近視が強くても矯正できるICLをご存じですか?
レーシックの欠点を補うICL
近視で苦労されてきた方は多いと思います。メガネは顔に負担をかけます。また、コンタクトレンズは目に負担をかけます。何もつけずにスカッと見たいなと思ったことがある方は少なくないはずです。近視が強い方ほど、その想いは強いかもしれません。メガネやコンタクトレンズの負担やわずらわしさから解放されたい方が選べる治療が、屈折矯正手術であるレーシックとICLです。レーシックとICLは、ともに歴史があり現在では完成度の高い屈折矯正手術です。ネット上ではレーシックとICLのメリット・デメリットを比較した記事があふれています。自分はどちらが向いているのかと悩まれる方も多いと思います。本記事では、さまざまある近視矯正法の中でのICLの位置づけに着目して、ICLが持つ決定的な強みにフォーカスを当ててみたいと思います。
ICLって何?~さまざまある近視矯正法におけるICLの位置づけ

現在普及している近視矯正の方法を大きく分けると、
- 1. レンズの力で屈折を弱める方法
- メガネ:ご存じ「メガネ」。レンズは目の外。
- コンタクトレンズ:ご存じ「コンタクトレンズ」。レンズは、目の表面に装着。
- ICL:レンズを目の中に固定。
- 2. 角膜を加工して屈折を弱める方法
- オルソケラトロジー:夜間コンタクトレンズで角膜を平たんに加工
- レーシック:レーザーで角膜を薄く加工
の2つに分けられます。
レンズを用いる方法と角膜を加工する方法の主なメリット・デメリット
レンズを用いる方法と角膜を加工する方法の主なメリット・デメリットを簡単に見てみます。各方法の細かいメリット・デメリットは別記事を参照してください。
レンズであるゆえのメリットとデメリットがあります。
カテゴリ | ポイント | 説明 |
---|---|---|
メリット(共通) | 度数の自由な選択 | 強度近視や強度乱視にも対応できる柔軟性がある |
調整が可能 | 度数が変化した場合でもレンズを交換するだけで合わせ直しができる | |
可逆性 | 元にもどせる。ICLも取り外し可能で元の状態に戻せる。 | |
デメリット(レンズにより異なる) | メガネ | 装着の不便 |
コンタクトレンズ | 衛生管理が必要 | |
角膜や結膜のトラブルリスクあり | ||
ICL | 内眼手術が必要 |
カテゴリ | ポイント | 説明 |
---|---|---|
メリット(レンズにより異なる) | レーシック | ICLよりも安価である |
オルソケラトロジー | 夜間のレンズ装着をやめれば元に戻る。つまり、可逆性である。 | |
デメリット(共通) | 矯正度数に限界がある | 角膜を削ったり、平たんにするなどの角膜の加工には限界があり強い近視には対応できない |
デメリット(レンズにより異なる) | レーシック | 角膜を削るため手術後に元の状態には戻せない 削りすぎると角膜が眼圧に弱くなる |
オルソケラトロジー | 夜間レンズ装着による角膜や結膜のトラブル |
強い近視に強いICL、強い近視に弱いレーシック

こうしてみてくるとレンズを用いる近視矯正は、レンズパワーを強めることが容易であるがゆえに、強い近視でも同じように矯正できるという共通のアドバンテージがあることがわかります。メガネ➡コンタクトレンズの発展形ともいえるICLも、そのアドバンテージを有しています。
一方、レーシックは角膜をレーザーで削り薄くすることにより、角膜の屈折力を減らして近視を治します。つまり、近視が強いほど、削る量が増えます。しかし、削る量に限界があり、削りすぎて角膜が過度に薄くなると、さまざまな問題が現れてきます。一般的には、目安として-6ジオプター(屈折の単位)を超える強い近視には推奨されていません。
レーシックとICLは、それぞれ一長一短あるものの近視が強くない方にとっては、どちらも良い選択肢と思います。しかし、近視が強くなるほどレーシックに対してICLの優位性は高くなると言えます。
レーシックで角膜を削りすぎたときの角膜の持つリスク
- 角膜拡張症(Ectasia):過度に角膜が薄くなることで構造的に弱くなり、眼圧に耐えられなくなって角膜が徐々に前方に膨らむ病態。症状は、乱視の悪化、視力低下、光のにじみなど。最悪の場合、角膜移植が必要になることもある。
- 近視の戻り(Regression):術後に視力が改善したが、時間とともに近視が戻り裸眼視力が低下する。角膜拡張症と原因は同じで軽症タイプ。
- 光学的な問題(ハロー・グレアの悪化):角膜を削る量が多くなると、角膜の形状が不均一になる傾向が高まり、夜間に光がにじんだり(ハロー)、まぶしさを感じる(グレア)。
- 再手術の制限:時間とともに近視や乱視が変化して再手術が必要になることがあるが、すでに角膜を大幅に削っているため、さらに削る余地がなく、再手術ができなくなることがある。
ICLが治療できる近視の強さは?
実際にICLが治療可能な近視は、-3ジオプター~-18ジオプターの近視です。かなり強い近視があっても治療可能であることがわかりますね。因みに、乱視も-4.5ジオプターまで矯正可能です。繰り返しになりますが、レンズパワーで矯正するがゆえのメリットです。
ICLに向いていない目はレンズの厚みの影響のため

レンズは度数を自在に変えて強度近視に対応できるメリットがあることがわかりましたが、一方レンズには欠点もあります。レンズには厚みがあることです。このため、ICLに向かない人もいます。
ここで、ICLを入れる場所を説明します。ICLを入れる場所は、虹彩と水晶体の間にある後房と呼ばれるスペースです。ここへ入れるためには、角膜と水晶体の間の前房と呼ばれるスペース内で大きなICLを固定する手術技術が必要になります。このため、この前房が浅いと手術操作が難しくなります。また、ICLが入ると、ICLの厚みのために虹彩が前の方に移動します。これにより、目の中の水分である房水の出口(隅角といいます)が狭くなります。前房が深い人は、この隅角も広いため、この影響は問題なく吸収できます。ところが、前房が浅いと、隅角に余裕がなく、ICLによりさらに隅角が狭まり、房水の流出を妨げて眼圧が上昇して緑内障になるリスクが想定されています。このため、前房深度が2.8mmを下回る目はICLの適応がありません。
角膜内皮細胞も余裕が必要

ICLは、有水晶体眼内レンズの1つです。後房に入れるため後房型有水晶体眼内レンズとも言われています。有水晶体眼内レンズのもう一つのタイプが、虹彩の前、すなわち前房に固定するもので、前房型有水晶体眼内レンズです。有水晶体眼内レンズの歴史の中で、前房型有水晶体眼内レンズを使用した場合、角膜内皮細胞が減少することがわかりました。角膜内皮細胞は、極度に減少すると角膜が腫れてしまい、見えにくくなり、角膜内皮移植が必要になります。
一方、後房型である現在のICLは7年程度の期間では角膜内皮細胞は減少しないことがわかっていますので、あまり心配はいりません。しかし、20年、30年の報告は無く長期的なリスクは不明なため、角膜内皮細胞が少なくて余力が少ない目は、念のため適応から外されています。
強い近視の方の選択肢
-10ジオプターを超える近視の方は、選択肢はICLのみになりますが、-6ジオプター前後の強めの近視の方は、レーシックもICLも可能です。また、レーシックの次世代型であるリレックススマイル法は、-10ジオプターまでの近視なら可能とされています。ご自分の近視の程度を理解したうえで、自分に合った屈折矯正手術を選択していただきたいと思います。
(参考資料)
屈折矯正手術のガイドライン(第8版)
- ICLの手術に適した人の目安
- 年齢:原則として21~45歳とする.水晶体の加齢変化を十分に考慮し,老視年齢の患者には慎重に施術する。
- 屈折矯正量:近視度数が-3D以上のすべての近視(ただし、-3D以上-6D未満の中等度近視と-15D以上の強度近視は慎重適応)。
- ICL手術実施が禁忌とされるもの
- 活動性の外眼部炎症
- 白内障(核性近視)(水晶体に混濁あるいは亜脱臼などの異常がある場合を含む)
- ぶどう膜炎や強膜炎に伴う活動性の内眼部炎症
- 重症の糖尿病や重症のアトピー性疾患など,創傷治癒に影響を与える可能性の高い全身性あるいは免疫不全疾患
- 妊娠中または授乳中の女性
- 進行性円錐角膜
- 浅前房および角膜内皮障害