就学前から近視を強めないライフスタイルを身につけようPart.2

目の健康ブログ

デジタル時代に負けない近視予防のライフスタイル

近視予防に立ちはだかるデジタルの壁

親、特にご両親ともに近視の場合、子供の近視は早く進み、強い近視になりやすいことがわかっています。しかし、こうした遺伝の影響以上に子供時代の生活環境(ライフスタイル)が強い影響を及ぼすことがわかってきました。
前回の記事では、60%以上の子どもが小学校に入学したときにはすでに近視であるという東京都内の調査報告を紹介しました。
この結果は、就学前から近視に関心を持っていただき、近視を加速させないライフスタイルを身に付けることが必要であることを、ものがたります。
そして、その近視を加速させないライフスタイルは次の2つが中心となります。

近視予防のライフスタイル

  • 屋外で過ごす時間を十分とる
  • デジタルデバイスを見る距離を30cm以上に離す

しかし、まさに「言うは易し」です。デジタルデバイスに囲まれて育つ現代の子たちにとって、このライフスタイルを身に付けることが簡単ではないことが容易に想像できます。
近視が加速して強い近視になると、人生に目の病気の苦難や失明が待ち受ける可能性が高まります。
今回は、デジタル時代のライフスタイルに向かい合い、どうすれば近視の進行を加速させないライフスタイルを就学前の子供に身に付けさせることができるかを考えてみたいと思います。

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近視は、古い考えでは闘えない

1995に始まったインターネットの普及は、たちまちのうちに我々の生活や考え方を変えていきました。昭和生まれの私の世代はインターネットがない生活を知っていますが、今の子供たちは、生まれた時からデジタルデバイスに囲まれ、インターネットにつながっています。α(アルファ)世代といわれています。そして、その親もデジタルやITの普及とともに成長したミレニアル世代です。
もはや、医学もそれ以前の古い考えでは足りない部分が生じてきており、今の時代のライフスタイルに密着して医学を発展させていく必要があると感じています。近視はその代表といえます。

デジタル社会の申し子たち、α世代

α(アルファ)世代は、2010年代序盤から2020年代中盤にかけて生まれた世代を表す言葉です。オーストラリアの世代研究者、マーク・マクリンドル氏が2005年に提唱しました。 現在の就学前から小学生、中学生までの子らがα世代になります。まさに、近視が進む年齢に相当しています。
α世代は生まれながらにインターネットネーティブ、さらにはAI(人工知能)が一般化しつつある環境に育つAIネーティブといえます。こども家庭庁の調査では、2歳児の60%近くがインターネット(主にYouTube)に親しんでいます。5歳児になると、80%近くに増えます。

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α世代のライフスタイル

インターネットを通して世界中の情報とつながり、自宅でいろいろな体験が簡単に得らます。私の子供時代はテレビしかありませんでした。TV時代とデジタル時代の典型的な違いを子供の視点でまとめてみます。

TV時代 デジタル時代
台数(一世帯) 平均1~2台 複数
個人持ち可
移動性 移動不可 どこでも
視聴可
子供向け番組 少ない
選べない
多い
自由に選べる
画面サイズ 大きめ 小さい

こうしてみると、デジタル時代の子供たちは、画面の小さいデジタルデバイスに親しみやすい環境にいることがわかります。就学前から子供専用のスマホを所有する家庭が8%強あります。インターネット視聴時間も長くなり、就学前の通園中の子供が一日に2時間以上視聴している家庭が40%を超えています。

α世代のライフスタイルが近視へおよぼす影響

インターネット(YouTubeやゲーム)の視聴時間が長くなるほど近視が加速すると考えられます。
その理由は次の通りです。

インターネット視聴時間と屋外時間は相反関係

まず、インターネット視聴は屋内ですることがほとんどですので、その分、屋外で過ごす時間は短くなります。

近くなるデジタルデバイスと目の距離

次にデジタルデバイスと目の距離が近いと近視を加速します。問題は、画面のサイズです。筆者が子供の頃のTVは今ほど大画面ではありませんが、それでも1m以上離れて見ていました。
しかし、デジタルデバイス、特にスマホ、は画面が小さいため顔を20cmくらいに近づけて見がちです。20cmで見ると30cmよりも1.5~2倍で近視進行が加速すると考えられています。

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α世代の親は、ミレニアル世代

α世代の親の多くは1980年代~1995年頃に生まれたミレニアル世代です。ミレニアル世代はITが急速に普及する中で育ち、デジタルネイティブの始まりとも言われています。
α世代の子たちは、親がスマホでYouTubeやSNSを楽しむのを見ながら育ちます。楽しそうに視聴している親を見ると、それは良いことと感じ、親の真似をしてデジタルデバイスに親しんでいきます。親も、子がスマホを触ることに違和感を持たない方が多いと思います。

気付かない間に始まっている、子どもの近視

出産してから子供を育てるのはたいへんなことです。身体の発育、言葉の習得、友達関係など、さまざまなことに気をもみながら見守り、親子関係を築いていきます。近視は、その膨大な気がかりの1つに過ぎないかもしれません。
目に関して、就学前の子の親が気にして受診するのは、近視より結膜炎です。症状のない近視より、痛かったりかゆくて目をこする結膜炎の方が、親は心配になります。
しかも、子供は多少近視が始まっていても見にくいと訴えることは少ないという問題があります。なぜなら、子供は調節力が大人より強く、多少近視になっていても、調節してピントを合わせて見えてしまうからです。そして、就学時検診や就学時検診で視力が下がっているのを知って驚かれることが少なくありません。就学前から近視が始まっていても気が付きにくいのです。

3歳児健診は近視予防教育の好機だが・・・

3歳児健診をご存じの方は多いと思います。子どもの発達状況を確認し、障害や疾病を早期発見することを目的としています。また、保護者への育児に関する指導や家庭との関わりの場を形成する大切な健診です。
3歳児健診では目の検査(視覚検査)も行われます。しかし、残念ながら近視に重点は置かれていません。なぜなら、この年齢の屈折異常は、遠視や乱視がほとんどで、視力の発達を妨げる強い遠視、強い乱視、不同視、斜視の発見に重点が置かれているからです。3歳児健診での目の検査の目的と意義は、視覚が正常に発達しているかを確認すること、発達を妨げる異常があれば弱視を防ぐために眼科へ紹介することにあります。
2歳以降に半数以上にインターネット視聴(主にYouTube)が始まり、年齢とともに増えていくα世代の子らは、まだ近視が始まっていない3歳児検診のタイミングでこそ、近視進行予防について親への啓蒙を行うことが近視を抑える高い効果を持つと思います。しかし、インターネット普及によるライフスタイルの変化に保健行政がまだ追い付いていないが現状です。

デジタル時代に最適な近視予防のライフスタイルとは?

アウトドアを習慣化


ここまで、デジタル時代の子供の近視加速を抑えることの難しさ、保健行政の遅れなど悲観的な分析を行ってきました。しかし、個人でも解決は可能です。逆を行えばよいのです。つまり、アウトドアの習慣化です。屋外活動を就学前から習慣化するのです。週14時間、日に2時間程度、屋外活動ができるともっとも効果的に近視を抑えることがわかっています。屋外と言っても日向である必要はなく、日陰でも効果があります。2時間は連続する必要が無く、つぎはぎでも構いません。2時間は目安と考え、それ以下でも構いませんので、ご家庭なりに少しでも長くアウトドアで過ごす習慣を付けましょう。屋外で過ごす時間が増えると、その分デジタルデバイスを見る時間は減ることが期待できます。

YouTube視聴やゲームはテレビ大のデバイスで


YouTube視聴やゲームは長時間になりがちです。このためYouTube視聴やゲームは大画面で行うことを習慣づけます。大画面であれば、20cmまで近づいて見ることはありません。タブレットはスマホよりましですが、30cm以上離して使用しましょう。

近視の対策と進行予防を知る

「言うは易し」保健行政のサポート実現へ

3歳児健診は近視進行予防について啓蒙する良いチャンスと申しましたが、個人に丸投げでは、実行がうまくいかないことが想像されます。子育てはたいへんだからです。そこで、保健行政のサポートも必要です。
「3歳から近視予防なんて早すぎるんじゃない?」という意見もあるかもしれませんが、幼児期についた習慣の影響は大きく、多くの場合、急に変えることは困難です。近視を加速させないための幼児教育を実行するための子育ての家族に密着している地方保健行政によるサポートが必要です。

アジアの国を参考に、日本の遅れを取り戻す

近視人口の増加は、アジアの国々に共通する社会問題です。中国、台湾、シンガポールでは、国に近視進行を抑える国家プログラムがあり、ランチの屋外化や屋外授業の増加を義務付けています。
それに比べると、日本は近視抑制の取り組みは実行が遅れていると認めざるを得ません。言い方を変えると、日本では、まだできることがあるということになります。まず、この問題を、幼児をもつ親御さんに知っていただき、多方面から多くの声が上がっていくことが必要と思います。

【まとめ】幼児期に屋外活動を習慣づけるための工夫

親、特にご両親が近視の場合は、近視を加速させないライフスタイルの工夫をひとつでも実行していただきたいと願います。また、国や保健行政が、時間はかかっても近視を加速させない生活環境を整備する方向に進んでいただきたいと願います。
以上を踏まえ、子供の近視進行を抑えるために親(個人)と国家行政ができる具体的な幼児期の取り組みを挙げてみます。他にもさまざま思いつかれると思いますが、行動を始めるきっかけになることを願います。

個人で工夫できること

  • 屋外スポーツを体験させる
  • 自然に親しむ遊びを体験させる
  • 週末など一緒に過ごせる時間は屋外で遊ぶ
  • 子ども向けの屋外イベントに参加
  • ペットがいる場合、散歩を日課とする
  • YouTubeは1時間までなど時間を決めて
  • 長時間になるYouTube視聴やゲームはテレビ大のデバイスで

国や保健行政ができる近視抑制幼児プログラム

  • 公共の遊び場や公園の整備・拡充
  • 屋外活動プログラムの企画・提供
    • 親子で楽しめる自然観察会、スポーツイベント、季節のフェスティバルなどを企画
    • ウォーキングクラブやアウトドアゲームなど、定期的に参加できるプログラムを提供
  • 保育園・幼稚園との連携
    • 屋外活動時間の拡大支援: 保育施設での屋外活動を増やすためのガイドラインや資金援助を提供
    • 屋外でランチを食べる園内スペース確保を支援
    • 教育プログラムの開発支援:屋外活動を取り入れたカリキュラムの開発や教材の提供
    • 職員研修の実施:保育士や教員に対する屋外活動の重要性や実践方法に関する研修
  • 保護者への啓発活動
    • 情報提供の強化:屋外活動のメリットや安全な実施方法を紹介するパンフレットやウェブサイトを作成
    • 子育て支援や健診での啓蒙活動
  • メディアを用いた啓蒙活動:テレビ、ラジオ、インターネットを通じて、広く情報発信

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