小学生になる前から近視を予防するライフスタイルを身につけようPart.1

眼の健康ブログ

就学前から近視予防が必要なわけ

最近、点眼薬や専用コンタクトレンズなど、こどもの近視進行にブレーキをかける近視進行抑制治療の発展には目を見張るものがあります。しかし、近視の発症を防ぐ、あるいは発症を遅らせるには、これらの治療は使えません。
なぜなら、現在の近視進行抑制治療は、すでに近視になった子どもを対象に「進行を遅らせる」ためのものであり、近視の発症そのものにブレーキをかける治療ではないからです。

唯一、近視発症予防効果が確立している方法は、

  • 屋外活動時間(アウトドア時間)を増やす(目安:日に2時間)
  • デジタルデバイスの使用時間と使用方法を適正にする

といった生活習慣を「近視になりにくいスタイル」に整えること(=生活習慣の“アンチ近視化”)です。
そして、この生活習慣は近視が増え始める小学生(6歳〜)になってからでは遅く、就学前の3〜5歳で確立することが重要です。

そもそも、世界の近視人口が急激に増えている原因は、都市化やIT化により

  • 屋外で過ごす時間が減り
  • デジタルデバイスの利用が増えた

という、子どものライフスタイルの変化にあります。

近視発症予防には、その流れに“逆張り”する工夫が必要なのです。
本記事をお読みいただくと、なぜ就学前から近視発症を予防するライフスタイルを身につけることが大切なのかをご理解いただけます。

就学前から近視の衝撃

最近の日本では、就学前から近視になっている子がいるという報告がされています。2021年に神奈川県で就学前の4~6歳の子供を対象に近視の保有率が調査されました。それによると、就学前の6歳児の近視保有率は3.6%でした。4歳児でも1.3%の子に近視が始まっていました※1。

これまで近視は、小学生(6歳)以降に始まると考えられていましたので、就学前の幼い時期にすでに近視の子がいることは驚きです。近視の低年齢化が進んでいる可能性があります。

*1.Prevalence of Myopia and Its Associated Factors Among Japanese Preschool Children

小学生就学時に半数以上が近視

小学生になると近視の児童が一気に増えます。2017年の4月~5月に東京都で行われた調査によると、6歳児で63.1%、7歳児で71.9%、8歳児で78.6%、9歳児で79.5%、10歳児で85.3%、11歳児で83.0% でした※2。

この結果は、少なくとも都市部では小学校に入るころには、すでに半数以上の児童が近視になっていることを物語ります。就学時に近視が急激に増えるのは、やはり就学前から近視が始まっている子供が多いと考えられます。そして、近視の低年齢化にはスマホ使用やアウトドア時間の減少などの就学前のライフスタイルが影響している可能性が浮かび上がります。つまり、近視の発症を防ぐには就学してからでは遅い可能性が高いのです。

*2.Current Prevalence of Myopia and Association of Myopia With Environmental Factors Among Schoolchildren in Japan

小学生で強度近視の衝撃

同じ東京都の研究では、さらに衝撃的な報告がされています。小学校の間に強度の近視(屈折値≦-6.0ジオプター)の児童が4%、10歳以上では9.8%にも及んでいたことです。10人に1人が小学校の間に強度近視になるということになります。

そして中学生では、約95%が近視で、11.3%が強度近視でした。さらには、1%強の生徒が-10ジオプターを超える最強度の近視になっていました。

*近視の症状の程度を知る

強度近視は目の病気を起こすリスクを高める

強度の近視は、単にメガネが厚くなる不便さだけの問題ではありません。学齢期から働き盛り、さらにシニア世代にかけて、網膜や視神経にさまざまな病気を起こすリスクを高めることがわかっています。

そのため、強度近視を予防する必要性が世界的に叫ばれています。特に−10Dを超える「最強度近視」では、次のような深刻な病気が起こるリスクが高くなります。

  • 脈絡網膜萎縮
    網膜とその下の脈絡膜が薄くなり、視力が低下していく病気です。進行すると視野の真ん中が見えなくなることもあります。残念ながら、現在有効な治療法はありません。
  • 近視性視神経症
    強度近視に伴う視神経のダメージで視野が欠けていく病気です。緑内障と似ていますが、はっきりとした治療法がまだ確立されていません。

実際、脈絡網膜萎縮は日本の失明原因の第5位となっています。
眼科医であれば、最強度近視は何としても防がなければならないと考えない人はいないでしょう。

【さらに詳しく知りたい方は、下記をお読みください】
*強い近視の人生行路【1】学齢期のできごと
*強い近視の人生行路【2】働き盛りのできごと
*強い近視の人生行路【3】シニア世代のできごと
*近視が強くなると失明するって本当?

近視の低年齢化は強度近視のリスクを高める

近視は、発症年齢が低いほど強度近視へ進行するリスクが高いことが報告されています※。
これは、近視が早く始まるほど眼軸が伸び続ける期間が長くなり、結果として最終的により強い近視に到達しやすくなるためと考えられています。

*Age of onset of myopia predicts risk of high myopia in later childhood in myopic Singapore children

アジアの国々でも近視の低年齢化が進んでいる

近視の低年齢化は、日本の都市部だけでなく、アジア各国でも共通して報告されている現象です。
そのため、中国、シンガポール、台湾などでは、国を挙げて近視対策に取り組んでおり、学校教育や家庭生活に屋外活動の推奨やデジタルデバイス使用制限を導入するなど、具体的な政策が進められています。

*世界の近視対策~こどものスマホ規制を調べてみた

近視の低年齢化の要因は都市化とIT化によるライフスタイルの変化

アジアの国々に見られる近視の低年齢化は、都市化とIT化による子どものライフスタイルの変化が主な要因と考えられています。
都市化が進むほど近視になりやすいことが報告されています。

都市部では、

  • 緑地や公園などの屋外空間が狭い
  • 受験勉強や習い事に熱心な家庭が多い

その結果、屋外で過ごす時間が減り、近業作業が増える傾向があります。
さらに、IT化、特にインターネットやスマートフォンの普及により、幼児を含め誰でもYouTubeなどの楽しいコンテンツを簡単に視聴できるようになりました。これにより、近くを見る時間が一層増え、屋外で過ごす時間がさらに減少し、近視の早期発症を加速させていると考えられています。

*小学生になる前から近視を予防するライフスタイルを身につけようPart.2

なぜ就学前から近視発症予防を始めるべきか?

屋外活動やデジタルデバイスの使用は、こどもの「遊び」と深く関わっています。幼児期にアウトドア遊びの楽しさを知ることで、屋外活動を日常に習慣化しやすくなります。

一方、YouTubeやゲームといったデジタルデバイスの遊びは楽しい反面、無制限に続けやすく、近くを見る時間が増え、屋外時間が減る原因となります。つまり、就学前にどんな体験をし、どんな遊びを好むかが、就学後の近視の発症や進行に大きく影響します。だからこそ、就学前から「屋外でしっかり遊ぶ」「デジタルデバイスの使い方をコントロールする」といったライフスタイルを整えておくことが大切なのです。

特に親が近視なら就学前から近視発症予防が必須

親が近視の場合、子どもも近視になりやすいことがわかっています。
特に両親ともに近視である場合、子どもが近視になるリスクは約5倍高いと報告されています。
一方、発症年齢を早めないライフスタイルを身につけることで、親が近視であっても近視の進行を抑えることが可能であることも明らかになっています※。

親が近視の子どもは、生まれたときから近視リスクを背負っているといえます。
だからこそ、小学生になるのを待たず、3〜5歳のうちに近視発症を遅らせる生活習慣を身につけることが重要です。

*Parental history of myopia, sports and outdoor activities, and future myopia

近視の発症を防ぐ、あるいは遅らせるライフスタイルをまとめると

近視の発症に大きく影響を与える2つのライフスタイルは、日中に屋外で過ごす十分な時間、もう一つは、デジタルデバイスの適正使用です。具体的にまとめておきましょう。

子ども時代は屋外遊びを充実させて

明るい時間帯に十分な時間を屋外で過ごすと近視の発症が抑制されます。目安は、日に2時間、週では14時間とされています。ご両親が仕事されているご家庭では、平日お子さんと、これだけの屋外時間を確保するのは難しいと感じられる方が多いと思います。その場合、休日に半日以上を屋外で過ごすことを習慣化すると、平日の不足を補えます。また、スポーツ(サッカー、野球など)は自然と屋外時間を確保できる方法です。

保育園や幼稚園に通っている場合は、屋外活動の時間をチェックしておきましょう。そうすることで、ご家庭であとどれくらい屋外時間を確保すれば良いか目標が見えてきます。屋外は、日なたでも日陰でも構いません。とにかく、お子さんと外へ出ましょう。

デジタルデバイスの適正使用

近視の発症を予防するためには、スマホなどのデジタルデバイス使用や読書など近くを見る作業に注意が必要です。次のような適正使用が推奨されています。

  • スマホ視聴や読書は30cm離して行う
  • スマホ視聴や読書が長時間にならないようにする(1時間以内)
  • 20分間デジタルデバイスを見たら、20秒間、20フィート(約6m)離れたところを見る(20-20-20ルール)

昨年の母子保健法施行規則改正により、母子手帳に2歳、3歳、4歳、5歳、6歳の各年齢のこどもの保護者の記録欄に、テレビやスマートフォンの長時間の視聴に関する対応を尋ねる項目が設けられました。しかし、具体的な時間制限にまで踏み込んではいません。世界では、子どものデジタルデバイス使用に禁止や制限を設けている国々があります。その調査とWHO勧告に基づき、目安として1時間以内とさせていただきました。

*世界の近視対策~こどものスマホ規制を調べてみた
*YouTubeが好きな小学生の親御さんへ~人生を変えてしまう強度近視を防ぐために~

就学前の子のライフスタイルは親次第

今の子どもたちは、生まれた時からテレビだけでなく、スマホやタブレットなどのデジタルデバイスに囲まれています。親がスマホを楽しむ姿を見ながら育つのは、ごく自然な光景です。実際、就学前の子どもの5人に4人がYouTubeを中心とするインターネットに親しんでいることがわかっています※。

しかし、スマホでYouTubeを見ると、画面が小さいため顔に近づけてしまいがちです。また、その時間の分だけ、屋外で過ごす時間は減ります。まさに、近視が進みやすいライフスタイルになってしまいます。就学前に身についたデジタルライフは、就学後も続く傾向があります。

だからこそ、就学前から「近視になりにくい生活習慣(=アンチ近視生活)」を親が意識して整えることが急務といえるのです。
次回は、デジタル時代のライフスタイルにフォーカスし、近視進行予防についてさらに具体的に考えていきます。

*YouTubeが好きな小学生の親御さんへ~人生を変えてしまう強度近視を防ぐために~

この記事を執筆した医師

株式会社Personal General Practitioner代表取締役社長/医学博士・眼科専門医

板谷 正紀

京都大学医学部卒業。以後20年間、京都大学および米国ドヘニー眼研究所で網膜と緑内障の基礎研究と臨床、手術に取り組む。 京都大学では眼底の細胞レベルの生体情報を取得する革新的診断機器「光干渉断層計(OCT)」などの開発と普及に貢献する。 複数の産学連携、医工連携プロジェクトを企画推進し、2003年文科省振興調整費「産官学共同研究の効果的推進」に選ばれる。 医師でのキャリア35年。増殖糖尿病網膜症や増殖硝子体網膜症、緑内障などの難症例の手術治療を得意とする。

英語論文148報(査読あり)
著書『OCTアトラス』、『OCT Atlas』、『Everyday OCT』、『Myopia and Glaucoma』、『Spectral Domain Optical Coherence Tomography in Macular Diseases』

株式会社Personal General Practitioner(PGP)https://pgpmedical.com

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