近視性牽引黄斑症
黄斑表面が引っ張られて壊れる
近視性牽引黄斑症とは、文字通り近視が強い目で起きる黄斑の病気です。視力を司る黄斑部の網膜が、硝子体や網膜血管により前方に引っ張られて網膜内が裂けたり(網膜分離症)、黄斑に孔が開いたり(黄斑円孔)、黄斑剥離が起きる病気です。
黄斑円孔になると、見つめるところが見えない中心暗点を生じます。さらには、黄斑円孔から、目の中の水分である硝子体液が網膜の裏側に流入して、網膜剥離を生じてしまうこともあります(黄斑円孔網膜剥離)。
黄斑円孔網膜剥離は、網膜剥離のなかでも治りにくい網膜剥離として知られています。このため、孔が開く前に治療することが望ましいです。治療は、硝子体手術という外科的治療を行います。
強度近視において黄斑表面を引っ張る2つの悪役
強度近視の目は、網膜の表面が次の2つのメカニズムにより、引っ張られるようになることがあります。
■ 網膜血管と内境界膜
後部ぶどう腫が形成されていくと、網膜も後方へ引き伸ばされていきます。網膜は脂質を中心とした柔らかい組織で伸びることができますが、網膜表面の内境界膜という薄い膜と、網膜血管はコラーゲンでできた比較的硬い組織であるため、伸びるのに限界があります。このため、後部ぶどう腫形成が進んでいくと、網膜の表面を網膜血管と内境界膜が引っ張るようになります。
■ 硝子体
網膜の前に硝子体という透明なゲル組織がありますが、強度近視の目は硝子体と網膜表面が癒着していることがあります。硝子体は年齢とともに容積を減らし、黄斑から離れますが、強い癒着があると外れなくなり黄斑表面を引っ張ってしまいます。後部ぶどう腫形成も、この引っ張りを増悪させます。
黄斑の表面が前方に引っ張られると、網膜内が裂ける「網膜分離」、黄斑部の網膜が剥離する「黄斑剥離」が生じます。さらに、進むと黄斑に孔が開きます(黄斑円孔)。そこから、網膜剥離になることもあります(黄斑円孔網膜剥離) 。
治療は手術で黄斑を引っ張る力を取り除く
治療は外科手術になります。目の中を治療する「硝子体手術」という術式が用いられます。
細い手術用ピンセットを用いて、黄斑を引っ張っている硝子体皮質を剥がして取り除きます。次にまた、後部ぶどう腫に対して黄斑表面を引っ張る内境界膜を剥離除去します。
網膜血管は必要な組織であるため何もできませんが、内境界膜を剥離除去を除去するだけで、網膜は柔らかくなり、網膜血管は「のれんに腕押し」状態で黄斑表面を引っ張らなくなります。そして、網膜は伸展して網膜分離や黄斑剥離は徐々に治っていきます。
黄斑円孔がある場合は、これだけでは治りません。目の中の水分を空気かガスに置き換えて、術後1週間前後腹臥位をとります。これにより通常の黄斑円孔は治りますが、後部ぶどう腫があると、網膜の長さが足りず黄斑円孔は大きくなる方向に力が加わっており、閉じにくい問題があります。そこで、内境界膜を全部取らずに一部を反転させて黄斑円孔を覆うようにして空気・ガス置換をすると閉じやすくなります。
近視性牽引黄斑症は、いずれの操作も高い技術が必要とされます。