近視の方に知ってほしい、近視の目が持つ緑内障の課題

目の健康ブログ

注意すべき4つの特徴的傾向

近視、特に強い近視の方に発症した緑内障は、緑内障のテキストに載っている典型的な緑内障像とは異なる特徴的な傾向がいくつかあることがわかっています。そして、それぞれの特徴は、知っておかないと目を守ることが厳しくなるかもしれない重要な着眼点です。

今回は、まず、こうした近視が強い方に起きる緑内障の特徴を知っていただきたいと思います。そして、その上で近視が強い方が、緑内障から仕事や生活を守るために行っていただきたい行動、把握していただきたい着眼点をお伝えしたいと思います。

近視が強い目の緑内障で注意すべき4つの特徴的傾向

強い近視の目は緑内障になりやすい

日本人では、40歳以上の方の約5%に緑内障が発症すると報告されています※(1)。しかし、近視が強いと数倍緑内障になりやすいことが複数の疫学調査でわかっています※(2)(3)。
このため、近視が強い方は緑内障がでていないかどうか一度は検査を受けていただくことが大切です。

近視が強い目の緑内障は早期発見が難しい

眼科医は緑内障を早期発見したいと考えています。そこで眼底検査を行い、視神経乳頭を評価します。視神経乳頭とは、後で詳しく説明しますが、緑内障で異常な変化が起きる部位です。しかし、近視の目では、この視神経乳頭がもともと近視性の変形を起こしているため、その近視性変形により緑内障による変化がマスクされてしまい診断が難しくなります(トピック1参照)。特に、近視の強い目は早期の緑内障を診断することは容易でないことが少なくありません。

光干渉断層計(OCT)という眼底検査機器が普及して、近視が強い目の緑内障診断に威力を発揮しています。OCTと眼底所見と視野検査結果を照合することで、近視が強い目の緑内障診断の診断力が向上しているのは確かです。しかし、近視がとても強い目ではOCTを用いても様々な理由で、時に診断に無力なこともあるのが現状です。

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もう一つ重要なポイントは眼圧です。眼科を受診すると眼圧検査を受けていただくことが多いです。眼圧が高い目の中には緑内障が始まっていることが多いため、眼圧検査は緑内障を発見するために必要な検査です。
しかし、近視の目に起きる緑内障の多くは眼圧が正常です。実は、日本人の緑内障の72%は眼圧が正常な「正常眼圧緑内障」なのです。このため、眼圧検査は大切ですが、これだけでは緑内障を発見できないことが多いのです。

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近視が強い目の緑内障は比較的若い年齢で始まることがある

近視が強い目は30代や40代の比較的若い年齢で緑内障による視野障害が見つかることがあります。緑内障は半分ほど進んでから視野障害が検出できるようになることから考えると、30代で視野障害が出てきたということは、その何年も前、おそらく20代から緑内障が始まっている可能性が高いです。若年齢で近視眼に生じた視野障害は進行しないという論文もありますが、実際には、その通りの症例もあれば、視野障害が進行して困る症例もかなりあります。

若年齢で始まる進行性の緑内障は、残りの人生が長い分だけ見えにくくなり生活に支障が出るリスクが高いと考えられます。例えば、同じ程度の視野障害が30代と50代の人で見つかったとき、30代の人は残りの人生が20年長い分だけ障害が重くなる可能性があります。

それだけではなく、若くして緑内障を発症すると、仕事を行う年齢、例えば、65歳までの年齢で、見えにくくなり仕事に支障が出るリスクがあります。まだ、子供は学生で教育費がかかる頃かもしれません。近視が強い人は、20代、30代で緑内障の検査を受けていただき、緑内障の早期発見に努めることが望ましいといえます。

近視が強い目の緑内障は視野の中心近くが障害されやすい

緑内障の多くは、視界の中心(見つめるところ)より離れたところから視野障害が始まり、徐々に中心部に近づき、かなり進んでから中心部に障害が始まります。このため、かなり進んだ緑内障でも視力が保たれていることが多いのです。緑内障と診断されると、視野障害が中心に向かって進み視力を脅かさないようにすることを最大の目標として治療を行います。

ところが、近視が強い目の中には、最初から中心近くの視野が障害されることがあります※(4)。中心近くの視野障害が進むと、字が欠けたり、人の顔が部分的に見えにくくなったり、パソコンのマウスポインタ―が消えたりと日常生活や仕事に支障が出やすくなります。このため、視野障害が検出される前の超早期の段階で緑内障を発見することが重要です。先述したOCT検査が威力を発揮します(トピック2参照)。

【トピック1】
4つの特徴が生まれる共通の原因 ~視神経乳頭の変形~

近視が強い目に起きる緑内障の4つの特徴には共通した理由があります。それは、近視が進む小学生~中学生の頃に、目の中の視神経乳頭が変形することです。

– 視神経乳頭とは? –

目と脳は網膜神経線維でつながっています。網膜神経線維は、例えるなら、インターネットの光ファイバーです。目で得た視覚情報を脳へ伝えます。視神経乳頭はその光ファイバーの出口です。光ファイバーは視神経乳頭を出て脳まで伸びています。

緑内障は光ファイバーが減って情報が脳へ伝わりにくくなり、視野障害が進む病気です。視神経乳頭は、生まれた時はドーナッツ形状をしています。ドーナッツの食べる部分に光ファイバーが走っており、空洞には光ファイバーがありません。緑内障では光ファイバーが減るため、ドーナッツの食べる部分が細り、中の空洞が拡大します。このため、古典的に、「ドーナッツの食べる部分が細っている所見」や、「空洞が広がっている所見」を緑内障の診断に利用してきました。

– 視神経乳頭の近視性変形とは? –

視神経乳頭はドーナッツ形状と説明しましたが、近視の目では大きく変形しています。視神経乳頭は、近視が早く進行する小学生~中学生の頃に変形が進みます。強い近視とは、眼球が前後に伸びすぎた状態です。この眼球が伸びるときに視神経乳頭の変形が進みます。変形の仕方はさまざまですが、いちばん多いのは、傾いてドーナッツの形が崩れて、人の耳たぶのような形になる「傾斜乳頭」のパターンです。ドーナッツ形状をしているから診断に役に立つ「ドーナッツの食べる部分が細っている所見」や、「空洞が広がっている所見」という診断ルールは、傾斜乳頭では必ずしも役に立ちません。このため緑内障の診断に苦慮することが多いのです。

– 近視による視神経乳頭の構造的変形が脆弱性を生む –

強い近視の緑内障が持つ特徴的傾向は、この視神経乳頭の特徴的な構造的変形が生み出していると考えられています。この変形のために眼圧に対して脆弱になるため緑内障になりやすい傾向や、比較的若い年齢で緑内障が発症する傾向が生まれます※(5)(6)。
また、本来は障害されにくい視野の中心部分を担当する網膜神経線維(光ファイバー)が、この構造的変形のために障害されやすくなると考えられています※(7)。

視神経乳頭を変形させないこと、すなわち近視を強くしないことが大切であることが分かります。

【トピック2】
近視の強い目で威力を発揮するOCTとは?

OCTは眼底の断層画像検査です。光干渉断層計(Optical Coherence Tomography)の略です。身体で使われる断層画像検査には、CT, MRI, 超音波検査などが知られていますが、それぞれ放射線、核磁気、超音波を使います。OCTは光を使う断層画像検査なのです。この4つの断層画像検査の中でOCTがもっとも分解能が高く細部まで映し出せます。目は小さく、内部にまで光が届くため、OCTが最適な検査になります。

OCTは網膜神経線維(光ファイバー)が走っている層を描出できます※(8)。そして、このOCTが映し出す網膜神経線維(光ファイバー)の層は、トピック1で説明しました近視眼における視神経乳頭の変形の影響を受けずに上下対称な形態をしています※(8)(9)。そのため、近視が強い目でも網膜神経線維(光ファイバー)が薄くなっていることが一目でわかり、測定して確かめることもできます。視野障害が検出される前の超早期の緑内障を前視野緑内障といいますが、前視野緑内障を発見することが可能です。

そして、何より重要なのは、視野の中心近くに相当する黄斑部※の網膜神経線維(光ファイバー)の菲薄化がわかりやすいことです。つまり、OCTで黄斑の網膜神経線維(光ファイバー)を見張っていれば、将来、視野異常が視野の中心近くに現れるかどうかを予測できるのです。

※黄斑とは網膜の中心に位置する部分で視力を司ります。

近視の強い方に行っていただきたいこと

この記事でお伝えした近視が強い目に起きる緑内障の4つの特徴的傾向を踏まえて、近視の強い方に行っていただきたいアクションをまとめてみたいと思います。近視の強い人でも緑内障にならない方も多いです。4つの特徴的傾向に当てはまらない近視の緑内障の方も多いです。しかし、当てはまると、将来の生活や仕事に支障が出るリスク、視覚障害になるリスクが高くなります。そのリスクがあるかないかを知ることが大切と考えています。

20代から緑内障検査を

近視が強い目の緑内障は、視野の中心付近から障害されやすい傾向があることから、可能な限り視野障害が始まる前の超早期の段階で発見をめざすべきです。このことと、強い近視の緑内障は比較的若い年齢で始まる傾向があることとを合わせて判断すると、一度、20代に緑内障検査を受けていただくのが望ましいと思います。検査の結果が問題なければ、次は30代で良いかもしれません。問題がある場合は、問題の程度に応じて以下の2~4の行動をとりましょう。

「緑内障が疑わしい」と言われたら毎年緑内障検査を

近視の強い目では、緑内障検査を行ったときに、眼底所見やOCT所見で緑内障が疑わしい所見はあるが、はっきりしない場合が少なくありません。この場合の診断は、「緑内障の疑い」になります。この段階では、緑内障点眼治療は開始せずに、年1回程度の緑内障検査を受けていただくことがおすすめです。そうすることで、網膜神経線維(光ファイバー)の減少がはっきりしたときに、緑内障を超早期に発見できるからです。治療を開始しない理由は、緑内障点眼は、いったん開始したら原則一生継続することに加え、副作用を持つ点眼薬が多いため、緑内障と確定してない段階で開始するとデメリットの方が大きいからです。

「緑内障だけど視野は正常」と言われたら

目の中の網膜神経線維(光ファイバー)が減少している所見がはっきり捉えられても、視野検査では異常が出ない場合があります。前述しましたように、眼科医の間では「前視野緑内障」と呼ばれています。この段階で緑内障が見つかると、超早期発見できたことになります。前視野緑内障は平均7年で視野障害が検出されるようになると報告されています。では、前視野緑内障で見つかったら、緑内障点眼治療は始めるべきでしょうか?トピック3で詳しく述べてみましょう。

「緑内障で視野障害がある」と言われたら

迷わず緑内障点眼治療開始になります。この場合、大事なのは、治療を開始する前のあなたの眼圧です。その眼圧が、視野障害をもたらした危険な眼圧です。その眼圧から30%を下げることができれば安全な眼圧になると考えられています。例えば、治療前が20mmHgなら14mmHgまで下げることができると視野障害は進みにくくなるわけです。これを達成するためには、もしかすると複数の点眼薬が必要になるかもしれません。達成したら、あとは視野検査を繰り返し、何年もかけて進行のスピードを読み取りながら、治療の強さを調節していきます。長い緑内障との闘いの始まりになります。

【トピック3】
前視野緑内障は点眼治療を開始すべきか?

前視野緑内障に点眼治療を開始すべきかどうかに関しては眼科医の意見が分かれています。緑内障診療ガイドライン(第5版)では、前視野緑内障に対して「原則的には無治療で慎重に経過観察する」とされています。しかし、「高眼圧や強度近視、緑内障家族歴など緑内障発症の危険因子を有している場合,特殊あるいはより精密な視野検査や眼底三次元画像解析装置により異常が検出される場合には,必要最小限の治療を開始することを考慮する。」とあります。

筆者は、これに加えて、緑内障が進んだ時に、視野のどの部位に視野障害が出現すると予想されるかを重要視します。OCTを使えば、黄斑部の網膜神経線維(光ファイバー)の初期の菲薄化がわかります。黄斑部の中心近くに網膜神経線維の菲薄化が認められたら、将来視野の中心近くに視野障害が出現することが予想されます。この場合は、迷わず点眼治療開始を開始します。また、網膜神経線維の菲薄化が中心から少し離れていても、視野の下方であれば、下方視野障害の方が生活への支障が大きいことを考慮して点眼を開始します。

もう一つ大切な着眼点は年齢です。前視野緑内障でも、若い方、例えば40歳の方であれば治療を開始します。若いほど、残りの人生は長く、生活に支障をきたすレベルまで緑内障が進んでしまうリスクが高いです。近視が強い人は、比較的若い年齢で緑内障が始まる傾向があるため、近視が強い目の前視野緑内障の方は、点眼治療を開始することが多くなります。

子供時代に強い近視にしないことが大切

緑内障は近視が強くなくても発症する病気ですが、近視が強い目の方が緑内障になりやすく、またこの記事でお伝えした複数のリスクを持ちます。近視が強くなるということは成長期に目が前後に伸びすぎることであり、それに伴って起きる視神経乳頭の構造的変形が、こうしたリスクの原因と考えられていることをお伝えしました。これは後戻りできない目の変化です。子供の時に近視を強くしないことの大切さが痛感されます。

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