近視も緑内障も黄斑疾患も見えてしまうOCT検査、ご存じですか?

目の健康ブログ

眼科診療に革命をもたらしたOCT、何が分かる?

OCTという眼科の検査、ご存じですか?「ああ、CTね」と思う方も少なくないと思います。CTはComputed Tomography(コンピュータ断層撮影)の略語です。放射線で身体の輪切り(断層像撮影)を行う診断機器です。そのCTにOがついているだけで似てはいますが、OCTはOptical Coherence Tomography(光干渉断層計)の略語で全く異なる診断機器です。OCTは、光で断層像を撮影する技術なのです。眼科、皮膚科、心臓血管外科などで活用されています。

実は、このOCTを使えば、数分であなたの眼底の健康状態がわかります。将来かかりやすい眼底の病気がわかることすらあります。知らないと損するOCT。OCTの開発や発展に、日本人の貢献が大きかった秘話も交えてOCTについてお伝えします。

目にぴったり合うOCTの特徴

OCTは、目の健康状態を調べるのに適しています。その理由は2つあります。

目に合う光の性質

光にはCT(放射線)やMRI(核磁気)よりも分解能がはるかに高く、小さな目の、そのまた小さな病変を詳細に描出するのにマッチしている性質があります。

一方、光は組織に吸収されてしまい身体の奥まで届かない(透過性が低い)というデメリットがあります。しかし、目は角膜や水晶体が透明なので光は目の奥まで届きます。つまり、光のデメリットは、目ではデメリットにならないのです。光で断層像をとるOCTは目と相性が良いのです。

網膜の病気は層ごとに起きる

専門的な話になりますが、網膜は10層構造からなります。さらに、網膜の裏側には網膜に栄養を与えたり酸素ストレスから網膜を守る土台(網膜色素上皮と脈絡膜血管)があります。実は、目の奥の病気は、緑内障から加齢黄斑変性に至るまで、病気が起きる層が異なるのです。緑内障は網膜表面の網膜神経線維層と神経節細胞層、糖尿病黄斑浮腫は網膜の中の内網状層や外網状層中心に網膜内部に、加齢黄斑変性は、網膜の土台の網膜色素上皮層や脈絡膜血管や外顆粒層という具合です。

ところが、眼科医が行う眼底検査や健診で行う眼底写真では、網膜を正面から見るため、この層構造が分かりにくいのです。OCTは、網膜を横から見た像を描出できる(断層像)ため、10層構造と各層の病変を映し出せます。例えるなら、100メートル走でゴール側の正面から選手を見ると正確な順位が分かりづらいが、観客席など横から見ると順位が良くわかるのと同じことです。

OCTで何がわかる?なりやすい病気もわかる?

OCTを使うと網膜の各層と土台の健康状態がわかります。網膜の病気は、ある層が薄くなったり、水分が溜まったりしますが、それが一目でわかります。網膜の表面から深部に向かってみていきましょう。

層が薄くなる

(ア) 網膜表面の「網膜神経線維層」と「神経節細胞層」が薄いかどうかが分かる

網膜10層構造のうち一番表面に網膜神経線維層、次に神経節細胞層があります。この2つの層は、視覚シグナルを脳へ送る役割をしており、緑内障という失明原因1位の病気で薄くなります。緑内障は、目と脳を結ぶ光ファイバーの働きをする網膜神経線維が速く減る病気です。光ファイバーが走っているのが網膜神経線維層、光ファイバーを出している細胞体がいるのが神経節細胞層だから、この2つが薄くなるのです。

緑内障は、かなりstrong>視野障害が悪くならないと自分では気が付かないという問題があります。緑内障は、早期に治療を開始できれば「生涯見える」を守れる可能性が高まりますので早期発見が何より重要です。しかし、誰が緑内障になるかはわからない病気であるため、早期発見するためには、眼科を受診し目の奥の視神経乳頭と網膜を調べる必要があります。

OCTが登場する以前は、眼科医が目を凝らして眼底を観察して緑内障かどうか判断していましたが、早期の緑内障では、これが実に難しく、眼科医同士の判定が一致する率が低いという大きな問題がありました。特に、近視の目は、視神経乳頭が近視による変形を起こしているため早期の段階で診断するのは容易ではなかったのです。OCTは、緑内障で薄くなる2つの層を可視化し、測定できるため早期の緑内障の診断に威力を発揮しています。近視がある目でも、すべてとはいきませんが、早期の段階で緑内障を診断できる可能性が高まりました。実際、OCTにより、視野検査で異常がない超早期の段階で緑内障が見るかることが増えています。これにより、すぐ治療は開始せずとも、定期的に視野検査を受けて異常が現れるか見張ることが可能になりました。

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(イ) 網膜の内層が薄いかどうかがわかる

網膜の内層とは、表面から、「網膜神経線維層」、「神経節細胞層」、「内網状層」、「内顆粒層」の4層からなります。この4層は網膜血管に栄養をもらっています。このため、網膜動脈閉塞症(正式には、網膜中心動脈閉塞症および網膜中心動脈分枝閉塞症)になると、栄養が枯渇して、この4層が薄くなったり、消失したりします。緑内障は、「網膜神経線維層」と「神経節細胞層」だけが薄くなるという違いがあります。

(ウ) 網膜の外層が薄いのが分かる

網膜の外層とは、光を感じる視細胞が存在する層です。外網状層」、「外顆粒層」、「視細胞層」、「網膜色素上皮層」からなります。網膜色素変性、加齢黄斑変性、近視性脈絡網膜萎縮などさまざまな網膜疾患(黄斑疾患含む)で視細胞が減少して外層が薄くなります。

網膜の中に水分が溜まっているのが分かる

網膜血管から血液成分である血漿が漏れ出し網膜の中に溜まる病気があります。strong>糖尿病黄斑浮腫や>網膜静脈閉塞症(正式には、網膜中心静脈閉塞症および網膜中心静脈分枝閉塞症)などです。漏れた血漿は網膜の内部に広がり水たまりをつくり、時に網膜の下に移動して網膜下液を生じます。溜まりやすいのは内顆粒層や外網状層ですが、重症になると網膜内部に広がり、時に網膜の下に貯留します(網膜下液)。血漿がどこに溜まり、視力にどのように影響しているかがわかります。

網膜の土台の故障が分かる

網膜の土台とは、「網膜色素上皮層」とそれを裏打ちする「脈絡膜血管」でした。視細胞に栄養を与えたり、視細胞に毒となる酸化ストレスから網膜を守っています。加齢とともに、この守る力が低下して起きるのが失明原因4位の加齢黄斑変性です。酸化ストレスによる老廃物処理がうまくいかなくなりドルーゼンと呼ばれる異常が現れます。近視が強くなり、眼球の後ろが飛び出てくるために脈絡膜血管が薄くなり、網膜色素上皮が裂けたりして土台が破綻するのが失明原因5位の近視性網脈絡膜萎縮です。この網膜の土台に何らかの異常を認めたら黄斑の病気になりやすい傾向があるということになりますので、定期的にOCT検査を受けることが望ましいと言えます。

OCTが不可欠となっている加齢黄斑変性の治療

加齢黄斑変性は日本で急増して失明原因4位の病気です。急に視界の中心が見えにくくなり、生活に困ります。上記した網膜の土台の異常が進み、ついに破綻して、もろい脈絡膜新生血管が生じて、そこから血液中の血漿が網膜の下や中に漏れて溜まってしまいます。治療は、抗VEGF薬というお薬を目の中に注射します。この薬を注射すると脈絡膜新生血管が退縮して漏れが止まり、漏れた血漿は吸収され、視力が改善します。ところが、この効果は1~2か月しか続かないため、また再発してくるという問題があります。この再発の発見に用いられるのがOCTです。治療を開始した加齢黄斑変性の患者さんは、毎月、眼科受診してOCT検査を受け、血漿の溜まりがあれば再注射を受け、なければ注射せず様子を見ます。OCTは加齢黄斑変性の抗VEGF薬の注射のタイミングをはかる基本検査となっています。

OCTの発明は日本人、製品化は米国グループ

実は、OCTの発明者は日本人でした。しかし、製品化に成功したのは米国のグループでした。1990 年に山形大学の丹野直弘教授が、「光波反射像測定装置」という名称で特許出願しています※。遅れること1992年にMITのDr. James Fujimotoらが” Method and apparatus for optical imaging with means for controlling the longitudinal range of the sample”という名称で特許出願しています※※。

Fujimoto先生は日系三世のアメリカ人です。先駆者は丹野教授ですが、米国特許を出願していなかったため、米国ではFujimoto先生が特許を取得し、1996年には 米Humphrey社により世界初の眼底用OCT装置が販売されました。このように、発明としては後発の米国が製品化に成功し、ビジネスを成功させた事例です。その理由はいろいろ考えられますが、MITのFujimoto先生のラボに、Carmen A. PuliafitoやDavid Huangらの眼科医が複数いたことが大きいと思います。

OCTの製品化では後塵を拝した日本ですが、現在普及している次世代型OCTであるスペクトラルドメインOCTでは、筑波大学理工学グループと京都大学眼科グループと株式会社トプコンが共同研究を行い世界初のスペクトラルドメインOCT”3D OCT-1000”を上市しています。この分野で日本は雪辱を果たしたと言えます。

※丹野直弘、市川 勉、佐伯昭雄:「光波反射像測定装置」日本特許第 2010042 号(出願 1990 年)

※※Eric A. Swanson, David Huang, James G. Fujimoto, Carmen A. Puliafito, Charles P. Lin, Joel S.Schuman: “Method and apparatus for optical imaging with means for controlling the longitudinal range of the sample“ US Patent US5321501A United States Patent and Trademark Office, Filing Date April 16, 1992, Registration Date June 14, 1994.

※※※D. Huang, E. A. Swanson, C. P. Lin, J. S. Schuman, W. G. Puliafito and J. G. Fujimoto: “Optical Coherence Tomography” Science, 254(1991)

どんな時に受けるべき?

OCT検査は、目の奥の病気や緑内障を疑ったときに行います。具体的に挙げてみましょう。

  • 健診で「視神経乳頭陥凹拡大」や「黄斑異常」などのコメントが付いたとき
  • 会社などで受ける健康診断で眼底写真が含まれている場合、眼科医が眼底写真を判定して、異常が疑われると「視神経乳頭陥凹拡大」や「黄斑異常」などのコメントがついて眼科受診を勧められます。この場合に受診時に行う検査が眼底写真とOCT検査です。「視神経乳頭陥凹拡大」は、緑内障を疑う場合につける病名です。黄斑は視力を司る大切な場所ですが、多様な病気が起こりやすく視力や見え方への影響が大きいです。眼底写真で「黄斑異常」が疑われたら、OCT検査で確かめます。

  • 矯正視力が1.0未満に低下したとき
  • 眼科で視力検査を受けると、検査用レンズで近視や乱視を矯正し、その人の最高視力を調べます。これが矯正視力です。矯正視力が低下しているということは、目に何らかの病気が起きたことが疑われます。黄斑に病気が出ていないかどうかを確かめるためにOCT検査を行います。

OCT検査を受けたら、その結果を見せてもらいましょう。自分の目に病気のリスクがあるのか?あるとしたらどんなリスクか?を知ることは大切です。自分を守るのは自分しかありません。

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