時代を映し出すコンタクトレンズ診療パート2

目の健康ブログ

デジタル時代のライフスタイルとCL

パート1では、「コンタクトレンズによる角膜の酸素不足がレンズ性能の向上により改善しているにもかかわらず、目のトラブルが増加傾向にあるのはなぜ?」を問うて終わりました。パート2では、令和の人々の目の環境変化に着目して、その問いに答えを見出したいと思います。パート1で紹介しました3つのケースがいろいろなことを教えてくれると思います。2024年の人々の目は、なぜトラブルに見舞われやすいのか?コンタクトレンズ使用にあたってどういう危機があるのか?それがわかれば、コンタクトレンズによるトラブルを減らし、健康で快適なコンタクトレンズライフを持続的に楽しんでいただけると思います。

ケース1コンタクト歴のない学生の目がドライアイ?

【診察で出会う情報】中学生や高校生がコンタクトレンズを初めて作成しに来院した際に、コンタクト使用歴がないにもかかわらず、すでに中等度~重度のドライアイで起きる「点状表層角膜炎」を認めるケースでした。ドライアイは、本来、加齢とともに「涙液分泌の低下」、「油脂分泌不良による涙液蒸発亢進」、「涙液安定性の低下」などが進行して起きると考えられています※。しかし、10代の目は、こうした目の表面の潤いを保つ働きが健全なはず。なぜ本格的なドライアイなのか不思議に思いました。

※ドライアイ診療ガイドライン

そこで、診察の時にご本人とお母さん(時にお父さんのことも)に、いろいろ質問することにしました。「YouTube好き?」、「YouTubeはスマホで見ているの?」、「インターネットは何時間くらい?」「学校でタブレットはどれくらい使うの?」などなど。親の前では少なめに答えがちですが、インターネット使用時間は平均でだいたい5時間くらい、なかには8時間というツワモノもいます。自分用のスマホを持っている子が多く、見るものはダントツにYouTubeが多く、ゲームやSNS(TikTok)などが続きます。

【データ】こども家庭庁による令和4年の調査※では、インターネットを利用すると回答した青少年の平均利用時間は、年齢が上がるほど増え、小学生(10歳以上)は約3時間46分、中学生は約4時間42分、高校生は約6時間14分だったとのことです。また、自分専用のスマートフォンを持っている生徒は、小学生(10歳以上)で70.4%、中学生は93.0%、高校生で99.3%でした。筆者が診察の会話で得た印象は、この調査結果とよく一致します。

考えられること

今の中高生は、生まれながらにインターネットに囲まれ、親はミレニアル世代で親がスマホでYouTubeやSNSを楽しむのを見ながら育ちます。こうした2010年代序盤から2020年代中盤にかけて生まれた世代はα(アルファ)世代と呼ばれることもあります。こども家庭庁の調査の結果に見られるように、中高生は、自分のスマホを持ち、親の理解もあり、長時間スマホを見るという以前には少なかったライフスタイルが主流になっています。授業でもタブレットを使用する頻度が増えています。すなわち、一日の睡眠時間を除く活動時間の3分の1、多い子は半分以上の時間を液晶画面を見ていることが浮かび上がります。この中高生のライフスタイルの変貌が、ドライアイの犯人である可能性が高いと考えられます。

一般にデジタル画面を近くで見ると、まばたきが減り目の表面が乾燥することが知られています。つまり、今の中高生の中には、長時間スマホやタブレットを使用していることが原因となり、点状表層角膜炎をきたすほど目が乾燥していることが考えられるのです。スマホドライアイと言っても過言ではないでしょう。

※令和5年度青少年のインターネット利用環境実態調査結果(速報)(こども家庭庁)

【診察で伝えていること】病気を治す原則は病気の原因を取り除くことです。しかし、スマホの長時間視聴が原因で起きる子供のドライアイを、スマホ視聴を制限して治すという発想はなかなかうまくいかないと思われます。好きなものを制限するのは簡単ではないからです。親が制限しようとしても、自分専用のスマホを持っていますから、親に隠れて見るという、より悪い方向へ流れてしまう可能性が高いです。つまり、オーストラリアのように政策レベルで解決を図らない限り、α世代の子供の目が乾く原因は取り除けないと考えて、より現実的な対策が必要です。

目的は、スマホドライアイを無くすことではなく、子供の目が角膜感染症など視力に関わる重大な病気になることを防ぐことです。点状表層角膜炎が起きると細菌感染に弱くはなりますが、それだけで角膜感染症になることはまずありません。それに、細菌増幅器※であるコンタクトレンズの不適切使用が重なると、細菌が過度に増えて、角膜感染症を引き起こします。つまり、コンタクトレンズの理解を深め、適切なコンタクトレンズ使用を徹底的に教育することが大切です。また、中高生は、掃除洗濯食事など勉学とスポーツ以外は親に頼ってよい年齢(モラトリウム)、つまり自己管理が未熟な年齢ですので、十分な管理が必要な、2-Week、1-Monthのソフトコンタクトレンズは、避けた方が賢明です。

中高生のコンタクトレンズ使用で伝えたいこと

  • 自己管理ができないと思われる18歳くらいまでは、過度な細菌蓄積が起きにくい1-Dayソフトコンタクトレンズを選び、自己管理できる年齢になったら2-Weekも可とする。
  • 1-Dayも日に15時間など極端に長時間装用になったり、付けたまま寝ると過度な細菌蓄積が起こり、角膜感染症を起こすことがあるため、こうした使い方を避ける。帰宅後はメガネに変える。祝日で外出しない時はメガネを中心にする。
  • 1-Dayから2-Weekまたは1-Monthに変えるときは、前者と後者のレンズはまったく別物であることを理解して、毎日の汚れを取るケアを徹底する。過酸化水素が主成分の消毒効果が高いレンズケア製品などが望ましい。

ケース2ひどいドライアイがなかなか治らないビジネスパーソン

【診察で出会う情報】20代~30代でコンタクトを作りに来られる方に、ドライアイによる「点状表層角膜炎」を認め、コンタクトレンズを休んで点眼で治療を行っても、治りきらない人が増えています。そうした方々に、仕事について尋ねると、一日中パソコンに向かっていると答える方がほとんどです。デジタル社会の到来で、パソコン作業が中心のビジネスパーソンが増えていることを診察室でも実感します。

– VDT症候群とは? –

実は、このパソコン作業によるドライアイは、オフィス環境でパソコン作業が一般的になってきた1980年頃よりVDT症候群の1症状として知られていました。VDTとは、Visual Display Terminalの略語で、要するにパソコンなどのモニター画面のことです。VDT症候群は画面を長時間見続ける作業で起きる目や体の不調の総称です。

【今はもっと重いIT眼症】
デジタル社会になり、液晶画面を見る時間は増加の一途をたどっています。まず、仕事でパソコン業務やスマホ業務が増えました。ただ、それだけではなく、この10年でスマホの個人普及が急速に高まり、仕事以外のプライベート時間や移動中もスマホやパソコンの画面を見る時間が増加しています。コロナ禍で急拡大したリモートワークの増加がパソコンやスマホ依存に拍車をかけています。起きている時間の大半を画面を見ている人もいます。もはやVDT症候群は、職業病だけではなく、生活病でもあると言えます。VDT症候群という言葉が生まれた時代よりもスマホが普及した今の時代の方がVDT症候群は重症になりがちです。この仕事とプライベートを通じでのデジタルデバイス使用による目の症状をテクノストレス眼症やIT眼症と呼ぶこともあります。

画面を凝視しているとまばたきが4分の1くらいに減少するため、目が乾きます。この状態が仕事中もプライベート時間も続くと、角膜表面が乾いた状態が断続的に長時間続き点状表層角膜炎が生じやすくなりまし。これに、コンタクトレンズによる角膜の酸素不足が加わってドライアイが重くなりやすいのでしょう。おおげさな言い方ですが、ビジネスパーソンの目は人類史上もっとも目が乾いているのかもしれません。

【コンタクトレンズ、どうする?】
ケース1と同様に、ビジネスパーソンの場合は特にドライアイの原因となっているデジタルデバイス使用を減らすことは容易ではありません。仕事だからです。プライベートのスマホ使用も、生活の一部になっていますから、簡単には減らせないでしょう。医師が診察時に「スマホを見る時間を短くして下さい」と言っても、どれだけ効果があるでしょうか?現在の医療は、医師は患者の日常生活に介入することは困難であり、無力と言っても過言ではありません。では、どうするか?

筆者はコンタクトレンズの自己管理能力を高めるためのナッジを行っています。まず、角膜の写真を撮影して、患者さんに見せます。お一人お一人にご自分の点状表層角膜炎の状態をモニターで見せて、「現在のライフスタイルが原因で、この小さな角膜の傷ができています。ドライアイの点眼薬はお出ししますが、パソコンやスマホにより一日中まばたきが少ない生活が続きますので、この小さな傷が完全になくなる可能性は低いと思います。この傷が続く限り、角膜感染症になりやすい状態が続きますので、コンタクトレンズの適正使用とレンズケアが重要です—」などなど話します。
筆者が若い頃は、SPKを認めたらコンタクトレンズ装用を休んでもらい、点眼治療を行い、治ってから再開していただくという大事を取った杓子定規な対応をしがちでしたが、今の時代は、もう少し柔軟な対応が求められると実感しています。角膜感染症など重大な疾患を防ぐことにフォーカスしつつ、患者さんの生活と仕事の質を維持することも念頭に入れる必要があります。

ビジネスパーソンのコンタクトレンズで考慮したいこと

    1. SPKの重症度を考慮して対応を変えます。

  • 周辺限局SPK:一番多いのは、角膜の下方に限局したSPKですが、人口涙液点眼併用でコンタクトレンズ使用可とします。ただし、痛みがでてくるようなら装用を止めて、すぐ眼科受診することを伝えます。SPKをこれ以上悪くしないために、帰宅したらメガネに変えるなど装用時間を適正化します。
  • 瞳にかかるSPK:時に、SPKが角膜中央の瞳にかかっている場合があります。あるいは、角膜全体にSPKが広がっている重症例の場合もあります。こうした場合は、角膜感染が瞳の領域に起きる可能性があり、恒久的に視力を障害してしまう恐れがあるため、コンタクトレンズを休止して点眼治療を行います。必ず後日再診のうえSPKの軽快を確認し、コンタクトレンズ再開を許可します。
    2. 点状表層角膜炎は常に存在する可能性を伝え、コンタクトレンズ使用状況を確認し、適正使用へ向かうナッジを行います。

  • 2-Week、1-Monthのユーザーにこすり洗いの回数を質問すると、3~5回と回答されることが多いです。「通常のマルチパーパス保存液は、こすり洗いを20回以上励行し汚れを落とさないと細菌が残ります。細菌は人の体温で分裂増殖してどんどん増えていきます。2週間もすると、レンズは細菌だらけになってしまいます。毎日こすり洗いを20回するのが厳しいようでしたら過酸化水素などの入った殺菌力の強い洗浄液を使う方法もあります。」など、いかに汚くなるかをイメージしてもらいます。角膜感染のリスクが高まることをリアルに伝えることが必要です。
  • 1-Dayソフトコンタクトレンズは毎日新しいものに取り換えるため細菌が過度に蓄積することはなく、本来は感染症を起こしにくいレンズです。もちろん、1-Dayソフトコンタクトレンズを2日以上使用したり、付けたまま寝ると1-Dayでも角膜感染症になるリスクはあります。しかし、最近このような不適切な使用をしていないのに1-Dayソフトコンタクトレンズで角膜感染症を起こす人を稀に見ます。そういう人は、一日中パソコンやスマホに向かっていて朝から寝るまでコンタクトレンズを装用している人が多い印象です。IT眼症で目が乾いている状態では、1-Dayソフトコンタクトレンズといえども過度な長時間装用を続けると角膜感染症のリスクが無視できないと感じています。帰宅したらメガネに変えて12~14時間程度の適度な装用時間を守ることが大切です。

ケース3見たこともない目の炎症で眼科に駆け込む女子中高生

痛みで目が開けられずボロボロ涙を流して受診する女子中高生の中に、見たこともないような角膜と結膜の重い炎症を起こしているのを診て驚くことがあるケースです。ヒントとして、男子中高生で同じような病気を引き起こす子はあまり見たことがないことを挙げました。もうわかっていただけましたね。カラーコンタクトレンズ(カラコン)です。おしゃれ目的だけで、カラコンを購入する女子中高生は、視力検査をしなくてもよいため、眼科を受診せずネットや大型ディスカウントショップでカラコンを購入する方が多くいます。友達が始めると、自分もと言う感じで気軽に始めてしまいます。親にも相談せず、お小遣いで購入となると、価格の安さで専門ではないお店で購入することが多いようです。

度なしのおしゃれカラコンは、元々「つけまつげ」や「ウィッグ」などと同じ「雑貨」として売られ、眼科での検査や処方の必要がなく、オンラインショップ、ドラッグストア、大型ディスカウントショップで手軽に購入できるアイテムとして広がりました。しかし、眼科に足を運ばないため、使用による目のリスクも知らないまま間違った使用で目のトラブルが多発しました。このため、平成21年11月4日から視力矯正目的以外(度なし)のおしゃれカラコンも「高度管理医療機器」の扱いに変更され、眼科での検査と処方が必要になりました。しかし、眼科の診察証明や処方箋を提示しなくてもカラコンを購入できるオンラインショップやドラッグストア、大型ディスカウントショップなどが存在するため、カラコンによる目のトラブルはなかなか減りません。

カラコンは単純に考えても色がついている分だけ酸素透過性は低くなります。おおまかな数字ですが、カラコンの酸素透過性は、透明なコンタクトレンズに比べて1/5程度しかありません。 さらに、ネットや雑貨で安く売られているカラコンにいたっては、普通のコンタクトレンズの1/10以下しかない商品も存在します。さらには、国の安全基準を満たしていない商品も販売されています。

コンタクトレンズによる眼障害について

カラコンによる目の障害は透明なコンタクトレンズによる障害よりも重症になりやすいことが報告されています。レンズ性能が悪いうえ、使い方も間違っているとなると重症になるのは当たり前といえます。長時間スマホによるドライアイもベースにあります。「あっ、なぜ、コンタクトレンズでこんなに」と声を出しそうになるほど目がひどく障害されている中高生に出会うのが実際の現場での経験です。

中高生のカラコンユーザーは、痛くなって初めて眼科にかかる人が少なくありません。まずは、コンタクトレンズを休止して点眼治療を行い治します。と同時に、「おしゃれは良いことだけど」と前置きしながら、何も知らずにカラコン使うことの危なさを説明し、親と相談して性能の悪くないカラコンを、適正使用することの大切さをアドバイスするしかありません。

カラーコンタクトレンズ(カラーCL)による 眼障害の実態 ~調査結果のご報告~

3つのケースから学びたいこと

コンタクトレンズユーザーも眼科医も、ここで挙げた3つのケースから大切なことが学べると思います。目的は安全に便利にコンタクトレンズを使用することです。コンタクトレンズユーザーは、「便利に」使いたいという意識は強いですが、「安全に」使いたいという意識は低くなりがちです。眼科医はこの逆。「安全に」使ってほしいという意識が強く、点状表層角膜炎やアレルギー性結膜炎を認めると大事をみて過度にコンタクトレンズ使用や処方を制限します。しかし、忙しいビジネスパーソンや中高生の中には、厳しい制限を嫌ってか、それっきり受診しない方、1年もたってから受診する方がいることも現状です。教科書通りの診療ではなく、時代に即した診療を追求する必要を痛感します。3つのケースで筆者が学んだことを端的にまとめます。

デジタル時代に気を付けたいコンタクトレンズライフ

  • ①デジタル時代の人の目は乾燥していて感染に弱くなっていますレンズケアの徹底適正使用の徹底を伝えることを眼科医とコンタクトレンズ販売者は使命と思うべし。
  • ②視力や見た目と同じくらいコンタクトレンズの酸素透過性に注意を払うべきです。カラコンは酸素透過性が極めて悪いことを知り、その分だけ装用時間を短くすべきです。コンタクトレンズを外した後もきれいな目でいたいですね。

未来のコンタクトレンズ・ホームモニタリング

自宅で点状表層角膜炎の有無や程度をモニタリングできれば、コンタクトレンズユーザーは、角膜の状態に応じてコンタクトレンズの装用時間を短くしたり、休んだりと自己管理ができます。また、汚れが目に見えないからコンタクトレンズケアが怠りがちになります。スマホでコンタクトレンズの汚れが観察できれば、気持ち悪くてケアを頑張らざるを得ません。スマホなどで自分の角膜を高解像度で自撮りしたり、コンタクトレンズの汚れを撮影できる技術の開発を考えていくべきです。健康は医者任せにするのではなく、自己管理が基本。自ら確認して安心して使える未来のコンタクトレンズライフを生み出したいものです。

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