- 目が乾く
このような症状が続く場合、眼精疲労の可能性があります。実際に眼科を受診しても、ドライアイ以外に明らかな異常が見つからないケースも少なくありません。
この記事では、眼精疲労の原因から治し方、日常でできる対策、予防のポイントを、眼科医の視点でわかりやすく解説します。
目次
眼精疲労とは?パソコン作業で起こるデジタル眼精疲労
デジタル眼精疲労の主な症状

パソコンやスマホを使う時間が長い人の中には、目の不調を感じる方が少なくありません。
- 目の奥が痛い
- 目が重い
- 目がかすむ
- 目がしみる
- 夕方になると頭痛がする
こうした症状が続くと、「何か目の悪い病気ではないか」と不安になって眼科を受診される方もいます。実際には、ドライアイ以外に大きな異常が見つからず、長時間のパソコン作業やスマホ使用が原因と考えられることが少なくありません。
現代の生活では、仕事でも私生活でも、近くの画面を見続ける時間がとても長くなっています。こうした生活が、目の疲れを起こしやすくしているのです。
デジタル眼精疲労の治療 – 目薬だけで十分とは限らない

眼精疲労の治療では、ドライアイに対する点眼や、ピント合わせに関わる筋肉をゆるめる点眼が用いられることがあります。しかし、こうした治療によって一時的に症状が軽減しても、十分な改善が得られない場合も少なくありません。なぜでしょうか?
本来、治療の基本は「原因を取り除くこと」です。しかし、眼精疲労の主な原因であるパソコン作業やスマートフォンの使用は、現代社会において減らすことが難しいのが現実です。だからこそ、眼精疲労が起きる理由を知り、短時間でもいいので「遠くを見ること」を習慣にする工夫をすることが現実的な対策となります。
眼精疲労の原因|近くを見続けると目に何が起こるのか
近くを見続けると、目はずっとピントを近くに合わせ、両目を内側に寄せ、まばたきを減らした状態になります。こうした目の負担が重なることで、目の痛みや重さ、ぼやけなどの症状が起こりやすくなります。
眼精疲労の主な原因は、次の3つです。
- ピント合わせや目を寄せる負担が続く
- まばたきが減る
- 脳や自律神経にも負担がかかる
近くを見るときは3つの反応が同時に起こる(近見三徴)
私たちは普段、何気なくものを見ていますが、その裏では近見三徴の働きが精密に連動することで、対象をはっきりと認識しています。
近くを見る際、目の中では次の3つの反応が同時に起こっています。
- ピントを合わせる働き(調節)
- 両目を内側に寄せる働き(輻輳)
- ひとみが小さくなる反応(縮瞳)
このうち、眼精疲労に大きく関わるのは「調節」と「輻輳」の2つです。縮瞳は近見時(近くを見るとき)に起こる反応のひとつですが、疲労への関与は比較的小さいと考えられています。
以下では、これら2つの働きを中心に解説します。
ピントを合わせる筋肉が疲れる(調節)

近くにピントを合わせる「調節」は、水晶体の周囲を取り囲むリング状の筋肉によって行われます。この筋肉は「毛様体筋」と呼ばれます。近くを見ると毛様体筋が収縮してリングが小さくなり、水晶体(レンズ)の厚みが増すことで、ピントは近くに合います。
しかし、長時間のパソコン作業では、この筋肉の緊張状態が持続するため、疲労が蓄積し、ときにけいれんのような状態を引き起こして痛みを感じることもあります。
一方、遠くを見るときには毛様体筋が緩み、水晶体は薄くなってピントは遠方に合います。ところが、パソコンやスマートフォンを長時間使用していると、筋肉が緊張したまま固まりやすくなり、うまく緩めなくなることがあります。その結果、遠くがぼやけて見えることがあります。
このように、眼精疲労の多くの症状は、ピント調節を担う毛様体筋の酷使によって生じると考えられています。
両目を寄せる筋肉も疲れる(輻輳)
近くを見るとき、両眼はわずかに内側へ寄ります。あまり聞き慣れない言葉かもしれませんが、この働きを「輻輳」といいます。
輻輳は、眼球を動かす筋肉のうち、内側に位置する「内直筋」が収縮することで起こります。
近業が長時間続くということは、両眼を内側に寄せた状態が持続することを意味します。その結果、内直筋の緊張が続いて筋肉疲労が生じ、目の奥の痛みや頭痛、かすみ、複視(ものが二重に見える)といった症状が現れることがあります。これらは「輻輳疲労」と呼ばれます。
縮瞳について(補足)
近くを見ると、瞳孔(ひとみ)は小さくなります。これは「瞳孔括約筋」の働きによるものです。
瞳孔が小さくなると被写界深度が広がり、ピントが合いやすくなります。さらに、ぼやけの原因となる光学収差(こうがくしゅうさ)が減少するため、よりシャープに見えるようになります。
つまり縮瞳は、近距離を見る際の精度を高めるための重要な光学的調整機能といえます。
なお、この働きは比較的小さな負担で行われるためか、縮瞳そのものが眼精疲労の主な原因になるという報告は、これまでのところほとんでありません。
近くを見る作業は、まばたきを減らす

パソコン作業中や字を読むなどの近業では、まばたきが約3分の1に減少することが報告されています。関連論文はこちら
さらには、単にまばたきの回数が減るだけではなく、上のまぶたが下のまぶたに届かない不完全な、あるいは浅いまばたきになります。
こうしたまばたきの省エネ化は、なぜ起きるのでしょうか?
これは脳の情報処理と関係していると考えられています。まばたきをすると、約0.1秒ほど視界が遮られます。文字を読む作業では、このわずかな時間でも情報が途切れます。
まばたきには、涙を目の表面に広げ、乾燥を防ぐ役割があります。
そのため、まばたきが減ると、
- 目が乾く
- ゴロゴロする
- 視界がぼやける
といったドライアイの症状が出やすくなります。
YouTubeやTikTokなどの動画も、動きを見逃すまいと集中して見る傾向が高いため、同様のことが起こると考えられます。
脳や自律神経にも負担がかかる

近くを見る作業は、目だけでなく脳にも負担をかけます。特にパソコン作業では、情報処理や判断、集中といった認知活動が長時間続きます。
このとき脳は「集中・緊張モード」に入り、前頭前野の活動が持続します。また、自律神経では交感神経(体を緊張させる神経)が優位になりやすく、呼吸が浅くなる傾向があります。
その結果、肩こり、頭痛、全身の疲労感などの症状が起こることがあります。
一方、YouTubeやSNSなどの動画視聴では、仕事のような強い思考負荷は必ずしも伴いませんが、短い刺激が連続して提示されるため、脳は注意を頻繁に切り替えることになります。このような状態も、結果として認知的な疲労を引き起こす可能性があります。
眼精疲労の治し方|遠くを見ると目が楽になる理由

眼精疲労を少しでも楽にしたいとき、最も手軽にできて効果が期待できるのが「遠くを見る」ことです。
遠くを見ることで、これまでご説明した、眼精疲労を形成している目と体の反応が一斉に解除され、目と脳の緊張がゆるむためです。
私自身、「ときどき遠くを見てください」ということを診察時にお伝えしています。
ここでは、「遠くを見る」ことがなぜ眼精疲労の解消(軽減)につながるのかについて、4つのポイントに分けて解説します。
ピント合わせの負担がゆるむ(調節の解放)
遠くを見ると、近くにピントを合わせる(調節する)ために緊張していた筋肉(毛様体筋)がゆるみます。これによって、目の奥の疲れや重さがやわらぎやすくなります。
【目安:6メートル以上先を見ると、ほぼ調節がゼロになります】
両目を寄せる負担がゆるむ(輻輳の解放)
近くを見るときには、両眼は内側に寄る「輻輳」の状態になりますが、遠くを見ると再びほぼ平行な位置に戻ります。これにより、両眼を内側に寄せていた筋肉(内直筋)は緊張から解放され、休息することができます。
まばたきが自然に戻る
遠くを見ると、まばたきは自然に増えていきます。
これは、遠方視では「情報密度が下がる」「文字の読み取りなどの作業が一時的に止まる」といった視覚環境の変化により、「視覚情報を優先して処理する状態」が緩和されるためと考えられます。
その結果、まばたきの回数が回復し、目の表面のうるおい(涙液)が保たれやすくなります。
脳の緊張がゆるむ
遠くを見ると、画面から注意が離れ、前頭前野で続いていた情報処理や集中はいったんリセットされます。
さらに視野が広がることで、緊張していた注意状態が緩みます。これにより、近見作業によって蓄積していた認知的な疲労を和らげる効果が期待できます。
交感神経優位から副交感神経優位に
遠くを見ることで
- 心拍数低下
- コルチゾール(ストレスホルモン)低下
- 副交感神経活動増加
といった生理的変化が生じることが報告されており、「遠くを見る」ことで交感神経優位から副交感神経優位にシフトして、心身のストレス軽減につながることが示されています。参考文献はこちら
眼精疲労の対策|症状が出たときにすぐできること
眼精疲労は、点眼だけでなく、日常のセルフケアによって、症状の軽減が可能です。特に、「20-20-20ルール」は米国眼科学会が推奨する手軽で最も有効的な対策法です。
ここでは、「20-20-20ルール」をはじめ、生活の場面ごとでの実践可能な眼精疲労対策をまとめます。
20-20-20ルールを取り入れる
20-20-20ルールとは

20分ごとに、20秒間、20フィート(約6メートル)先を見る方法です。長時間の近業で緊張した目を休めるための、シンプルで続けやすい対策です。
20-20-20ルールは、臨床的経験と人間工学的配慮から広まった指標で、20分と20秒が最適と証明されているわけではありません。20フィート(約6メートル)は、調節がほぼゼロになりますので根拠があります。
20-20-20ルールの真の意図は、短時間でも良いので遠くを見る習慣を身に着けて、調節と輻輳が休み、まばたきが回復するというリセット効果を得るための実践法と言えます。20秒は機能がしっかり緩むのに必要な最低限の時間であり、20分は作業をさまたげないための時間として定着したのではないでしょうか。
昼休みに遠くを見る
数分でもよいので、窓の外の景色や遠くの建物、空などを見る時間を持つと、目の緊張がゆるみやすくなります。
画面の位置を見直す
画面が高すぎると、目を大きく開いた状態になり、乾燥しやすくなります。少し視線を下げる位置にすると、ドライアイ対策にもなります。
乾燥対策をする
空調の風が直接当たる場所では、目が乾きやすくなります。加湿や座る位置の見直しも役立ちます。
パソコン専用のメガネを持つ
パソコン距離にピントが合う眼鏡を使用すれば、調節はほぼ働きません。つまり、調節を行う筋肉の疲労を防ぐことができます。
眼精疲労対策の実践法|毎日続けたい習慣づくり

眼精疲労は、症状が出てから対処するだけでなく、日頃から予防を意識した習慣を取り入れることが大切です。
先述のとおり、私たちの生活は「近くを見る作業」が中心となっており、知らず知らずのうちに心身へ負担をかけています。
例えば、日常の中で意識的にスマートフォンから目を離し、遠くの建物や空を横切る鳥などに視線を向けてみましょう。こうした習慣によって、目のうるおいがもどり、緊張がやわらぎます。
もちろん、遠くを見る時間が長いほど効果は感じやすいですが、短くても良いので試していただきたいと思います。見る距離も5~6メートル以上あれば効果は期待できます。
以下に、今すぐ実践できる具体的な対策をいくつかご紹介します。
デスクワーク中の対策
- 20分に1回、20秒、6m先を見る – 「20-20-20ルール(米国眼科学会の推奨)」
- お昼休みに3分間遠くを見る
- 画面位置を少し下げる(ドライアイ軽減に効果があります)
- 乾燥しやすい環境では加湿や空調を調節する
- パソコン距離用の眼鏡を使う(調節負荷を最小化できます)
通勤中の対策
- 電車やバスでスマホを見る時間を1区間だけ減らす
- 窓の外の遠景を見る
- 信号待ちで空や遠くの建物を見る
休日の対策
- 散歩など軽いウォーキングを取り入れる
- 公園や山、海に出かける
「自然」と「遠くを見る時間」が増える場所に出かけることが効果的です。緑の多い場所は、気分転換にもつながります。
眼科を受診すべき症状と目安
目の疲れと思っていても、別の目の病気が隠れていることがあります。次のような症状がある場合は、一度眼科で相談することをおすすめします。
このような症状は眼科へ
- 片目だけ症状が強い
- 急に視力が落ちた
- 強い充血がある
- 光がとてもまぶしい
- ものが二重に見える
- 頭痛や吐き気が強い
- 市販の目薬や休憩でも改善しない
また、眼精疲労による目の不調の出方は、個人差があります。
例えば、ドライアイが強くなると、角膜が傷つき、まばたきの回復だけでは改善しにくい場合があります。ドライアイの点眼治療が必要になります。
目の奥の痛みを伴うときは、毛様体筋がけいれんして痛みが出ている可能性があります。「調節けいれん」といいます。この場合は、毛様体筋を弛緩させる点眼治療が必要になります。
こうした場合は、「遠くを見る」という日常のケアと眼科医によるケアの両輪が重要と言えます。
まとめ
パソコンやスマホを使う時間が長い現代では、眼精疲労はとても身近な不調です。
その主な原因は、近くを見続けることで、
- ピント合わせの負担が続く
- 両目を寄せる負担が続く
- まばたきが減る
- 脳の緊張が続く
といった状態になることです。
こうした負担をやわらげるために、もっともシンプルで取り入れやすい方法のひとつが、遠くを見ることです。
近くを見る生活を完全にやめることは難しくても、合間に遠くを見る習慣はつくれます。小さな休憩の積み重ねが、目の疲れを減らす第一歩になります。
まずは今日から、20分に1回だけでも画面から目を離し、遠くを見る時間を作ってみてください。
よくある質問(FAQ)
眼精疲労について、特によくいただく質問をまとめました。
眼精疲労に遠くを見るのは本当に効果がありますか?
A. 遠くを見ると、近くにピントを合わせていた筋肉がゆるみ、両目を寄せる負担も減ります。さらに、まばたきも戻りやすくなるため、目の疲れをやわらげる助けになると考えられています。
20-20-20ルールとは何ですか?
A. 20分ごとに20秒間、6メートル以上先を見る方法です。長時間のパソコン作業やスマホ使用の合間に取り入れやすい、目の休め方のひとつです。
何メートルくらい先を見ればよいですか?
A. 一般的には6メートル以上先を見ると、ピント合わせの負担がかなりゆるむとされています。
数秒だけ遠くを見るだけでも意味はありますか?
A. 短時間でも、近くを見る作業をいったん止めて視線の距離を変えることに意味があります。長く休めなくても、こまめに繰り返すことが大切です。
窓がないオフィスではどうすればよいですか?
A. 廊下の奥、部屋の反対側、遠くの壁や天井など、できるだけ遠い場所を見るようにするとよいでしょう。
目薬だけでは眼精疲労が治らないのはなぜですか?
A. 眼精疲労の原因が、長時間の近業そのものにあるからです。点眼で症状がやわらいでも、画面を見続ける生活が変わらなければ、再びつらくなりやすくなります。
眼精疲労と近視は同じですか?
A. 同じではありません。近視は遠くが見えにくい状態で、眼精疲労は目の使いすぎによる疲れです。
ただし、近視がある方やメガネの度数が合っていない方は、目がより多くがんばる必要があるため、眼精疲労が起きやすくなることがあります。
また、子どもの場合は近くを見る時間が長いほど近視が進みやすいとも言われています。近視と眼精疲労の関係についてはこちらをご覧ください。
眼精疲労で頭痛や吐き気が出ることはありますか?
A. あります。強い眼精疲労では、頭痛、肩こり、吐き気などが出ることがあります。症状が続く場合は眼科受診をおすすめします。
この記事を監修した医師

株式会社Personal General Practitioner代表取締役社長/医学博士・眼科専門医
板谷 正紀
京都大学医学部卒業。以後20年間、京都大学および米国ドヘニー眼研究所で網膜と緑内障の基礎研究と臨床、手術に取り組む。 京都大学では眼底の細胞レベルの生体情報を取得する革新的診断機器「光干渉断層計(OCT)」などの開発と普及に貢献する。 複数の産学連携、医工連携プロジェクトを企画推進し、2003年文科省振興調整費「産官学共同研究の効果的推進」に選ばれる。 医師でのキャリア35年。増殖糖尿病網膜症や増殖硝子体網膜症、緑内障などの難症例の手術治療を得意とする。
英語論文148報(査読あり)
著書『OCTアトラス』、『OCT Atlas』、『Everyday OCT』、『Myopia and Glaucoma』、『Spectral Domain Optical Coherence Tomography in Macular Diseases』
株式会社Personal General Practitioner(PGP)https://pgpmedical.com
