その近視、視力に大事な黄斑を脅かしていませんか?

目の健康ブログ

目の奥で起きるできごとを知り、目を守ろう

近視が強い方は遠くも近くも見えにくくご苦労があることと思います。しかし、メガネやコンタクトレンズを適切に使えば視力は回復できますし、最近は、強い近視から解放されるICLも選べます。つまり、近視が強くても、うまく近視矯正を行えば良い視力を手に入れることは可能です。つまり、目は健康なのです。

ところが、視力のもとになっている目の奥の黄斑が病気になるとしたら、話は変わります。黄斑が病気なって傷つくと、どんな手段で矯正しても視力は元どおりには回復しません。この大切な黄斑は、近視が強くなると傷つきやすいことをご存じでしょうか?近視が強くなって黄斑が傷つく病気は1つではなく、複数あります。まとめて病的近視と呼ばれています。

病的近視のなかでも比較的急に症状が進み見えにくくなる病気が複数あります。こうした病気は手術や薬物療法が可能であるため、早期発見して黄斑を病的近視から守ることが大切です。近視が強いと黄斑で何が起きるのか?病的近視にはどんな病気があるのか?早期発見するにはどうすれば良いのか?治療は?

本記事では、さまざまな疑問にお答えしながら、近視が強い方が黄斑を守るにはどうしたら良いかを探ります。

近視が強くなると病的近視になるのは眼球の壁が薄く引き伸ばされるため

近視とは、図のように、成長期(小学校~中学生)に眼球が前後に伸びすぎた状態です。眼軸が伸びると表現します。視力の面では、網膜中心部の黄斑が焦点より後ろに来てしまうため裸眼視力が悪くなります。そこで、凹レンズのメガネやコンタクトレンズで焦点を後ろへずらして矯正します。

一方、眼球の健康という面では、近視が強くなるほど網膜を含む眼球の壁が薄くなり弱くなります。このため網膜剥離になりやすくなることは別の記事「近視が強い方の網膜剥離対策」でお伝えしました。実は、近視が強くなると、これだけでは終わらずさらに眼球の壁が薄くなるできごとが40歳以降に進み黄斑の病気になりやすくなると考えられています。

病的近視の多くは2ステップで進む

成長期に近視が強くなり眼球全体の壁が薄くなると、90%前後の方は40歳以降に眼球の後ろの部分がさらに伸びてくぼんでいきます。外から見ると飛び出してくるイメージです。これを「後部ぶどう腫」といいます。この後部ぶどう腫のなかに黄斑が含まれることが多いため、後部ぶどう腫が進むと黄斑の眼球壁がさらに引き延ばされて薄くなり、さまざまな黄斑の病気が発症しやすくなります。このように病的近視は2ステップで起きやすくなるのです。

近視が強くなると眼球の後ろが飛び出てくる?

眼球の壁が薄くなると何が起きるの?

眼球は球体であり、球体の中身が「硝子体(しょうしたい)」、眼球の壁は「網膜(もうまく)」、「脈絡膜(みゃくらくまく)」、「強膜(きょうまく)」の3層の膜からなる壁からできています。

網膜と脈絡膜の間にある「ブルッフ膜」と「網膜色素上皮」は網膜の健康のため重要な組織です。専門用語が多く出てきて読みづらいと思いますが、我慢して読んでください。
後部ぶどう腫が進んで眼球の壁が薄くなると、こうした各組織が病的な変化を起こしやすくなります。

後部ぶどう腫が進み、黄斑部の眼球の壁が薄くなると起きる病的変化

硝子体

【役割】眼球内部を満たす透明なゲル状の組織です。胎児のときに目が球体として発達するためにはなくてはならないものでしたが大人での役割は大きくはありません。
【病的変化】硝子体が液化※・変性し網膜と癒着が強くなり、網膜を引っ張り病気を引き起こすことがあります(「硝子体黄斑牽引症候群」後述)。※近視が強い方の網膜剥離対策

網膜

【役割】眼球に入る光を感じる中枢神経の膜で、視覚情報を電気信号に変換して脳へ送ります。
【病的変化】網膜の硬くて伸びにくい組織(血管や内境界膜)が網膜を引っ張り網膜内部が分離したり黄斑部に孔が開くことがあります(「近視性牽引黄斑症」や「黄斑円孔網膜剥離)、後述」。

ブルッフ膜と網膜色素上皮

【役割】網膜と脈絡膜の間にあり、両者を接着させ、脈絡膜血管からの栄養や酸素を網膜に届けたり、網膜の老廃物を回収して脈絡膜血管に排出したりします。脈絡膜とともに網膜の健康を守っています。
【病的変化】ブルッフ膜はコラーゲンでできた硬い膜であるため伸びきれず亀裂が入ることがあります。この亀裂が原因で黄斑部に出血が生じます(「黄斑部出血」後述)。

脈絡膜

【役割】網膜の下にある網目状の血管層で、網膜へ酸素と栄養を供給します。メラニン色素が多く瞳孔以外から目の中に光が入らないように目を暗箱にする役割もあります。
【病的変化】脈絡膜が薄くなっていくと萎縮することがあります(「脈絡網膜萎縮」後述)。

強膜

【役割】眼球を外側から包む白い硬い膜で、眼球の形を保つ支持組織。
【病的変化】後部ぶどう腫を形成します。

病的近視には何がある?その治療は?

近視が強い目に起こりやすい黄斑の病気を目の内側から外側に向かってみてみましょう。黄斑疾患の診断に決め手となるOCT検査※の例も添えます。

※OCT検査は、網膜の断層画像を撮影する非接触の精密検査です(近視も緑内障も黄斑疾患も見える眼底検査OCT、ご存じですか?)。

1. 硝子体が黄斑を引っ張る病気「硝子体黄斑牽引症候群」

【病態】黄斑が変性した硝子体に引っ張られることで、黄斑が変形して視力が低下する病気。硝子体黄斑牽引症候群を起こしやすいリスクの1つが強度近視ですが、近視が強くない目でも起きることがあります。しかし、近視が強い場合は、引っ張る力が強く黄斑に孔が開き(「黄斑円孔」)網膜剥離になりやすくなります(「黄斑円孔網膜剥離」)。

【治療】硝子体手術により黄斑をひっぱる硝子体の力を解除します。黄斑円孔や黄斑円孔網膜剥離は、黄斑円孔を閉じる特殊な方法を追加で用います。

2. 網膜全体が伸びきれず裂ける病気「近視性牽引黄斑症」

【病態】後部ぶどう腫のなかでは、網膜は成長が止まっていますが、強膜がくぼみを深めて伸びていきます。網膜自体は柔らかい組織ですが、網膜血管や網膜表面の内境界膜はコラーゲンを有し硬い組織であるため強膜の伸びについていけません。このため、網膜の中で、表面の硬い組織と強膜の間で綱引きが起こり、網膜が裂けてしまいます(「網膜分離」)。
網膜分離が進むと薄くて弱い黄斑に孔が開き(「黄斑円孔」)、さらに進むと黄斑円孔網膜剥離になることがあります。

【治療】硝子体手術で内境界膜を剥離することにより綱引きの力を弱めます。

近視性牽引黄斑症に対応するクリニックを探す

3. 網膜の土台に亀裂が入り出血する病気「黄斑部出血」

【病態】網膜とその土台(脈絡膜+網膜色素上皮)の間にあるブルッフ膜もコラーゲンなどでできた硬い膜であるため、強膜の伸びについていけず亀裂が入ることがあります。この時、少し出血します(「単純出血」)が、自然に消えることが多いです。しかし、その後、この亀裂を通って脈絡膜から病的な新しい血管(「脈絡膜新生血管」)が網膜下に入り込んで増殖し出血します。この場合は積極的な治療が必要です。

【治療】抗VEGF薬という脈絡膜新生血管を抑え込むお薬を目の中(硝子体の中)に注射します。定期的な数回の注射で治まることが多いです。

【治療】硝子体手術で内境界膜を剥離することにより綱引きの力を弱めます。

黄斑出血に対応するクリニックを探す

黄斑が病気になるとどんな症状がでるの?

黄斑の病気は特徴的な見え方の異常があります。黄斑の病気を早期発見するために、ぜひ知っておいてください。

1. 変視症(歪視)

まっすぐであるはずのものが歪んで見えることを変視症(へんししょう)または歪視(わいし)といいます。これは、黄斑の肥厚やむくみなどさまざまな原因により黄斑のかたちが変形したときに生じる見え方の異常です。硝子体黄斑牽引症候群、近視性牽引黄斑症黄斑出血などほとんどの黄斑の病気で現れる特徴的な症状です。

2. 中心暗点

見つめようとするところ、すなわち視界の中心部分が見えなくなる症状を中心暗点と言います。暗点の周囲は見えていることが多いです。硝子体黄斑牽引症候群近視性牽引黄斑症が悪化して黄斑剥離黄斑円孔が生じたときや黄斑出血で中心暗点を生じます。

3. ぼやける

ものがぼやけて見える原因はさまざまですが、黄斑の病気でもぼやけてみえることがあります。硝子体黄斑牽引症候群近視性牽引黄斑症黄斑出血では、程度によっては中心暗点とまではいかずぼやけることで始まることがあります。

黄斑の病気に早く気が付く方法

筆者が研修医の頃は、黄斑の病気は治療法がなく難病でした。しかし、その後、手術の発展、新生血管を抑える薬物治療の発展により、多くの黄斑の病気が治療できるようになりました。まさに隔世の感があります。

しかし、発見が遅れたり、治療を逡巡していると、悪化させてしまい黄斑の破壊が進み、視力の回復が悪くなります。大切なのは、早期発見です。早期発見に役立つ症状は、上記の変視症と中心暗点とぼやけです。初期の段階では、良い方の目の見え方にマスクされて、気が付きにくいことがありますので、一工夫が必要です。

変視症と中心暗点に気が付く方法

1. おかしいと感じたら片目ずつでカレンダーなどを見てみる

良い方の目によりマスクされてしまい気が付かないことがあるため、反対側の目を手で隠して、片目だけでカレンダーなど格子状のものを見てみると変視症や中心暗点に気が付きやすくなります。

2. アムスラーチャート

格子状の図のことです。ネットで「アムスラーチャート」と検索すると図がでてきますので、いつでも検査可能です。アムスラーチャートを使って片目ずつ調べると変視症や中心暗点など黄斑の異常に気が付きやすくなります。

40歳以降は定期的に黄斑の状態をOCTで見てもらおう

黄斑の病気は数分でできるOCT検査ですぐわかります。40歳以降、すなわち後部ぶどう腫の形成が進む年齢では、定期的に眼科でOCT検査を受けて黄斑の状態を把握することがおすすめです。

OCT画像を見せてもらって、硝子体の状態、後部ぶどう腫の状態、網膜の状態、脈絡膜の薄さなどを自分でも把握しましょう。リスクが低い方は数年に1回、リスクが高めの方は半年~1年に1回程度の検査が望ましいでしょう。知ることが健康への第1歩です。

近視も緑内障も黄斑疾患も見える眼底検査OCT、ご存じですか?

近視から派生する眼の疾患を知る

ピックアップ近視進行抑制治療が受けれるクリニック