目の良い女性は気を付けて!

目の健康ブログ

近視のない女性に起こりやすい急性緑内障発作

ドキッとされたかもしれません。「自分は近視もなく目が良いと思っていたのに気を付けないといけないことがあるなんてどういうこと?」と思う方もいるでしょう。実は、目の良い人、特に女性には中高年期に経験するかもしれない重大な目の病気のリスクがあります。「急性緑内障発作(きゅうせいりょくないしょうほっさ)」です。急性緑内障発作は、発症すると耐えがたい痛みに苦しむうえ、治療が遅れると失明します。しかし、発症するまでは痛みなどの症状があまり無いため、自分では気づくことが難しいのです。近視がない目の良い方の中年期以降に待っている目のリスクをお伝えします。

突如起きる激しい痛み

眼圧(※)の急上昇が原因で、突然の目の激痛と激しい頭痛こめかみ付近の痛みが生じます。また、吐き気や嘔吐が現れます。さらには、ぼやけて見えるようになります。特に、目と頭の痛みは、持続的かつ激烈で、日常生活が困難になるほどの痛みです。

※眼圧は眼球の持っている内圧です。自動車のタイヤの空気圧をイメージください。正常は、10mmHg~21mmHgです。mmHgは圧力の単位で、血圧の単位としてよく知られています。

失明のリスクがある

急性緑内障発作が続くと、眼圧の程度により異なりますが数日で失明します。眼圧がとてつもなく高い場合(70 mmHg~測定不能)は1~2日で失明することもあります。眼圧がとても高い場合は自宅で我慢することはできませんので、その日のうちに医療機関を受診されることがほとんどです。このため、眼科診療レベルが高い日本では適切に治療が行われて失明まで至ることはほとんどありません。

しかし、稀に起きるのですが吐き気や嘔吐で間違って内科受診して時間を失ってしまうリスクには注意したいところです。また、重い認知症の方で正確に痛みの状態を伝えられない方は、周囲が気が付いて眼科医が診たときには手遅れのことも経験しますので、関係される方々には知っていただきたい事柄の1つです。

緑内障には房水の出口が広い緑内障と狭い緑内障がある

緑内障には多くの種類があります。大人の緑内障で1番多いのは、原発開放隅角緑内障(正常眼圧緑内障が約92%を占める)(3.9%)です。そして、2番目に多いのは、急性緑内障発作が含まれる原発閉塞隅角緑内障(0.6%)なのです。
病名を見て難しく感じられたかもしれませんが、意味することは簡単なことです。目の中の水分(房水といます)の出口である隅角という場所が広いのが原発開放隅角緑内障で、隅角そのものが狭くなる、あるいは塞がって房水の流出が妨げられ眼圧が高くなるのが原発閉塞隅角緑内障です。「原発」の意味するところは、他の目の病気に続いて起きる「続発」緑内障ではないということです。

原発閉塞隅角緑内障は急性と慢性がある

原発閉塞隅角緑内障のなかで急性に眼圧が上昇するタイプ(個人差はあるが50mmHg以上)が急性原発閉塞隅角症、すなわち急性緑内障発作です。
一方、目の痛みが生じるほどの眼圧までは高くならないが、30mmHg~40mmHg程度のマイルドな高眼圧が何年も持続して徐々に視神経が障害され視野障害が進む慢性閉塞隅角緑内障もあります。急性緑内障発作の治療がやや遅いと発作の治療後に慢性閉塞隅角緑内障になることもあります。

原発閉塞隅角緑内障は女性に多い

原発閉塞隅角緑内障は表のように女性が男性の3倍なりやすいのです。40歳以上の女性の100人に1人がかかる病気と言えます。同様に、急性緑内障発作も女性がなりやすい病気です。

病型別有病率(%)

病型 男性 女性
原発開放隅角緑内障(広義) 4.1 3.7 3.9
原発閉塞隅角緑内障 0.3 0.9 0.6
続発緑内障 0.6 0.4 0.5
早発型発達緑内障 0.0 0.0 0.0
5.0(3.9-6.2) 5.0(4.0-6.0) 5.0(4.2-5.8)

(多治見スタディーより抜粋:緑内障疫学調査

水晶体の肥厚が起こす急性緑内障発作~人の水晶体は加齢とともに厚くなる

人の水晶体は加齢とともに「1年あたり約0.02~0.03mm」程度の速さで厚くなっていきます。50年で1mm~1.5mm厚くなる概算になります。1mmと言っても、もともと3mm~4mmしかない水晶体にとって、この1mmの影響は大きいのです。このように水晶体が厚くなると虹彩を前に押して前房が浅くなるとともに、虹彩と水晶体の間の房水の流れが細ります。

水晶体肥厚の影響

房水の出口(隅角)が存在する前房が浅くなっていく:前房が浅くなると隅角も狭くなっていきます。

虹彩と水晶体の間の房水の流れが細っていく:水晶体の肥厚は虹彩とのすき間を狭め房水の流れを細めます。この流れが悪くなると房水は虹彩の後ろに渋滞して溜まります。すると、虹彩は図のように弓なりに膨らみ、さらに隅角を狭くします。

①と②が進んだ状態であるが、まだ虹彩と水晶体の間の房水の流れが保たれている状態を「閉塞隅角症」あるいは「狭隅角」と言います。この状態がさらに進むか、後で述べますが抗コリン作用のある薬を服用するなどのきっかけがあると、虹彩と水晶体の間の房水の流れが突然遮断され房水は行き場を失い虹彩は急激に膨らんで隅角を閉ざします。その結果、急激な眼圧上昇が起きます。これが急性緑内障発作の誘発メカニズムです。閉塞隅角症(狭隅角)のある目は、急性緑内障発作の予備軍なのです。

急性緑内障発作の危険因子

誰もが加齢とともに水晶体が厚くなるのですが、急性緑内障発作を起こすのは一部の人々です。もともと前房が浅い(隅角が狭い)という次の2つの条件がそろう人がリスクを持っています。

1.女性は房水の出口がある前房が比較的狭い

なぜ女性の方が男性より閉塞隅角緑内障になりやすいのでしょうか?個人差はありますが、女性は一般的に男性よりも眼球が小さく、前房が浅く隅角が浅い傾向があります。この目の構造的な違いが、女性に閉塞隅角緑内障が多い理由の1つと考えられています。

2.近視がない目は房水の出口がある前房が比較的狭い

近視がない目とは、正視あるいは遠視です。近視は成長期に眼球が前後に伸びすぎた状態でしたね。つまり、近視が強くなるほど房水の出口である隅角が存在する前房も深くなる傾向があります。逆に、正視あるいは遠視があると、前房は浅くなる傾向があるのです。

近視について知る

【まとめ】急性緑内障発作を起こしやすい3つの因子

ここで急性緑内障発作を起こしやすい方の属性をまとめます。近視がない、すなわち遠視か正視の方で、若い頃からメガネを使わなくても良く見えていた女性が、中高年期になったときに発症するリスクが高い傾向があります。

急性緑内障発作になりやすいかどうかは眼科ですぐわかる

近視がない女性であるからといって全員が急性緑内障発作になるわけではありません。急性緑内障発作のリスクのない目の良い女性の方も多いです。では、どう見分ければ良いでしょうか?答えは、眼科受診です。眼科で診察室に入ると医師の手前にある細隙灯という顕微鏡検査機器をご存じですか?患者さんは、椅子に座りあご台に顔を乗せます。すると、医師は光を当てて目を拡大して観察します。細隙灯顕微鏡検査は、目のさまざまな情報がすぐにわかる優れものです。患者さんが急性緑内障発作を起こしやすいかどうか?言い換えると閉塞隅角症(狭隅角)であるかどうか?は2秒でわかります。

でも、急性緑内障発作は起こすまで自覚症状がないことが多いのでしたね。実際、結膜炎とか老眼鏡処方など、他の理由で眼科受診をされて閉塞隅角症(狭隅角)が見つかることがほとんどです。ということは、眼科受診する機会があれば、その時に医師に自分は閉塞隅角症(狭隅角)かどうかを尋ねるのがベストの方法と思います。
なかには、目が良くて眼科にはとんと縁がないという方もおられます。目が良い方は老眼の症状が早く現れますから、そのタイミングを利用してはどうでしょうか?

急性緑内障発作になりやすいと言われたらどうする?

あなたは急性緑内障のリスクがあると言われたら、どうすれば良いのでしょうか?まとめます。

1.予防治療を受ける

隅角が相当狭くなり急性緑内障発作を起こすリスクがかなり高いと思われた場合は、予防治療を勧められます。予防治療には2つあります。先述したように、急性緑内障発作になりやすくなるのは、2つの危険因子がること、すなわち、①前房が浅いこと、②虹彩と水晶体の間の房水の流れが細ることでしたね。この2つのどちらかを解除してリスクを無くせば良いのです。

①レーザー虹彩切開術

虹彩の周辺部位にレーザーで小さな孔をあける治療です。虹彩と水晶体の間の房水の流れが遮断されても、房水はこの孔から迂回して流れることができるため急性緑内障発作を100%予防できます。しかし、慢性閉塞隅角緑内障が進んでいくリスクは残ります。

②白内障手術

年齢とともに水晶体が厚くなり虹彩を前に押して前房が浅くなると同時に虹彩と水晶体の間の房水の流れが細るのでしたね。つまり、極論を言えば、水晶体が厚くなることが急性緑内障発作を引き起こすのです。白内障手術では、厚い水晶体(厚み4~5mm程度)を薄い眼内レンズ(1mm程度)に入れ替えますので、急性緑内障発作を起こす原因(=水晶体が厚いこと)が完全になくなります。白内障手術により、前房は深々となり、虹彩と眼内レンズの間には広い空間ができます。白内障手術は急性緑内障発作も慢性閉塞隅角緑内障も100%予防できる完全治療なのです。

しかし、白内障が軽く視力も1.0以上あり、まだ白内障手術の必要性が全くない方にはどうすれば良いかは眼科医の悩みの種です。そのような場合でも、急性緑内障発作のリスクが高いと思われたら、白内障手術を行う場合があります。白内障手術の安全性が高く、急性緑内障発作の目へのダメージが大きいことが判断の決め手になります。

2.予防治療を受けるまでに気を付けること

前房は浅めで隅角は狭い傾向があるが急性緑内障発作をすぐ起こすほどではない場合は、予防治療を行わず様子を見る場合があります。この場合は、日常における2つの注意点があります。

①抗コリン作用のあるお薬に注意

抗コリン作用のあるお薬は、瞳を広げて隅角を狭くしたり、虹彩と水晶体の間のスペースを狭める作用があり、急性緑内障発作を誘発するリスクがあります。市販薬の風邪薬、抗アレルギー薬、睡眠薬などに抗コリン作用のある成分が含まれることがあり、医療機関で用いられる薬剤でも消化器系薬、気管支拡張薬、抗うつ薬、抗精神病薬、抗パーキンソン薬、手術や胃カメラの際の麻酔薬など幅広い薬剤が抗コリン作用を持ちます。その数100種類以上と言われています。

薬局でお薬を買う時は必ず添付文書を見て「(閉塞隅角)緑内障の方は禁忌」とあれば、薬剤師に抗コリン作用はなく類似効果のある代替薬を探してもらいましょう。医療機関で投薬を受けるときは、かならず主治医に急性緑内障発作のリスクがある目であることを伝えましょう。

②暗闇で長時間下を向かないこと

人の目は暗いところでは瞳が開きます。下を向くと水晶体が少し前方に移動して虹彩を押します。この2つの作用が同時に働くと隅角を狭くしたり、虹彩と水晶体の間のスペースを狭める作用が強まります。このため、暗いところで長時間下向きを続けると急性緑内障発作になることがあります。昭和の時代なら、夜なべして手袋を編んだおばあちゃんに起きていました。令和の時代では、何でしょう?スマホでしょうか?

「知る」ことで「防ぐ」

この記事を読まれた目の良い女性は不安を覚えられたかもしれません。その不安が大事です。健康でまず大切なのは「知ること」です。不安が行動力を生みます。眼科では2秒でリスクが分かります。眼科で診察を受けて、「防ぐ」あるいは「安心する」を受け取ってください。

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