まぶたが下がる?ドライアイや眼精疲労に間違われやすい「眼瞼けいれん」
睡眠薬や向精神薬を服用中の方は要チェック

屋外がまぶしい、目の周辺が不快、目が乾く、異物感があるなど、目の不快な症状が辛くて眼科を受診し、ドライアイや眼精疲労と言われ目薬が出たけど、なかなか治らないという経験はございせんか?もしかすると、「眼瞼けいれん」という病気なのかもしれません。一般にあまり知られておらず、眼科医も気が付かないことが多い隠れ疾患ともいえる「眼瞼けいれん」。ストレスでなかなか寝付けず睡眠薬を常用されている、あるいは常用していた方は要チェック。「眼瞼けいれん」の3割は、お薬の副作用であることもわかっています。人知れず悩んでいるあなたへ、まぶたがあきにくくなり、目の神経過敏症状を伴う「眼瞼けいれん」ではないか、要チェックです。
眼瞼けいれんとは?
眼瞼けいれんは、全身のさまざまな部位に起きるジストニア(dystonia)という病気の1つと位置付けられます。ジストニアとは、身体のいくつかの筋肉が不随意に持続収縮し,捻れや歪みが生じる神経疾患です。わかりやすい例では、書痙があります。書く動作をすると手や腕の筋肉が異常に収縮し、筆記が困難になる病気です。
眼瞼けいれんの症状が招く誤解という問題点
「眼瞼けいれん」と聞くと、まぶたがぴくぴくと痙攣(けいれん)するイメージを持つ方が多いと思います。しかし、実は軽症例では、まぶたのけいれんを自覚しないことが多いのです。むしろ、屋外がまぶしい、目の周辺が不快、異物感がある、目が乾く感じなどの感覚過敏の症状の方を強く自覚されやすいのが特徴です。
実は、この眼瞼けいれんの自覚症状の複雑さが2つの問題を起こしています
1. 「眼瞼ミオキミア」と誤解されやすい

明らかにまぶたがぴくぴくとけいれんするのを自覚する病気は、「眼瞼ミオキミア」と呼ばれる別の病気です。まぶたにある眼輪筋という筋肉が自分の意思とは関係なく攣縮している状態です。眼瞼ミオキミアは、眼瞼や眼瞼に関係する中枢神経が健康な方でも起きる症状です。眼精疲労、睡眠不足、肉体的精神的疲労、ストレス、カフェインの過剰摂取などさまざまな原因によって起きると考えられています。眼瞼ミオキミアの症状は、通常まぶたのぴくぴくとするけいれんのみで、開瞼を妨げることはなく、数日から数週間で自然に治まります。
問題は、ミオキミアという医師でも覚えにくい病名でまぶたがけいれんすることを想起できないことです。ギリシャ語からきています。「myo-(ミオ-)」=「筋肉」、「-kymia(キミア)」=「波」や「うねり」なんです。一方、眼瞼けいれんは、わかりすぎるほどわかりやすい病名であるのに、その意味するところのまぶたのけいれんを自覚することが少ないというギャップのため、混乱を招いています。
2. ドライアイや眼精疲労など他の目の病気と間違われやすい

もっと問題なのは、眼瞼けいれんは、軽症なうちは、目が乾く感じ、異物感、目の周辺が不快などの感覚過敏症状が主な症状であるがゆえに、ドライアイや眼精疲労など日常ありふれた目の病気と診断されやすいことです。まばたきは目の表面をうるおす大切な働きがあるため、まぶたの開閉がうまくいかなくなると目の表面の潤いが損なわれてドライアイや眼精疲労の症状がでることは間違いないと思いますが、原因がまぶたの開閉不全にありますから、通常のドライアイや眼精疲労の点眼治療や生活指導だけでは十分な効果がみられないことが多いのです。それだけではなく、次第に目が開けづらい症状が進行すると日常生活や仕事に支障をきたし、quality of visionとquality of lifeが低下します。最終的には目を開けることができなくなり機能的失明状態※になることもあります。
眼瞼けいれんは、日常的な目の病気に潜む隠れた深刻な疾患なのです。後述しますボツリヌス療法とう保険適応になっている効果的な治療がありますので、なんとか診断の光を当てる努力が大切です。
※機能的失明状態とは、眼球が健常で視力が保たれていても、まぶしさや目の開閉困難などにより、実質的に視覚を活用できない状態を指します。
眼瞼けいれんは誰に起きる?
通常の眼瞼けいれん、40歳以上で発症し女性の方が男性よりも2~2.5倍以上多いことがわかっています。また、40歳以下の若年では薬物性使用歴が多いことがわかっています。すなわち、睡眠導入薬や抗不安薬などの向精神薬の内服歴やあることが多いのです。さらに抑うつ、不安、不眠など精神症状を持つ人も半数近くあり、うつ病などと間違えられることもあります。これに関しては、眼瞼けいれんが精神症状の原因となっている可能性と精神疾患が眼瞼けいれんの発症に関連する可能性(向精神薬内服を含めて)が考えられますが、まだはっきりしたことはわかっていません。症状の軽い人を含めると、日本には少なくとも30~50万人以上の患者さんがいると推定されています。
睡眠薬や向精神薬の成分を要チェック!

眼瞼けいれんの3割程度は睡眠薬や抗不安薬に使われるベンゾジアゼピン系の薬物によるとの調査結果もあり、「ベンゾジアゼピン眼症」の診断名が提案されているほどです。日本では、内科や精神科でベンゾジアゼピン系の睡眠薬が安易に処方される傾向が強く、医師の間でも眼瞼けいれんについて認識を深める必要があります。ご自分が使用中の内服薬の成分にベンゾジアゼピン系のものが含まれていないかチェックして見ることをお勧めします。
眼瞼けいれんの治療は?
眼瞼けいれん治療の第1選択はボツリヌス療法(ボツリヌス毒素製剤の局所注射)です。眼瞼けいれんに対するボツリヌス療法は、多くの患者さんに有効とされています。
具体的には、70%以上の患者さんで症状の改善が見られ、効果は通常3~4ヶ月間持続します。症状が再発したら繰り返し注射します。日本では眼瞼けいれんに対する治療法として保険適用となっているのはボツリヌス療法だけです。他の選択肢として、内服薬および外科的手術などがありますが、効果や効果の持続性が不十分で、保険適応になっていません。ボツリヌス療法を中心として治療を進め、状況に応じて他の治療も用いていくことができます。
以下に、眼瞼けいれんの治療を列挙します。
眼瞼けいれんの治療法
- ◎ボツリヌス療法
眼周囲の皮膚にボツリヌス毒素Aを少量注射し、筋肉の過剰な収縮を抑える方法です。
- 〇遮光眼鏡の使用
羞明を軽減するために、特定の波長の光を遮断するレンズを使用します。
- 〇クラッチ眼鏡
まぶたを押し上げるように設計された特殊な眼鏡で、開瞼を助けます。
- 〇手術療法
ボツリヌス療法が効果不十分な場合、眼輪筋の一部を切除する手術が検討されます。
自分でも気づくことが大切

眼瞼けいれんが持っている問題点をお伝えしてきました。眼瞼けいれんは、ボツリヌス療法という効果的な保険治療が存在します。つまり、診断さえつけば、コントロール可能な病気なのです。しかし、実際は眼瞼けいれんと診断がついていない方が多いという現実があります。医師の目にも日常的な目の病気の中に隠れやすい病気であるからです。医師も眼瞼けいれんの認識を深め診断率を上げる努力が必要であるとともに、患者さんも、もしかしたらと眼瞼けいれんを疑ってみることが、この隠れ疾患に光を当て診断率向上に役に立つのではないかと考えます。
最後に眼瞼けいれんの自覚症状のリストを掲載します。他の目の病気でも起きる症状が多いものの特異度が高い症状もあります。そしてとにかく目が辛いという感覚が強い病気です。いくつもの症状に心当たりがあれば、一度眼科で診察を受けご相談ください。
眼瞼けいれんの自覚症状リスト
◎=特異度が高い、〇=特異度が比較的高い、△=特異度が低い
- 〇瞬目増多,眼瞼の軽度けいれん
早期から眼の違和感で始まることが多く、やがてまばたきの瞬目回数が増え、眼瞼の軽いけいれんを感じることもある。
- ◎開瞼困難
程度はさまざまだが、まぶたを開け続けることが難しい。「目が開きにくい」、「目を開けているのがつらい」、「目が自然に閉じてしまう」、「目を閉じていたほうが楽」などの訴えがある。この症状のため、実際に歩行中に眼を閉じてしまい人や電柱に衝突することがある。自動車や自転車を運転中に目を閉じてしまい事故を起こすことさえある。進行した場合は、ほとんどまぶたを開けることができず、そのために見えなくなる(機能的失明という)。
- △羞明感
羞明感とはまぶしさのこと。大部分の患者さんで明所,特に屋外での強いまぶしさを訴える。そのため外出の際にサングラスを装用している人が多い。軽症の場合は、羞明のみを感じることもある。
- △眼瞼下垂
真の眼瞼下垂との区別が重要。眉毛は下降していることが特徴。
- △目の不快感・異物感・眼痛
初期にしばしば訴える症状。「目がうっとうしい」,「目がごろごろする」、「目に何か入っている」、「目がチクチクする」など。
- △目の乾燥感
約半数の患者さんがで「目が乾く」と感じる。
- △流涙
約 1/3の方が流涙を訴える。
- △頭痛,耳鳴,肩凝り,抑うつ,焦燥感
まれではあるが,頭痛や眼窩痛,耳鳴、精神神経症状として抑うつ,焦燥感を自覚することもある。