IT眼症「まばたきの異常で目が乾く」
~①ドライアイ編~

目の健康ブログ

スマホ・パソコンでまばたきが下手になる

みなさん、毎日のパソコン業務にお疲れではないでしょうか?パソコンをあまり使わない方もスマホ疲れのかたもおられると思います。目が辛くて、こすってもこすっても疲れが取れないですよね。デジタル社会になり、仕事の大部分がパソコン業務という方が増えています。どうしようもない目の疲れに悩んでいる人が増えています。生活必需品となったスマホも追い打ちをかけます。いったい、目に何が起こっているのでしょうか?

パソコンやスマホが目に与える影響の鍵は、「まばたき」と「ピントを合わせる筋肉」という目にとって大切な2つの働きにあります。一日だけパソコンを使ったからと言って、その影響は軽微なもので回復も速いです。しかし、それを何か月も続けているうちに、影響はどんどん大きくなっていきますが、パソコンから逃げるわけにもいかず、スマホなしには生活できない現実が立ちはだかります。今逃れられない目の疲れと闘っているあなたへ、このシリーズ記事で目の疲れの原因を知り、どうつきあっていくかヒントになればと思います。まずは、目の渇き、ドライアイ編です。

血管のない角膜は乾燥に弱い

ご存じのように角膜は透明であるために血管がないことを選択しました。その代わり、角膜表層は涙液から必要な酸素や栄養素を受け取っています。そして、涙液を角膜表面に供給するのはまばたきの働きです。

この角膜の健康に大切なあなたのまばたきが、パソコンやスマホなどデジタルデバイスの長時間使用によりおかしくなっているかもしれません。

画面集中で戦闘モードのまばたきになる

パソコンやスマホで集中して作業をしていると身体は交感神経が優位の戦闘モードになります。
戦闘モードのまばたきは、回数が減り、不完全まばたきが増えるといわれています。

まばたきが減る

通常時(安静時): 約20回/分
書籍の読書時: 約10回/分
パソコン作業時: 約6回/分
スマホ・ゲーム利用時: 約5回/分

これは何の数字かおわかりでしょうか?まばたきの回数です。集中して目を使うほど、まばたきが減ることがわかりますね。なぜ、画面に集中するとまばたきが減ってしまうのでしょうか?わかりやすい例を挙げてみます。野球のバッターはピッチャーがボールを投げる瞬間、まばたきが大幅に減る傾向があります。バッターは、ピッチャーのしぐさ、守備の配置、走者など集中して視覚的な情報を取り入れて、バッティングを行います。

このように、強い集中状態では、交感神経優位となりまばたきは抑制されることが生理学的に知られています。いわば戦闘モードのまばたきと言えます。パソコン作業、スマホ使用、ゲームなどは、バッティングほどではないにしろ、強い集中状態にあるのです。この野球の試合は数時間ですし、ベンチでリラックスもできます。しかし、パソコン作業が仕事の中心である方は、仕事のほとんどの間は、この強い集中状態が持続して、まばたきの減少が持続して、目が乾燥してしまうのです。

まばたきの不完全モードが増える

パソコン作業やスマホなどで画面を長時間見ると、単にまばたきの回数が減るだけではなく、不完全なまばたきが増えると言われています。不完全なまばたきとは、上まぶたが下まぶたに触れずに途中でもどってしまうまばたきです。角膜をうるおすよりも、見えている時間を優先するまばたきとも言えます。つまり、日常でも、会話や運転中など、視覚情報に集中するときには、まばたきは不完全モードになるのです。最低限、角膜の中心部に涙液を送り視覚を確保する節約モードのまばたきとも言えます。

こうした不完全なまばたきは、日常的に10~20%みられるとされています。そして、それ以外の時間は、完全まばたきモードにもどって角膜全体の潤いを取り戻すのです。ところが、スマホの登場・普及、コロナ後のリモート化などに伴うデジタルデバイスの使用時間増加により、知らず知らずに、まばたきの不完全モードの時間が50%以上など過度に増え、角膜全体のうるおいを取り戻す時間が減り、目が乾いてしまうのです。

この時、まばたきが涙液を目の表面に広げるしくみのなかの「まばたきによりメニスカスに溜まった涙液が再び目の表面に広がる」を思いだしてください。メニスカスは、眼球と下まぶたの縁が接している部分にできる溝で、ここに涙と油分が集まって溜まるのでしたね。そして、完全モードのまばたきは、このメニスカスにプールした涙液と油分を、再利用して角膜に広げます。一方、不完全モードのまばたきは、このプールした涙液と油分を再利用しないまばたきなので、特に角膜の下方部分が乾燥してしまうのです。

まばたきが涙液を目の表面に広げるしくみ

ここで、まばたきが目をうるおすしくみについてまとめてみます。これを知ると、いかにまばたきが減ることが目を辛くするかが理解できます。

    – まばたきが涙液を目の表面に広げるしくみ –

  • 涙腺が涙液を常時分泌する
  • 分泌された涙液はまばたきによって目の表面に広がる
  • 眼球と下まぶたの縁が接している部分(メニスカス)に涙液が溜まる
  • まばたきによりメニスカスに溜まった涙液が再び目の表面に広がる

次は、目の表面をうるおすためのまぶたの働きをみてみましょう。

    – まばたきの働き(まとめ) –

  • 新鮮な涙液を角膜全体に刷毛のように塗り付ける
  • まぶたから油分の分泌を促し涙液の蒸発を防ぐ
  • メニスカスに溜まった涙液と油分を再利用して角膜に塗り付ける

こう見てくると、普段から涙腺からでている涙液を再利用して効率的に使用していることが分かりますね。その上、涙液の蒸発を防ぐ働きまであるのですね。まばたきの回数が減ると、減った分だけ角膜が乾燥することがわかります。

まばたき戦闘モードが長く続くと涙の膜がこわれやすくなる

涙の膜を安定にするしくみ

ここまででまばたきが、角膜表面にはけのように涙液を広げることで、うるおいを供給していることが分かりました。しかし、角膜表面に張る涙の膜(tear filmといいます)は、厚さ7μm(=0.007㎜)ときわめて薄いため、そのままでは簡単に蒸発してこわれてしまいます。このため、涙の膜の表面を薄い脂の層がカバーして(「脂質層」または「油層」といいます)蒸発を防いでいます。この脂を分泌しているのが、まぶたの中に何十本と存在する「マイボーム腺」です。

涙の膜はそれだけではなく、重力に晒されています。私たちが日常立っていても座っていても、角膜表面は地面に垂直です。つまり、涙の膜は切り立った断崖に張っているようなもので、常に重力で流れ落ちようとしているのです。そこで、涙液には「ムチン」と呼ばれる高分子の糖タンパク質が溶け込んでいて、涙の膜が重力に負けない『ねばりけ』を生み出しているのです。

ムチンは水分と結びつくことで「ぬめり」を持つ性質があります。ムチンは胃や腸をはじめとする粘膜に存在し、このぬめりにより、粘膜表面を守り摩擦をへらしてなめらかな動きを可能にしています。目の表面でムチンを作っているのは結膜表面の「ゴブレット細胞」という細胞です。また、角膜表面にも(膜型)ムチンが結合しており、化粧ノリならぬ涙ノリがよくなり涙液が角膜に張り付きやすくなっています

涙の膜を安定化させるしくみ

  • 蒸発を防ぐ油層
  • 重力に負けない涙のねばりと涙ノリ

緊張してまばたきが減る“戦闘モード”が続く場合のリスク

デジタルデバイス使用時のまばたきの戦闘モード、すなわち、まばたきの減少と、不完全モードの増加は、単に目の表面への涙液の供給が増えるだけではなく、涙の膜を安定化させるしくみが弱まり、壊れやすくなります。

涙の油層の劣化 ➡ 蒸発亢進 ➡ 涙液が壊れて目が乾く

まばたきをする際に眼輪筋(まぶた周りの筋肉)が収縮することでマイボーム腺が圧迫され、油分(マイボーム液)が涙の中に絞り出されて涙液の表面に広がります。このため、①まばたきが減ると油分の分泌は減ります。さらに、②不完全なまばたきでは、まぶたが最後まで閉じないためにマイボーム腺への圧力が不十分で、油分の放出量が減少します。それだけではなく、③不完全なまばたきでは下まぶたの涙液メニスカスに溜められた油分を再利用することができず、さらに油分の補給が減ります

このように、デジタルデバイスによるまばたきの戦闘モードでは、涙液に油分を補給できない3重苦により、油層にムラが生じて、涙の蒸発が強まってしまうのです。

それだけではなく、もっと怖いことが起こりえます。長期間、慢性的に油分の分泌不足が続くと、マイボーム腺内に油分が滞って固まりやすくなり、マイボーム腺が閉塞しやすくなり、ついには萎縮が始まり、マイボーム腺が短縮化したり、減ってしまったりと、元に戻らない変化が生じてしまうのです。このように、油分供給に障害が現れることを、「マイボーム腺の機能不全(MGD)」と呼ばれています。

「涙のねばりけ」と「涙ノリ」の低下 ➡ 涙液が角膜全体に張りにくくなり目が乾く

涙液のねばりけに大切なムチンは、白目の結膜のゴブレット細胞により分泌されているのでしたね。ゴブレット細胞は、まばたきによる結膜への刺激に反応してムチンを分泌するため、まばたきが減るとムチン分泌が減少すると考えられています。さらには、目の表面の乾燥が慢性化すると、まばたきの摩擦の増加や慢性炎症が生じて、角膜表面に結合している(膜型)ムチンが減少し、角膜の涙ノリが悪くなると考えられています。

このように、まばたきの戦闘モードが優勢になると、涙液の“質的変化”(油層劣化、水層ねばりけ低下、角膜の涙ノリ低下)が進むことで、涙の膜の安定性と再生能力が損なわれ、眼表面の恒常性が崩れ、ドライアイや眼精疲労、眼表面の炎症といった症状を引き起こす悪循環が形成されます。つまり、涙は出ても角膜表面に涙の膜をうまく張れない効率の悪い目になりかねないのです。

Think about the blink: Part 1

コンタクトレンズが追い打ちをかける

コンタクトレンズ装用により、涙の膜が不安定になり、蒸発が有意に増加していることが知られています。また、涙のねばりけや角膜の涙ノリを低下させる傾向があると考えられています。コンタクトレンズの装用時間が長くなるほど、こうした影響は強まる傾向にあります。

つまり、近視や乱視のある方が、コンタクトレンズを使いながらデジタルデバイスを長時間使用するということは、ドライアイの悪化に追い打ちをかけてしまうリスクがあります。

デジタルデバイス長時間使用から目を守るには?

では、私たちがデジタルデバイス長時間使用から、目の表面の健康を守るためにはどうしたら良いか考えてみましょう。すぐ思いつくのは、デジタルデバイスを使う時間を減らすことですが、仕事や勉強に使用しているばあいは、無理と言わざるを得ません。スマホの使用時間を減らすことが次の手かもしれません。

しかし、スマホは、情報を得たり、交流したり、生活品を購入したりと生活の一部となっていますので、極端に減らすことは難しいでしょう。

デジタルデバイスを使いつつも、まばたきが増え、不完全まばたきが減る工夫が必要です。デジタルデバイスを使わない日でも10~20%の不完全まばたきがみられますが、デジタルデバイスを使うと50%以上に増えてしまい。目の表面の調子がおかしくなるのです。不完全まばたきを減らす工夫で調子が改善することが期待できます。

デジタルデバイスから目を守るための工夫

  • リラックスタイムを増やす

    リラックスしているときは、まばたきの回数が増え、不完全なまばたきも減ります。しかし、これはデジタルデバイスを見ないリラックスタイムです。伴侶と街に出かけてみる、近くの公園を散歩する、音楽を聴く、ストレッチをする、ぬるま湯で温浴する、など自分なりの工夫をしてみてはいかがでしょうか。

  • 不完全まばたきを減らす
    • 意識する:意識すれば完全なまばたきは可能ですが、デジタルデバイスの中身に夢中になっていると忘れてしまいますね。デジタルデバイスの画面の縁に「完全まばたき」とか「上まぶたと下まぶたをキッス」など貼っておいてはどうでしょうか。
    • できるだけ大きな画面で:タブレットをお持ちなら、スマホ時間の一部をタブレットに置き換えてみましょう。タブレットの方が、スマホよりも不完全まばたきが少ないことが示されています。
    • ダークモードを使う:白を基調としたライトモードから、黒や濃いグレーを基調としたダークモードに切り替えてみましょう。ダークモードでは、まばたきが増え、不完全まばたきが減ることが示されています。
  • 「20-20-20」ルールを実行する

    「20-20-20」ルールとは、米国眼科学会議が推奨しているもので、連続して20分間デジタルデバイスを見たら、20フィート(約6m)離れたところを20秒間眺めましょうというシンプルな工夫です。デジタルデバイスによる作業が深まるほど、まばたきが減り不完全まばたきが増えるため、いったんリセットしてしてまばたきをもとに戻そうという取り組みです。

  • マイボーム腺を大切にする

    涙の膜を安定化させるために油分が必要でした。その油分を提供するマイボーム腺、コンタクトレンズの不適正使用や不適切なアイメイクなどがまつ毛の付け根の内側にあるマイボーム腺の出口をつまりやすくすることが指摘されています。大切にする方法は別のブログでまとめてみたいと思います。

  • コンタクトレンズの適正使用
    • 装用時間をミニマルに:コンタクトレンズはデジタルデバイスによるドライアイを悪化させます。帰宅したらメガネに変える、休日自宅で過ごす時はメガネで過ごすなど、コンタクト使用が本当に必要な時のミニマル使用にしてはどうでしょうか?
    • 2weekや1monthは、汚れや細菌を減らすためのケアが不十分になると、マイボーム腺が詰まりやすくなり油分の供給が減ると考えられています。正しいケアを心がけましょう。

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