視力回復トレーニングは本当に近視に効くの?

目の健康ブログ

「近視が治る」のうそほんと

視力回復トレーニングの宣伝をよく目にしますね?視力回復トレーニング用の高額な器具も販売されています。本当に効くんだろうかと疑問に思う方もおられると思います。実際、効果を実感する人もいる一方で、科学的な根拠が乏しいと指摘されることもあります。いったいどういうことなのでしょうか?実は、視力回復トレーニングが効くのは、ものを見る目の働きのうちのある特定の機能に対してであり、それに当てはまらない人は効果が期待できないのです。

どういう人に効果があるかがわかりやすく書かれていないことが多いために混乱が生まれていると感じました。この記事では、良く見えるとはどういうことか?見えにくくなるのはなぜか?を俯瞰してみることで、どんな人が視力回復トレーニングの効果が期待できるかをはっきりとお伝えできればと思います。正しい知識で間違いのない選択をしていただきたいと願います。

良く見えるってどういうこと?

良く見えるのは、次の5つの目の機能が正常に働いているということです。

  • 1.角膜、水晶体、硝子体が透明である
  • よく見えるためには目の奥の網膜にきれいに光が届くことが必要です。言い換えると、途中にある、「角膜」、「水晶体」、「硝子体」が透明であることが必要です。

  • 2.網膜の中心にある黄斑の機能が正常であること
  • 目の奥に届く光から視覚情報を得るのは網膜で、そのなかでもいちばん機能が高い「黄斑」が健康であることが必要です。

  • 3.視神経が正常に機能している
  • 網膜が得た情報は「視神経」を伝わって脳へ届いてものが見えるようになります。視神経が健康に働いていることが必要です。

  • 4.ピントが黄斑に合っている
  • 1~3が正常でもピントが合っていないとぼやけるのはご存じですね。このピントが合うというのは、ピントが黄斑に合っているということです。手前にずれれば近視、後ろにずれれば遠視です。

  • 5.ピントを合わせる機能(調節力)が正常に働いていること
  • どこを見てもピントが合うことが良く見えるということですね。それは調節力が行っています。目のレンズにあたる水晶体は近くを見るときは厚くなって近くにピントを合わせます。遠くを見るときは元の厚みに戻ります。この手元にピントを引き寄せる力を調節力といいます。この調節力が視力回復トレーニングの対象になるのです。

見えにくいってどういうこと?

ものがはっきり見えるために必要な5つの目の機能が分かりましたね。見えにくくなるのは、この5つの機能のどれかに問題が出るということです。視力回復トレーニングがどれに効くのかを考えながらお読みいただくと理解が深まります。

  • 1.角膜、水晶体、硝子体に濁りが出る病気がある
  • 角膜、水晶体、硝子体のどれかが濁る病気が起きると、その濁りに光が遮られて、網膜に光がきれいに届かなくなり、見えにくくなります。よく知られた病気に、白内障があります。視力回復トレーニングをしても濁りは減りませんので効果はありません。

  • 2.黄斑の機能が低下する病気がある
  • 加齢とともに黄斑の病気が増えます。知られている病気には、加齢黄斑変性があります。視力回復トレーニングは黄斑の病気を治す効果はありません。

  • 3.視神経が正常に機能しなくなる病気がある
  • 視神経に病気が出ると視覚情報が脳へ伝わりにくくなり見えにくくなります。よく知られている病気は緑内障や視神経炎です。視力回復トレーニングは視神経の病気を治す効果はありません。

  • 4.ピントが黄斑に合っていない
  • ピントが黄斑より前にあるのが近視、黄斑より後ろにあるのが遠視、ピントが2つに分かれるのが乱視です。合わせて屈折異常と言います。なかでも多いのは近視です。近視の原因のほとんどは、目の前後の長さ(眼軸長)が長くなりすぎでピンチを追い越してしまうことです。これを軸性近視と言います。小中学生の成長期に決まる目の大きさと考えていただいても構いません。視力回復トレーニングでは目の大きさは変わりません

  • 5.ピントを合わせる機能(調節力)が低下する
  • 調節力が低下する老化現象があります。老眼です。老眼年齢でないのに調節力が低下することがあります。これが、「仮性近視」、「調節緊張症」、「スマホ老眼」などの言葉で知られているピントを合わせる機能の低下です。この調整力の低下が視力回復トレーニングの対象になるのです。このピントを合わせる機能について、あとでもう少し詳しくお伝えします。

整理すると1~3は目の病気が原因で見えにくくなるため、視力回復トレーニングは効果がなく、4は成長期に決まる目の大きさ(屈折異常)なので視力回復トレーニングは効きません。5の調節力だけが、トレーニングで回復することができるのです。しかし、4の軽い近視なら視力回復トレーニングにより調節力を回復させることで視力が回復することが可能です。これが誤解の種と思います。

そこで、次は、調節力にフォーカスをあて、なぜ「視力回復トレーニングが近視に効く」という表現には、正解と不正解が含まれていることを解き明かしてみたいと思います。

ピントを合わせる機能「調節力」とは?


ピントを合わせているのは、「水晶体」と「毛様体筋」です。図のように、水晶体はチン小帯という細い線維を介して毛様体筋という筋肉とつながっています。毛様体筋は、水晶体の周囲を取り囲むリング状の筋肉です。毛様体筋に力が入ると(緊張すると)リングが小さくなり水晶体を引っ張る力が弱まります。すると水晶体は本来の厚みに戻ります。これがピントを引き寄せるしくみです。毛様体筋が力を抜くと、リングは広がり水晶体を引っ張り厚みが薄くなり、ピントが遠くに戻ります。

調節力は年齢とともに低下し老眼へ向かう


若い頃は、目の水晶体が柔らかいため、厚みが自在に変化し調節力は高いです。目の調節力は、10歳前後をピークに徐々に水晶体が硬くなるために低下し、70歳頃にはほぼゼロになります(表)。この年齢により調節力が低下し、同時に遠くと近くにピントを合わせるのが難しくなってくるのを老眼と呼んでいます。【図:年齢と調節力の関係(目安)】

若くても調節力が低下!「仮性近視」、「調節緊張症」、「スマホ老眼」
~毛様体筋が緊張したままになる病気~

若くて高い調節力がある人でもスマホやタブレットなどのデジタルデバイスを長時間見ることにより起きる調節力の異常です。近くを見るときは、「毛様体筋」というリング状の筋肉が収縮してリングが小さくなり水晶体が元の厚みに戻るのでしたね。近くを長時間見続けることにより、この毛様体筋が緊張した状態で固まってしまうため、遠くを見るときに毛様体筋をうまく緩めることができなくなり、遠くにピントを合わせられずぼやけます。この状態を「調節緊張症」と言います。
学童期によくみられ、適切な休息や視力訓練により良くなる一時的な近視と言う意味で「仮性近視」と言われていました。スマホ老眼は、この10年のスマホ普及に伴い目立つようになった調節緊張症に対して原因を込めて作られた新語です。

なぜトレーニングで近視が治ると誤解されるのか?

その理由は2つ。

  • 仮性近視と軸性近視を区別せず「近視は治る」と表現するから誤解が生じる
  • 軸性近視の程度を無視している(軽い近視は調整力を高めればカバーできる)

それぞれ説明します。

  • 1.「仮性近視」と「軸性近視」を区別せず「近視は治る」と書くから誤解が生じる
  • 毛様体筋の機能が低下している仮性近視(調節緊張症、スマホ老眼)は、視力回復トレーニングにより毛様体筋の働きを回復することで解決できます。体操で固まった肩の筋肉をほぐすようなものです。

    一方、本当の近視である軸性近視は、成長期に目が前後に伸びすぎてピントを大きく追い越した状態で、いったん大きくなった目は視力回復トレーニングを行っても縮むことはありません。このため、視力回復トレーニングは、近視のほとんどを占める軸性近視には効果が無いのです。ただし、例外があります。ごく軽い軸性近視には、効果が期待できます。それが次の2です。

  • 2.近視の程度を無視して「近視は治る」と書くから誤解が生じる
  • 近視は、視力ともに近視の程度が重要です。これを意識しないといろいろな誤解が生じる元になります。近視(軸性近視)は6, 7歳で始まり15歳くらいまで速く進み近視の程度が強くなっていきます。

    子供の近視が始まったとわかるのは、検診の視力検査で視力がわるくなったときが多いですね。この時の近視の強さは、-0.5~-1.0D程度の軽い近視のことが多いです。実は、調節力が正常であれば個人差はありますが、この程度の近視では視力は1.0以上でます。では、なぜ視力が落ちているかと言うと、前述した「仮性近視」、つまり長時間近くを見ることで毛様体筋の緊張が固定し調節力がうまく働かなくなっているためです。ここで視力回復トレーニング行い毛様体筋を解きほぐせば、調節力が回復して視力が良くなる可能性が高いのです。

    しかし、成長とともに近視が進み-1.0Dを超えてくると、いくら調節力が正常に回復しても視力は1.0には回復しません。

    -1.0D~-1.5D程度であれば、視力回復トレーニングで1.0には戻らないが、有用な視力である0.7前後に回復することは可能と思います。つまり、視力回復を実感できる可能性があります。
    -1.5Dを超えると視力回復トレーニングの効果は実感しにくくなると考えられます。

    まとめると、近視が始まりかけの軽い近視の間は、視力回復トレーニングにより調節力を回復させれば視力は回復します。さらに近視が進み近視度数が-1.5Dより強くなると、調節力ではカバーできないズレになるため視力回復トレーニングで有用な視力まで回復できる可能性は低くなります。

最後に、近視の強さと調節緊張になっていない目の裸眼視力の関係をお示しします。個人差があるため、あくまで目安です。矢印で調節緊張による裸眼視力の低下と視力回復トレーニングによる裸眼視力改善のイメージを表しています。
【図:近視の強さと裸眼視力の関係(個人差あり)】

まとめと考察

視力回復トレーニングがどこに効くかをお伝えしました。混乱を整理して理解する鍵は、仮性近視(調節緊張症)と軸性近視(本当の近視)の違いと軸性近視の程度の理解にありました。視力回復トレーニングに効果を期待できる近視の強さは-1.5Dより弱い近視と思います。しかし、個人差があるためこの数字がすべてではないかもしれません。

また、子供ほど調節力が強いため、視力回復トレーニングの効果は大きくなります。逆に言うと、大人になるほど、調節力が弱くなるため効果は下がります。小中学生の場合は、近視が早く進行する年齢であるため、近視進行予防に力を入れた方が良いかのしれないという別の視点も考慮する必要があります※。
近視と言われた小学生が始めるべき予防治療

“トレーニング“という言葉の連想から、筋トレのように鍛えれば鍛えるほど毛様体筋が強くなって本来持っている調節力よりも強い調節力を獲得して視力回復を得られると想像されるかもしれません。しかし、残念ながら、視力回復トレーニングによって毛様体筋を鍛え、本来以上の調節力を獲得することは、生理学的にはほとんど不可能とされています。あくまで、視力回復トレーニングは本来持っている毛様体筋と水晶体の連動による調節力の最大パフォーマンスを手に入れるものと考えるべきです。

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