強い近視の人生行【2】働き盛りのできごと

目の健康ブログ

青年期から中年期にかけて

―登場人物―

  1. 会社員のGさん(30歳):「会社の検診で指摘され緑内障が見つかった」
  2. 会社員のTさん(40歳):「急に視界がふさがった(裂孔原性網膜剥離)」
  3. プログラマーのSGさん(45歳):「マウスポインタ―が時々消える~老眼と思っていたら緑内障だった」
  4. メガネを作ってもすぐ合わなくなるCさん(47歳):「ぼやけて見える~老眼と思っていたら白内障だった」

第1話「会社の検診で指摘され緑内障が見つかった」

ある日の場面

会社員のGさんは、30歳になったある日、会社の検診で緑内障が疑われ眼科受診となりました。眼底検査をすると左目が初期の緑内障であることがわかりました。結婚し子宝に恵まれたばかりのGさん。緑内障をネットで調べると、失明の可能性など恐ろしい言葉ばかりが目に入ってきて家族との生活に不安を感じました。

Gさん
「僕はまだ30歳ですが、こんなに若くで緑内障になるのでしょうか?」
先生
「近視が強い方の中には、Gさんくらいの年齢で緑内障が始まっている方がいます。」
先生
「Gさんの緑内障はかなり早期の段階です。むしろ、検診のおかげで緑内障を早期発見できてよかったと良い方に考えて下さい。初期から適切な治療を続ければ、なんとかなります。」
Gさん
「(ほっとした様子で)そうか、見つかってよかったんだ。」
先生
「そうです。緑内障は通常とてもゆっくり進みます。つまり、今すぐ見えなくなる病気ではなく、Gさんがお仕事をし子育てをされる年齢で見えなくなることはないので安心下さい。Gさんが、孫の顔を見る頃でもちゃんと見えることを守るのが緑内障の治療の目標です。」
Gさん
「(ますますほっとして)仕事と治療を両立させてがんばります。」
先生
「はい。では、Gさんの状態を説明します。まず、緑内障と言う病気は目と脳をつないでいる網膜神経線維が減っていき、視野に見えにくい場所が増えていく病気です。目と脳をつなぐファイバーが減ると思ってください。」
先生
「(GさんのOCT※の結果を見せながら)Gさんは、左目の網膜の上の方の中心に近い部分のファイバーが減っています。でも視野検査では、まだ異常が見つかりませんでした。つまり、かなり早期の段階です。」

※OCT: Optical Coherence tomography(光干渉断層計)の略。眼底の断層を画像化する検査機器。緑内障や黄斑疾患の診断や管理に用いられる。詳しくは➡ 画像検査

Gさん
「そんな早期で見つかってよかったです。」
先生
「はい。でも、油断は禁物です。もし緑内障が進んだとしたらGさんの場合は、左目で視野の下の方の中心近くに視野障害が出現することが予想されます。このあたりは生活でいちばん使う部位なので、十分に眼圧を下げていく覚悟が必要です。」
Gさん
「何をすればよいのですか?」
先生
「一言で言いますと、今の治療を開始るる前の眼圧から30%くらい下げる点眼薬の組み合わせを見つけ、それをずっと続けることです—」

先生の治療についての説明が滔々と続きました。
Gさんは、その時からどんなに忙しくても、眼科受診を欠かさず、緑内障点眼治療を続けています。

解説

近視が強いと14倍緑内障になりやすいという調査結果があります。近視が強くなるほど緑内障になりやすいと考えられています。

近視が強い方は、単に緑内障になりやすいだけではなく、働きざかりの30代や40代と比較的若い年齢で緑内障が見つかることがあります。緑内障を発症する年齢が若いほど、残りの人生が長いため、失明のリスクは高いと言えます。このため早期発見が何より重要とされます。

Gさんの緑内障の進行が速いかどうかは、まだわかりません。ほとんど進行しない人もいます。Gさんの視野障害が始まる予想部位が生活や仕事に大切な部位であることを念頭に置いて、定期的な検査で進行の速さを見ながら治療強度を調節して視機能を守っていきます。

✓緑内障についてもっと詳しく➡ 近視が強くなると緑内障になりやすいが早期発見が難しい

第2話「40歳のある日急に視界がふさがった(裂孔原性網膜剥離)」

ある日の場面

40歳のTさんは、会社に行く前に、突然目の前に虫のような影が見えるようになりました。気にしながらも出勤し、営業に回っていると何となく足元が見にくく感じ、やがて見えにくい範囲が広がりました。夕方になると右目がほとんど見えなくなり、びっくりして翌日眼科受診されました。眼底検査を行うと、右目に網膜剥離が見つかりました。

先生
「早く受診いただいたのは正解です。網膜の左上に裂け目ができて強く引っ張られて網膜が剥がれてきています。すでに視力を担当している黄斑が剥がれていますので、できるだけ早く手術を受けることをお勧めします。」
Tさん
「えっ、手術ですか!?明日出張が入っているんですけど・・・」
先生
「このタイプの網膜剥離は進行が速く、このまま仕事を続けると、剥離がどんどん広がり、剥離の丈も高くなります。そうなると黄斑の神経細胞がどんどん減ってしまい、手術で網膜剥離が治っても有用な視力に回復が難しくなります。」
Tさん
「どれくらい仕事を休まないといけないのですか?」
先生
「約1週間です。Tさんの目は、硝子体が網膜から離れているため、『硝子体手術』になると思います。目の中にガスを入れて手術の後1週間ほどうつむき姿勢で過ごしていただき、ガスが消えた後に網膜が元の位置に戻っていたら成功で、それからは、徐々に仕事を再開していただきます。手術を受けるまでの時間も、安静にして網膜剥離を広げない努力が必要です。」
Tさん
「今、1週間も休むのはきついな~」
先生
「私も仕事人間なので、よくわかります。でも、想像してください。このまま出張に行って、網膜剥離を悪化させて、手術の難度が上がり、1回の手術で治らず、2回以上の手術が必要になり、結局3週間仕事ができず、網膜剥離は治っても視力の回復が悪く営業のときの運転がやりづらくなる—。悪い方へころがっていく可能性が高いです。」
先生
「今日、緊急手術を行えば1週間後には仕事を再開できます。それが、もっとも近道なんですよ。」
先生
「視力の回復が悪くなると、仕事への影響があると思います。網膜剥離は、仕事年齢で突然やってくる交通事故のようなもの。気持ちを切り替え、治療に専念してください。そうすることで、もっとも仕事への影響を小さくできますし、早く元どおりの生活と仕事にもどれますよ。」

先生の説得は功を奏したようで、Tさんは出張をあきらめ、会社と奥様に電話して、緊急手術が必要になったことを伝えました。Tさんは、緊急で手術を受けて、網膜剥離は治り、元どおり元気に営業されています。

解説

近視が強い目が網膜剥離になりやすいこと、網膜剥離には20歳前後の若いときに起きるおとなしい網膜剥離30代~50代で急激に進む網膜剥離の2つのタイプがあることをHさんのエピソードで説明しました。Tさんが発症したのは、この急激に進む網膜剥離です。

青年期から中年期にかけて起きる網膜剥離は、目の中の「硝子体」の加齢変化が引き金になります。「硝子体」とは、目の中に充満する透明なゲル組織で網膜と接着しています。年齢とともに、硝子体に含まれる水分が減少し、硝子体は徐々に網膜から離れていきます。そしてある日、硝子体は網膜の中央部から完全に離れます。これを「後部硝子体剥離」と呼んでいます。「後部硝子体剥離」が起きると、濁りが目の中に浮かび、これが「飛蚊症」になります

「後部硝子体剥離」は、ほとんどの場合、網膜を傷つけずに起きまます。つまり、問題ありません。しかし、近視の人に多い格子状変性※など網膜に弱い場所があると網膜に裂け目が生じます。これを、「網膜裂孔」といいます。

※格子状変性とは、網膜周辺部の網膜組織が萎縮し、血流が減少して細かい格子状の模様が現れる病変です。網膜が薄く脆弱になることで、裂孔が生じやすくなります。

網膜裂孔は硝子体に引っ張り上げられているため、急速に目の中の水分が網膜の下へ流入し網膜剥離が進みます。

近視が強いほど硝子体の容積が減るスピードが速いため、強度近視の方は、30代~40代の比較的若年齢でも、このタイプの網膜剥離になります。

このタイプの網膜剥離は進行が速く、視力を司る黄斑まで剥がれると見えなくなってしまいます。Tさんは、1日でみるみる剥離が進み黄斑にまで及んでしまいました。年齢や剥離の丈にもよりますが、黄斑の中心部が剥がれてから5日以内に手術を行えば、良好な視力回復が期待できます。黄斑の中心が剥がれると歪んで見える後遺症が残ることがあります。働き盛りで発症する網膜剥離は、突然仕事を休まなければならないというストレスの高い状況を招きます。しかし、最善の結果を残すため、早く仕事に復帰するため、気持ちを切り替えて、できるだけ早く手術を受けることが重要と言えます。

✓網膜剥離についてもっと詳しく➡ 近視が強くなると網膜剥離発症リスクが増える

第3話「マウスポインタ―が時々消える~老眼と思っていたら緑内障だった」

ある日の場面

SGさんは、プログラマーで、一日中忙しくパソコンに向かって働いていました。40代になって、マウスポインタ―がなんとなく見えにくいと感じ始めました。最初はパソコン作業による目の疲れや老眼が始まったためかと思っていましたが、45歳のある日、マウスを動かすと見えていたマウスポインタ―が消えることがあることに気が付きました。心配になって眼科受診しました。告げられた病名は「緑内障」でした。視野検査を行うと、右目の視界の中心部付近に視野障害が認められました。

SGさん
「(涙ぐみながら)先生、マウスポインタ―が時々見えないんですけど、仕事ができなくなってしまうのでしょうか?」
先生
「今すぐ見えなくなる病気ではないのでご安心ください。ただ、SGさんの緑内障は視野の中心付近が障害されやすいタイプですので、進むと字が欠けて見えたりする恐れがあります。このため、目薬の種類を多めにしていき今の眼圧から30%以上下げていく必要があります。」
SGさん
「字が欠けて見えると仕事になりません。」
先生
「まず現状を正確に把握しましょう。左目は本当の中心部はまだ障害がなく、左上の中心近くに絶対暗点と言う見えない場所があります。しかし、他の3象限には障害がありません。つまり、まだ字はちゃんと見えますが、マウスを左上に動かしたときポインターが絶対暗点の部位に入ると消えると感じてしまうのだと思います。」
SGさん
「どうすれば良いですか?」
先生
「ポインターを大きく設定してみてください。ポインターの移動速度を遅くするのも良いかもしれません。」
SGさん
「何歳くらいまで仕事ができるでしょうか?」
先生
「本当のことは神様しかわかりませんが、さきほどお話ししたように眼圧を30%以上落とせれば、定年年齢までお仕事はできると思います。不幸中の幸いなことに、右目の視野は中心近くの障害がごく軽度です。ですので、両目で見れば左目の視野の弱いところはカバーされます。また、左目の絶対暗転は上の方なので、生活への影響は比較的小さいです。というのは、視野の下の方が上よりも仕事や生活で重要だからです。」
SGさん
「まだ、なんとかなるということですね?」
先生
「その通りです。それを実現するために、緑内障の治療をがんばっていきましょう。」

SGさんは、表情に決意が現れ、熱心に治療について質問をされ、うなずきながら医師の説明を聞きました。それ以降、医師の指示通り治療を続け、点眼治療を1日も欠かさず続け、仕事も継続されています。

解説

近視が強くなると緑内障になりやすくなることは、Gさんのところで説明しました。そして、働きざかりの30代や40代と比較的若い年齢で緑内障が見つかることがあることも述べました。

もう一つ気になる問題は、近視が強い人がかかる緑内障には、SGさんのように視野の中心付近から障害される方が、かなり存在することです。教科書的には、緑内障の視野障害は周辺から始まり、中心に向かって進むとされてきましたが、近視人口が増加している現代では、このパターンを取らない方が増えている印象です。40代で視野の中心付近が見えなくなると、仕事に支障が出て死活問題になります。

ここで、近視が強い人がかかる緑内障には、さらに困った問題があります。早期発見が難しいことが多いという事実です。SGさんは、おそらく30代から緑内障は始まっていたはずですが、今の会社の検診では眼底写真の項目がなく指摘を受けるチャンスがありませんでした。SGさんが、30代で眼科にかかりOCT検査※などを受けていたら、視野障害が出る前の極めて早期の緑内障を発見できた可能性があります。

※OCT検査:OCTは光干渉断層計(Optical Coherence Tomography)の略語。網膜の断層像を光で撮影する。緑内障の早期発見や黄斑疾患の診断・管理に有用な検査。 詳しくは ➡ 画像検査

このように近視が強い方が働き盛りで発症する緑内障はリスクが高いため、検診で早期発見につなげていくことが、もっとも効果が高い方法と言えます。

✓緑内障についてもっと詳しく➡ 近視が強くなると緑内障になりやすいが早期発見が難しい

第4話「片目が見えにくい~老眼と思っていたら白内障だった」

ある日の場面

Cさんは、もともと強い近視で不便な思いをしていましたが、この数年、近視がさらに進行し、毎年メガネのレンズの交換が必要なほどでした。夕方になると見えにくかったり、車の運転を危なく感じることが増えました。老眼のためと思っていましたが、47歳のある日、メガネ店の視力検査で近視を矯正しても右目の視力が低下していることがわかり、検査担当者から眼科受診を勧められました。

診察すると、水晶体の核の部分が黄色く濁っていました。白内障と診断しました。視力は矯正して、右 (0.9)、左(0.6) でした。眼底の精密検査では異常は認めませんでした。

先生
「白内障です。両目とも白内障で矯正視力が低下しています。」
Cさん
「まだ、40代なのに白内障だなんてびっくりしました。」
先生
「近視が強い方は、早く白内障が進む場合があり、30代、40代で白内障手術を受ける方もいます。」
Cさん
「(目を見開いて)えっ、手術ですか!?私も手術の必要がありますか?」
先生
「白内障の手術を受けるタイミングは、その方の年齢や仕事、ライフスタイルで異なります。ご自分が、普段の仕事や生活で見えにくくて支障を感じたときが手術のタイミングとお考え下さい。」
Cさん
「車の運転で見えにくくて怖いと思うことが時々あります。雨の日とかトンネルが怖いです。」
先生
「40代は、仕事や運転などアクティブな生活を送られているので、少し視力が低下しただけでも支障を感じる方が多いです。Cさんの白内障は、このように水晶体の核と言われる中心部分が黄色く濁っていますので、目の奥に届く光が減ってしまいます。このため光が少ない夕方や雨の日、そしてトンネルなどで見えにくくなります。」
先生
「事故を起こすと、ご自分や他人の身体や命を損なう恐れがありますので、車を運転されている方は、早めの手術をお勧めしています。」
先生
「Cさんは、これまで強い近視のために不自由を感じてこられたと思いますが、白内障手術はピントの合う位置を便利に変えられます。眼内レンズにより遠くや手前30cmくらいのスマホ距離をメガネなしで良く見えるようにできます。つまり、白内障が治るだけではなく、強い近視も便利に変えることができます。さらには、多焦点眼内レンズを選ぶと遠くも近くも良く見えて、メガネなしで生活できる可能性が高くなります。」
Cさん
「いいことだらけですね。考えてみようかな・・・」

先生の白内障手術の得失について説明が続きました。

Cさんは、両目に白内障術を受けました。手術は成功し、視力を取り戻しました。それどころか悩みの種であった強い近視が無くなり、メガネいらずの生活を送っています。

解説

ほとんどの人が高齢になると白内障になります。近視が強くなると5倍白内障になりやすいという調査結果がありますが、それは強度近視の方は白内障になる年齢が比較的若いということを意味します。実際、40代で白内障手術を受けている強度近視の方は多いです。

強度近視の方が40代で白内障が出た場合は、高齢で発症する白内障に比べて3つの特殊性があります。

1. 一般的に、40代で白内障になるのは、70代や80代で白内障になるより生活や仕事への影響が大きい。仕事やプライベートが活動的であるため。
2. 40代は老眼が始まっているが、まだ弱い老眼である。白内障手術をすると急に強い老眼になるため、近くを見るのを不便に感じる可能性が高い。
3. 片眼だけ視力が落ちているケースが多く、片眼だけ白内障手術を行い強度近視も治すと、術眼と非術眼の屈折差が大きくなり、メガネによる完全矯正が難しくなる。

この特殊性に留意して手術を計画すればCさんのように以前より快適な見え方を獲得できます。3つの課題の解決策をお示しします。

1. 白内障手術を受ける
2. 遠方と中間距離(1mくらい、パソコン距離)と近方(30~40cm、スマホ距離)にピントが合う多焦点眼内レンズを選択する
3. 両眼の白内障手術を受ける

白内障手術は濁りを取るだけではなく屈折矯正手術でもあります。強度の近視を治すことができますが、両眼の屈折をそろえてこそ快適に見えるのです。

✓さらに詳しくは ➡ 40歳以降にメガネがすぐ合わなくなったら白内障かも

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