【視力検査は眼科診療の羅針盤】検査の受け方と結果の見方解説します!
知って安心!視力検査の基本ガイド
視力は眼科では基本中の基本といえます。内科で血圧や脈拍が生命につながる基本の検査であるように、眼科では視力と眼圧は目の命につながる基本の検査です。目はものを見るためにある器官です。このため、特に視力検査は、ものを見る機能の不調を知り、その背景にある目の問題や病気を明らかにして治していくための入り口なのです。眼科医は、目の健康を守るために、視力からさまざまな情報をキャッチして、目の健康状態を把握します。
そんな大切な視力検査ですが、受ける側からすると、どこまで答えたらよいのか?結果をどう見ればよいのか?など疑問のある方は少なくないと思います。今日は、そのような視力検査に関する疑問にお答えしながら、視力検査の結果を見たときの眼科医が何を思うのか?その頭の中を一緒にのぞいてみましょう。明日から視力検査に対する見方が変わるかもしれません。
視力は眼科医が目の状態を知る最大の手がかり

視力検査の結果を見たとき、眼科医はどこを重視して、頭の中で何を考えるのでしょうか?これにお答えする前に、まず視力検査の結果の書き方を知っていただきたいと思います。
ひとくちに「視力」といっても、いくつかのポイントがあり、これを知ることで、眼科医の説明を聞いたときの理解が変わります。
要チェック!「視力結果の書き方」
視力検査の結果は、裸眼視力、つまりいかなるレンズでも矯正していない視力を最初に書きます。次に、かっこの中の最初に、レンズで最高に矯正した矯正視力を書きます。そして、その後に、その最高の視力を出すために入れたレンズの屈折度数を書きます。
例えば、近視だったら凹レンズを使ったので-2.5D、遠視だったら凸レンズを使ったので+2.5Dなどと書きます。これは、専門用語で球面度数(Spherical power;S)と呼ばれています。乱視が無ければ、これで終わりですが、乱視がある場合は、乱視を矯正しないと最高視力は出ません。
その場合は、円柱レンズで乱視を矯正して最高視力を求め、その度数(円柱度数; Cylinder power; C)と円柱の軸(乱視軸)の角度を書きます。「=」はイコールではなく、「追加して」くらいの意味合いです。

眼科診察シミュレーション

眼科診察のシミュレーションをしてみましょう。患者さんが入ってきて、カルテに視力の結果があります。実は、多くの眼科医は、まず矯正視力を見ます。なぜなら、矯正視力がものを見る機能の健康状態を表すからです(正常は1.0以上)。1.0以上あればホッとして、次に裸眼視力を見て、裸眼視力が低下していれば、屈折異常があると理解し、次に矯正に用いたレンズ度数を見て近視か遠視か?乱視はあるのか?と診断を進めます。
図の場合は、裸眼視力が低下している原因が、軽めの近視と軽めの乱視だと知ります。つまり、裸眼視力が低下していても矯正視力が正常な場合は、視力は健全だが屈折異常があるということであり、メガネやコンタクトレンズで視力が出せるということです。次の段階としては、例えば、患者さん手持ちのメガネやコンタクトレンズが合っているかの確認に入ればよいわけです。
一方、矯正視力が、0.6などと落ちていれば、「なぜ?」と原因解明をしなければならないと考えます。矯正視力が低下しているということは原因となる目の病気があるということです。その原因次第では、どんどん悪くなったり、治療が必要であったりするため原因を突き止めることは、きわめて重要です。そこで、まず、細隙灯※で角膜や水晶体に濁りが無いかを確かめます。そこで、白内障などの濁りがあれば、「これが視力低下の原因か?」と考えます。濁りが見つからないと、次は目の奥の病気を疑い、眼底検査やOCT検査へ進めます—。
以上のように、視力検査は、その結果により、目の健康を守るために適切な診察プランを立てることを可能とし、適切な治療へ導いてくれる羅針盤なのです。
※細隙灯は、目に細い光を当てて、角膜や水晶体など目の状態を詳しく観察する検査装置です。

視力検査の方法を知って視力低下の意味を理解しよう

視力検査の経験がない方は少ないと思います。しかし、よく知られた視力検査ですが、その意味を完全に理解されている方は多くはないようです。
まず、視力の測り方を知ると、視力低下の意味や視力検査の受け方が見えてきます。
要チェック!「視力の測り方」
標準的な視力検査はランドルト環を用います。100年以上の歴史を持つ国際規格です。アルファベットの「C」に似たマークですが、形状規格は図のように決まっています。
目から5m離れた直径7.5mmのランドルト環の切れ目の向きを3回間違いなく答えられたら視力「1.0」です。わからなくても25%の確率で偶然合うため3回正解することが必要なのですね。サイズを変えて視力測定します。
通常は、視力「0.1」に相当するいちばん上の直径75mmのランドルト環から始めます。1.0の10倍の大きさです。0.1を3回正解したら、下の方へ移り同じことを繰り返します。
そして、3回正解できなかったランドルト環の視力のひとつ前の視力があなたの視力です。1.0は3回正解し、1.2は1回も正解できない、あるいは1回しか正解できなければ、視力「1.0」、2回正解できた場合は視力「1.2p」です。
「p」はpartial、つまり部分正解という意味です。少しでも精密に視力を記録しようとする意志が感じられますね。

視力検査で視力が下がるってどういうこと?~視力が低下する原因はさまざま
視力検査における視力はさまざまな原因で下がります。病気により、ぼやけて見えたり、視界の中心部が欠けて見えたり(中止暗点といいます)、歪んで見えたり(変視症といいます)と見え方の異常はさまざまです。
それぞれ、視力検査への影響は異なります(図を見ていただくとイメージがつかみやすいと思います)。原因が1つではなく、いくつか複合することがあります。
ぼやける

近視や遠視、老眼などピントが合わない状態の見え方をぼやけるといいます。ぼやけてもランドルト環が大きいとなんとか切れ目がわかりますが、ランドルト環が小さくなっていくと切れ目がわからなくなっていきます。視界全体がぼやけることが多いです。
かすむ
ぼやけるに似ていますが、「かすむ」は角膜や水晶体などに濁りがあるためにすりガラス越しに見るような見え方です。重症なドライアイや白内障などです。視界全体がかすむことが多いです。
だぶる

言葉通りものが重なって見える状態です。視力検査でダブって見えるということは、乱視があるということです。角膜の正乱視はものが二重に見え、角膜の不正乱視や水晶体乱視は三重四重に見えることがあります。
中心暗点

見つめたところの付近に見えないところがあることを中心暗点と言います。黄斑円孔や加齢黄斑変性など黄斑の病気で現れる症状です。中心暗点の程度はさまざまで、大きいほど視力への影響が強くなります。同じ中心暗点でもランドルト環が大きいと切れ目がわかる向きがかなりありますが、小さくなるほど切れ目が中心暗点に隠れてしまい切れ目がわからない向きが多くなります。中心暗点のまわりは見えていることが多いです。このため目線をずらすと見えることがあります。
視野欠損(視野障害)
視野は広いため周辺部が欠けていても視力には影響がありません。しかし、視界の中心を含んで欠けると視力が低下します。代表的な病気が緑内障です。脳や視神経の病気でも起こりえます。この場合も、見える部分と見えない部分があるため、目線をずらすと見えることがあります。
このように、数値だけを見ても、矯正視力が下がっていることはわかりますが、どの見え方の異常が原因で下がったかまではわからないのです。そこで、「ダブっているため切れ目がわかりづらい」とか、「見えたり見えなかったりします」など感じているままを検査員に伝えることが重要です。眼科医は、その患者さんの言葉を参考にし、診察の結果と合わせて、視野検査など追加検査を行い病気の正体に迫っていきます。
視力検査にどう臨めばいいの?

視力検査でぼんやりとしか見えていないときは「わからない」と答えた方がいいのか、なんとなく感じる向きを直感で答えても良いのかなど心の中で迷いを感じた経験はありませんか?眼科医の私でも、ランドルト環が小さくなり、切れ目がはっきりしなくなると、勘で答えるのも辛くなり、もうこのあたりであきらめようかなど思ってしまいます。
しかし、これは間違いです。「はっきりしなくても、見えていると感じる方向を直感で答えるべきです。」が正解です。患者さんの中には「くっきり見えるところまでが自分の視力」だと誤解している人もいますので、この点は強調しなければなりません。
思い出してください。ある視力のランドルト環を3回正解しなければ、その視力があるとは判断されないのです。あてずっぽうで3回正解することはまずありません。
逆に言うと、3回正解したということは、たとえ切れ目がはっきりしていなくても、切れ目の向きを感じとれる見え方だということです。その限界まで求めようとするのが視力検査の神髄だと理解いただくので間違いありません。
視力に関わる目の病気があると視力検査はいっそう難しくなります。例えば、中心暗点(黄斑円孔など黄斑の病気)や視野欠損(緑内障など)がある場合は、暗点や視野欠損のまわりは見えていることが少なくありません。この場合、目線をいろいろずらしてみて切れ目が分かるところを探してもらってOKなのです。
また、先ほどご説明したように、単に切れ目の向きを答えるだけではなく、ランドルト環がどんな風に見えにくくなっているかを自分の言葉で検査員に伝えていただくことも役に立ちます。
ただし、なんとか正解しようとして目を細めるのは厳禁です。目を細めるとピンホール効果で焦点が深くなるため、屈折異常の場合、本来の視力より良く見えてしまうためです。
視力検査を受けるコツ(まとめ)

- 切れ目がはっきりしなくてもなんとなく向きが分かれば答えてみる
- 病気で見えないところがあっても目線をずらして切れ目を探して答える
- ランドルト環がどんなふうに見えにくいのかを検査員に伝える
- 目を細めるのは禁止
視力検査が良き羅針盤となるために
視力検査は、いつも上とか右とか答えさせられる一見単純な検査ですが、視力検査がスムーズに行えると、眼科医は適切な判断をして、無駄のない必要な診療プランを立てることができることをお伝えしました。
せっかく受ける視力検査です。視力検査の意味や臨み方をかみしめて、医師を適切な診療に導く良き羅針盤となるように積極的に視力検査に取り組んでみてはどうでしょう。